杜崎まさかず【掌編刑務所】

小説の練習と称して、友人にLINEで送り付けていた掌編小説や短文に罪を償ってもらうため…

杜崎まさかず【掌編刑務所】

小説の練習と称して、友人にLINEで送り付けていた掌編小説や短文に罪を償ってもらうためのアカウントです。 毎週土曜日、刑務所にぶち込みます。 コメントをいただけますと、刑期が軽くなります。

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  • 短編小説/1万字以上の猛悪凶徒

    文字数1万字以上に渡り、非道を極め尽くした『短編小説』どもを収容するための監獄です。 筆者も力作だと戯言を申しております。

  • 怖くない小説の雑居房

    ホラー要素や残酷な展開がない小説たちの雑居房です。治安が良いです。

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挨拶とアカウントの説明

はじめまして、小説執筆を趣味にしている 杜崎まさかずと申します。 カレーライスなどを食べながら生きています。 突然ですが、このアカウントは刑務所です。 今まで、友人との和気あいあいとした平和一色のLINEに幾度となく忍び込み、 傍若無人に暴れ回り、 贅の限りを尽くし、 女子供を余すことなく泣かせてきた 『掌編や短文』に この刑務所にて罪を償ってもらいます。 軽犯罪のチンピラから、 重罪の凶悪犯までいるので、 文字数やジャンルはさまざま。 もしも皆様から見て 「こいつは冤罪

    • 【掌編シリーズ】松井不幸譚

      「松井さん、火事です! 助けてください!」  朝6時を少し過ぎた頃、松井は玄関から聞こえる叫び声と、連打されるチャイムの音に耳を塞いで、布団の中でうずくまる。  松井とは、痩せたいと思って趣味で新聞配達(走って団地を回る朝刊配達)を始めるが、帰った後に夕飯で残ったご飯をお茶漬けにして食べてしまう(この時間に食べるお茶漬けが一番うまい)せいで一向に痩せない(足の筋肉が付いてきたからと本人は言い訳している)、ただの怠惰な31歳の一般男性である。特段、周りを惹き付けるほどの魅力も

      • 【掌編小説】インク商法

         僕はよく人に、髭が濃い、と言われる。そのせいで中学の頃は『コソ泥』、高校では『雑木林』とあだ名を付けられ馬鹿にされた。  でも、社会人になって、毎朝髭を剃るようになってから気が付いた。  僕は髭が濃いんじゃなくて、髭が太く硬くしぶといんだ。つまり、並大抵の髭剃りじゃ根本まで剃り切れず、髭が残ってしまう。無理に剃ろうとすると、負けてしまい、流血。もっと早くこの事実に気付けばよかった。だって、髭がここまで頑丈になってしまったのは、学生の頃から、なかなか綺麗に剃れない髭をしつこく

        • 【短編小説】安里博士の昆虫記

           恐らく、遠くも近くもない未来の話。  科学の発展は著しく、令和大学は『人間の身体は知能を低下させることなく人差し指ほどのサイズにまでミクロ化が可能である』という論文を発表し、学会では医療分野への実用化は99%成功可能との見解を大々的に述べた。翌年には、研究チームのリーダーが史上最速でノーベル科学賞を受賞し、そのSF的な発表は巷でも時の話題となってSNSを埋め尽くした。一般人にとっては、ひと昔前の、この小説の世界では大分前の宇宙旅行ほどの距離間のある夢だと思っていただきたい。

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          5本
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          12本

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          【小説】ねむるどろ

           泥のように眠ったら、泥になってしまった。  昨日の寝入りはまるで気絶だった。僕とシフトが入れ替えになるはずだった同じ工場の同じラインの貫田さんが電話応答できないほど体調を崩したとかで、急遽穴埋めをする羽目になったのだ。おかげで、ベルトコンベアに乗って流れてくるパックに、長ネギとツナを塩だれで和えただけの惣菜を詰めること十六時間。労働基準の治外法権である閉鎖的な工場で、ひたすらに配膳し続けた。  家路についた頃には、歩きながら八割寝ていたと思う。倒れそうになる体に鞭を打っ

          【掌編小説】宮野山の神様

          【『シロクマ文芸部 お題:始まりは』参加作品です】  始まりは、山肌に大海のように生い茂る桜の花の向こうから「おーい」と声が聞こえたことからだった。  桜の絢爛さとは不釣り合いな、しゃがれた、潰れたような、それでいて腹の奥から捻り出したような男の声。  当時、小学生だった僕は『山には神様がいる』という伝説を信じ切っていて、その声の主を神様だと思った。初めてひとりで外に遊びに出かけたのが、その宮野山公園だったことも何か運命的なものを感じ酔っていたのかもしれない。何よりーー。

          【掌編小説】宮野山の神様

          【掌編小説】作文『発見したこと』

           ぼくはよく、物をなくします。  教科書やノートはなくさないのですが、ゲームやマンガはしょっちゅうなくしてしまいます。なので、お父さんとお母さんにそのことで怒られることが多いです。  ぼくは誕生日にゲームソフトの『ボケットモンスター ちほう・にんち』の『ちほう』の方を買ってもらったのですが、それもなくしてしまいました。とても大事にしていたし、クリアまでもう少しだったので、かなしかったです。  なくしてしまったのは、トイレから帰ってきたときでした。  ぼくはトイレに行きたくなる

          【掌編小説】作文『発見したこと』

          【掌編小説】悲劇 奇癖

           まだ電気を知らない頃の時代に、とある小さな村があった。近くにはとある小さな山があり、頂上には村を治めるとある殿のとある小さな城があった。  村の政治は一風変わっていた。村を治める代価として、採れた作物等を農民が殿に納める……というのがこの時代によくある政治だが、この村では月に一度、農民に魚介類を納めさせていた。海まで六十里ほどあるところに位置する村だが、殿に逆らい、村全体で野たれ死ぬという末路を想像すると、農民たちは海に行かざる得なかった。  生鮮な魚介類を運ぶには、六十里

          【掌編小説】悲劇 奇癖

          【掌編小説】ワンタンブルース

           最後の晩餐は松仲飯店のワンタンにしようと決めたのは、俺が死ぬ決心を固める遥か前だった。  20年前。その頃、大手小売店の青果部門で俺は朝から晩まで野菜とにらめっこしていた。若かったこともあり、キャベツや白菜が隙間なく詰まった段ボール箱を日に何十箱も運搬し、売り場に出せば大声で売り込みをするフィジカルな仕事を毎日こなしていた。  年中ほぼ休みなく働いていた。シフト上で俺が休みでも、店は365日休みなく動き続けている。仕事にのめり込めばのめり込むほど、休日に家にいても売り場が

          【掌編小説】ワンタンブルース

          【掌編小説】食い意地

          「どうするかな、明日から」  スギキはしゃがれた声でそう言って、家の外で折れた煙草をくわえながら寝そべる男の額に『回覧板』を放った。しわくちゃの紙に乱雑な字で書かれた回覧板を、風で飛ばされないよう男は自分の顔に押さえつける。  この河川敷のホームレス界隈には回覧板を回す習慣がある。内容は、仲間の誰かが川に流されて行方不明なったこととか、大型スーパーが建った影響で懇意にしてくれていたパン屋が潰れたとかだ。今回の場合は後者だった。  スギキは喘ぎながら痰を吐き出すと「俺たちも引っ

          【掌編小説】クローバーの妖精

           ある土曜日の晴れた午後。  盲目の老人は、白杖と手すりを頼りに展望台広場へ続くなだらかで長い階段を上り終えると、誰かの気配を感じた。 「先客がいましたか」  その柔らかい声に、広場の真ん中のベンチに腰かけている初老の女性が、ニつに縛った栗色の髪を揺らして振り返る。彼女はさびた小さな赤いお菓子の缶をひざの上に載せている。  老人は自分の目の代わりに、女性から見えるものを尋ねた。 「どうですか、ここの見晴らしは」  女性はそこから一望できる街の景色に視線を戻して感嘆する。 「素

          【掌編小説】クローバーの妖精

          【掌編小説】夢から醒めたら逢いましょう

          「今バイトの休憩中だから、また今度ね。……うん、いいけど、今月はもう埋まってて」  夏、痛い日照りを我慢して、清美は大学からの帰路で彼氏と通話をしていた。突然の休講で帰宅時間が早くなり、彼女の気分はいつになく晴れやかだったが、彼氏からの電話がそれを台無しにしていた。更に、その間も日光は美に注がれ続ける。清美の苛立ちは募るばかりだ。  清美の彼氏は、彼女の今求めているものを何も持っていなかった。危険で、スリリングで、少し強引な愛。そんなアクション映画のラブシーンのようなものを欲

          【掌編小説】夢から醒めたら逢いましょう

          【掌編小説】スノウスコール

           東京では五年ぶりの豪雪だそうだ。  上京して初めて、僕はこの大都会の積雪にくるぶしまで埋めた。  念のため、車のタイヤをスタッドレスに替えておいて良かった。今日、明日に取材撮影 は入っていないが、何せここまでの大雪を纏った東京だ。カメラに収めない手はない、と 息巻いていた。そうだ、息巻いていたーーはずだった。  合成皮ごしに触れる雪の温度は、防寒靴をものともしない。締め付けるような足の寒さから、カメラバックを小脇に抱えて運転席に逃げる。エンジンをかけ、そそくさとエアコ ンを

          【掌編小説】スノウスコール

          【短編小説】治安の悪い街

          【一】  全てのものには、意思が宿っている。父の教えだ。  生まれたらからには皆幸せになりたいのだから、皆の幸せを願いなさい。これは母の教え。  要するに、両親の考えを合わせたら「この世のもの全ての幸せを願え」ということだ。  人間にも、犬にも、猫にも、木にも、土にも、風にも、意思があってそのどれもが幸せになりたがっているという。  だったら、この寒風は何を想って、僕の冷や汗を引っ掻くように吹き付けに来ているのだろう。それが風にとっての幸せだったら、エゴだ。これは、何かの幸

          【短編小説】治安の悪い街

          【短編小説】ポリごんの手口

           目前を快速電車が線路を蹴るような乱暴な音を立てて通り過ぎていく。  この荒々しさにして、快速、などという涼し気でスタイリッシュな単語は図に乗っていると思わざるを得ない。速、はまだいい。快、はない。音だけなら暴走列車と聞き違えるほどの武骨なけたたましさでありながら、自分を快いと名乗るのは買い被りすぎだろう。  そうだ。何よりも、この線路を向こう側でせっせと生きるホームレスたちを軽蔑している。  全てを失ってもこの世に生を受けた意地を歯を食いしばりながら守り抜き、明日にはあの日

          【短編小説】ポリごんの手口

          【掌編小説】のびるチーズの話

          今日は家族で楽しいピザパーティー。 お父さんの食べたピザのチーズが、伸びる伸びる。 それを見て、お母さんと息子、大笑い。 息子と手を繋いで、伸びたチーズの下をくぐったりしたら、それはもう家が揺れるほどの笑いが起きた。 味をしめたお父さん、チーズを伸ばし続けて、そのまま朝を迎える。 伸びたチーズを口に咥えたお父さんが「ほはひょう(おはよう)」。 家族、またもや大笑い。 お父さん、チーズを咥えていたら周りにウケると勘違い。 それからというものの、 チーズを咥えて会社に行き、 チー

          【掌編小説】のびるチーズの話