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裁判の傍聴に行ってきた話(4)

虚無への判決を傍聴した僕は続けて行われる民事裁判の開始を待つ事にした。しかし、法廷には誰も居なくなったので僕も一度2階のロビーに戻った。すると、待機室と書かれた部屋から笑い声が聞こえてきた。なぜか少しホッとした。裁判所の中は外界とは違う雰囲気なのを改めて感じた。そりゃそうだ、法廷内は私語、飲食、居眠りなどが禁止されている厳粛な場所なのだ。人生のマルかバツかが決まる場所なのだから緊張感もある。だからこそ笑い声が聞こえてきてホッとしたし、疑問も感じた。誰が笑ってるんだろう?
僕は204法廷に入室した。時間は13時23分、正面には書記官が座っていた。左側の席には、弁護士の男性と原告の女性。右側の席には弁護士が一人、傍聴席に男性が二人座っていた。僕は真ん中あたりの座席に座る事にした。一般の傍聴人は珍しいらしく、何回か視線を感じたが気にしない事にした。
13時28分裁判官が入廷してきた。左右の弁護士に確認をした後にこう発した。
「定刻より2分早いですが、開廷いたします。よろしいですか?」
「はい。」
双方の弁護士が同意した。
めちゃくちゃ細かい事を確認するんだなあと、あらためて感心してしまう。そりゃ一番きっちりしてる場所だものね、とも納得もした。
「ご起立ください。」
書記官の号令で一同起立し、一礼をする。着席すると、男性の傍聴人が一人入室してきた。原告側の座席に座ったところを見ると、原告の関係者か?
裁判官が双方に声を掛けた。
「原告と被告、被告の証人は前に出て宣誓をおこなってください。」
原告の女性は杖をつきながら前に出てきた、少し大変そうだ。被告側の男性二人も弁護士に促されながらが前に出てきた。それぞれに宣誓書を読み上げる。
「宣誓 良心に従って、真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います。」
それぞれ氏名を述べて宣誓をすませた。
事件の内容は以下の通り。
・運送会社の倉庫敷地内での事故。
・被害者は毎日のルーティンワークである品出しチェックを行っていた。
・被害者が構内を歩いている時、フォークリフトがカーブしつつ後進(バック)し接触して女性は転倒した。
・転倒した女性が叫び声を上げて初めてフォークのオペレーターは女性に気がついた。
・会社は歩行者が構内のどこを歩くべきかの指導をおこなっていなかった。

疑問点は以下の通り。
・オペレーターは構内はフォーク優先として仕事をしていた。(業務優先は理解できるが、安全に勝る業務はあるのだろうか?)
・歩行者は普段構内を歩くときは手を挙げて「通ります。」と大きな声を出していたが、事故当日はやらなかった。(ルーティンワークなのにたまたま事故当日だけたまたまやらなかったという主張が不思議。)
・警察の現場検証、保険会社の書類、会社作成の労務災害の書類全てに目撃者は居ないと記載されていたのに、裁判が始まったら目撃者が加害者側の証人として出てきた事。
裁判になる位なので、双方の主張に大きな隔たりがあるのだが、疑問点は今後の裁判で解決されるのだろうか。

ところで、この裁判を傍聴していて最も興味を引いたのは双方の主張の相違ではなく。被告側の目撃証人が、原告側の弁護士の冷静な質問に対して、最後まで話を聞かずに焦って言葉を遮って喋り出し、その結果質問に対して答えになっていない。あまりにひどいので裁判官から注意されてしまう。
「質問には手短に、基本的には”はい”または”いいえ”で答えられる質問のはずなので最後まで聞いてから答えてください。」
という裁判官の発言にすら、かぶって答えていることに証人は気づいていない。やばい、めちゃ面白い。ひそかに笑いをこらえていると原告の女性がイライラしているのが見てとれた。警察にも保険会社にも会社にも認知されていなかった『ポッと出の目撃者』は、やや語調強く答えを続けていく。
「確かに見ました。」「僕以外にも構内にいた人がいます。」証人が答える度に原告の女性は首を横に振り、時々持っている杖で床を鳴らした。正直、上品さに欠ける行為であることは否めないなあと思った。

続いて証言台に立ったのは被告本人。マスクをしたままということもあってか声がこもって若干聞き取りづらい。また、被告本人も質問にかぶせて答えるので裁判官に同じように注意される。なんかなあ、マジでアセりすぎやろって感じ。まあ、裁判なんてそうそう経験あるもんじゃないから仕方ないんやろうけれどーって思ってたら、原告側に座ってた傍聴人の男性がつぶやいた。
「聞こえないなあ。」
えっ?何?この人?傍聴人が声出すとかありえないわ、何考えてるんやろ、このおじさん。うん、男性からおじさんにランクダウンだよ。被告人にも聞こえたようで、少し気にしている様子だった。裁判官はおじさんを一瞥した。
被告人に対しての原告側弁護士の質問は続いた。相変わらず焦って答えてしまう。声が聞き取りづらいのも相変わらずなんだけど。おじさんまた言っちゃいます。
「聞こえないなあ。」
「傍聴人!証人はあなたに話しているのではないので、聞こえないなどと傍聴人が言うのは筋違いです!次に発言したら退廷させます。」
さすが裁判官!俺たちにできない事を平然とやってのける そこにシビれるあこがれるゥ!
もう、おじさんからクソオヤジにさらにランクダウンだよ。
結局、一喝されたクソオヤジは少し不満そうだったが、それ以降声を出すことは無くなった。

その後、もちろん原告も証人尋問されたのですが。やっぱり質問を全部聞かずに答えはじめてしまい、当然のごとく裁判官にゆっくり答えるように言われる始末。もう、この3人の証人が全員自分を客観視できてないわ、冷静さに欠けてるわで笑っちゃいけないのに笑いそうになる始末。勘弁してください。初めての裁判傍聴でこんな面白い体験したらハマるだろうなーと考えているうちに、今日の裁判は終了となり次回に続く事になった。

東京03が演出すればもっと面白くなるな。そう考えながら今日最後の裁判。窃盗の刑事事件の傍聴をするために202法廷へ向かった。

続く

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