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7月の読書感想文:彼女に関する十二章/中島京子先生

幼稚園のころ、林明子先生の「はじめてのキャンプ」を読んで、私のことが書かれている!とびっくりした記憶がある。
兄も姉も小学生になり、それぞれの友人とばかり遊んで、私は小さいからといって構ってくれない。
私だってできるよ!と頑張るなほちゃんに、自分を重ね合わせたのだろう。

小学六年生になったとき、はやみねかおる先生の夢水清志郎シリーズに出会い、そこからしばらくは、はやみねかおる先生の世界にどっぷりとはまった。都会のトム&ソーヤもしかり、少し背伸びをした気分で、冒険している自分を想像してワクワクしていた。

恋愛ごとは少女漫画から学んだ。大人になってからは、それは恋愛エッセイに変わった。

年を重ねるごとに、本の主人公たちも年齢があがっていくのだが、私の人生はいつでも本が道しるべとなってくれていると、今回の本を読んで思った。

   ◯◯◯

主人公の宇藤聖子は50歳。息子の勉がこの春から初めての一人暮らしをはじめ、夫の守と二人暮らし。知り合いの税理士事務所で週に三回アルバイトをしている。

タイトルの「彼女に関する十二章」がどういうことかというと、
企業のPR誌などを請け負って作る傍ら、雑文業を営む夫の守が、ある会社のPR誌に、伊藤整の『女性に関する十二章』をもとに、今の時代に合せた女性論の連載を書くという仕事をとってきた。
君も読んでみたらとすすめられて、読み始めてみると古い昭和の随筆だと思っていた一文が、不思議と聖子の日常に重なる部分があり…というようなお話だ。

   ○◯◯

最初は何となく読んでみるだけだったけど、この状況、あの一文に重なるなぁと読み直すシーンなど、私もよくあるので同じだなぁと思った。

この本で面白かったのは、さらさらと流れていくように終わっていく日常のなかで、本の存在が主人公の考えや行動をそっと支えてくれるところ。

冒頭で書いた通り、本は私にとって人生の道標だ。

結婚し、何気ない日常を過ごす今、幸せだけど不安で考えてしまうことがある。
ずっと一緒にいたいけど、この本の守と聖子のように銀婚式ができるくらいまで無事にいれるのかという悩みと、このままふたりでぬるま湯のような安定した人生をぼんやり生きていくだけでいいのかという悩み。
安定した人生を手放してしまわないかという恐怖と、安心ゆえの焦燥感。

だけど、この本を読んだとき、心が落ち着いていった。
聖子の行動や考え方をみていると、
なんだかんだ悩んでも明日のことは明日にならないと分からないし、
目の前のことをコツコツと取り組むしかないんだなぁと思うと、心が軽くなった。

あと守とも、コミュニケーションをちゃんととっていることがいいなぁと思った。
お互い自分の考えを伝えあっているところがいいなぁと思う。

日常の話は読む人によってはつまらないと捉えられるかもしれないけど、丁寧に日常の些細な部分を描いてくれる本は、今後も私にとっての人生の支えになってくれる。

将来不安だなと思う人に、ぜひ読んでもらいたい一冊だった。


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