Robust Equity-EQの堅牢性-
さて、今回は中級者〜上級者にむけて、
Equity robustnessという概念を導入したいと思います
この記事を読むとあなたのbetが一次元上のものへ進化するかもしれません。
私の書いた、「はじめに」という記事の中で、
と書いた部分について、本記事を読んで頂ければ解決できるかと思います。
さて、
引用した二つの文はどうして広く認知されているのでしょうか?
それは、次の考え方に依ります。
・バリューとブラフ
pokerにおいて、betする目的は2つあり、
・(自分が相手に勝っていると考えて)自分より弱いハンドにコールをもらうためのバリューベット
・(自分が相手に負けていると考えて)自分より強いハンドにフォールドしてもらうためのブラフベット
これが、バリューブラフの二元論による考え方です。さて、引用部分の意見を導出しましょう。
・マージナル(中間的)な強さのハンドはチェックするべきだ。
→自分のハンドが中間的なのにbetしてしまうと、自分より強いハンドにコールされ、自分より弱いハンドにフォールドされるということになり、バリューにもブラフにもなりません。よってチェックするべきです。
・現状勝ってる相手を降ろしてしまうベットは勿体ない
→ベットがバリューとして機能していません。また、この時相手がコールした場合、相手のハンドは自分に勝っているわけですから、自分より強いハンドにコールされ、自分より弱いハンドにフォールドされるということになり、バリューにもブラフにもなりません。よってチェックするべきです。
なるほど、たしかに的を得ています。
が、反論の余地もありそうです。
後者で言えば
「betしたら相手のかなり弱いハンドにフォールドされるのは当然なのだから、別に勝ってるハンドを降ろすのは悪くない。
それよりも、どのハンドにコールをもらうのか、を考えてbetすることが大切だ!」
とかでしょうか?
・ハンドの強さ
ここで確認しておきたいのは、どのハンドが強いハンドで、どのハンドが弱いハンドなのか、ということです。
当然ですが、pokerでは
プリフロップ→ターン→リバー
と進むにつれてハンドの価値というのは変化していきます。
それどころか、同じリバーでのAのワンペアでさえ、トリプルバレル(プリフロップ、ターン、リバーで三発打つこと)のpotoverを撃たれた時と、チェックで回り続けたときとでは、ハンドの強さは違うでしょう。
つまるところ、
強いハンド=バリューハンド
として扱うには、ここまでのプレーを考慮に入れて、それでも尚十分な勝率を持っていることが必要です。
ここで、十分な勝率の簡単な理解としては、相手のレンジ全体に対するEQが50%を超えていること。
でしょう。
以下、EQが50%以上ある時のbetを(狭義の)バリューベットと呼ぶことにしましょう。
相手のレンジ全体に対するという単語に注意してください。
さて、この観点から例を見てみましょう。
・3betレンジの歪さ
わかりやすいプリフロップで解説をしましょう。
HJのopen(初めてレイズで参加すること)に対するSB3betレンジを見ていきましょう。
(HJはBTNより2つ手前の人です。)
HJは上画像のように全体の20%程度で2.5bbのopenをします。
具体的には
ATo+,オフスートJ以上2枚,スーテッド9以上2枚,
Axs,K7s+,スーコネ,ポケット,
あたりですね。
これに対してSBは
強いポケット,AQo+,スーテッドT以上2枚,A5s,A4s
によって3betを返します。
さて、レンジ同士の対決では(レンジvsレンジの考え方ですね。そのうち記事書きたいなと思ってます)
SBの3betはレンジ全体で57.33%のEQを持ちます。レンジ全体でbetはバリューbetになっているとも言えますかね。
今度はこれをハンドvsレンジで考えていきます。
SBのレンジにおいてバリューの下限はどこでしょうか?
AQoは流石にバリューそうですね。
77も心許ないですが、バリューとして機能しそうです。
KQsはもうかなりバリューと呼ぶには厳しくなってきますね。
KJsまでくると、EQは50%を切ります。
一方で、ブラフ3betレンジの代表格
A5sはEQとしてはかなり低いので、やはりブラフと呼ぶのに相応しいですね。
さて3betされたHJ側を考えてみましょう。
3bet額は11.25bbですので、4倍程度のbetです。
正確には
pot=1bb+2.5bb+11.25bb=14.75bb
でHJが直面するOddsは
現状2.5bbに対して11.25bbにコールするための上乗せ分である8.75bbを考えて、
Odds=(8.75+14.75)/8.75=23.5/8.75=2.69
必要勝率=1/Odds=37%
となりますね。
ここの議論がわからない方は
EVとEQの記事をご覧ください。
よって、HJはこのSB3betレンジに対して40%程度のEQがないとコールが難しくなってきます。
GTOでは画像の緑部分でコールし、かなり強いところで4betを返すことになります。
(ケアレスミスで自身のbet分をpotに出し忘れていたので、5/30日訂正。コメント頂いた方本当にありがとうございます。)
HJのSB3betに対するコールレンジがわかりましたので、ここでSBの3betレンジで特にATsについて考えてみましょう。
3betをした場合
コールされるとEQは50%を割ってしまいます。
もともと、HJのopenレンジに対しATsのEQは53%程度ですから、
まさに、自分より弱いハンドをおろし、強いハンドにコールされるようなbetになっていますね。
GTOにおいて、このようなバリューにもブラフにもならないbetというのは割とよく見られます。
我々はこのようなbetに対して、合理的(と思われるよう)な理由づけをしなくてはなりません。
なぜかって、GTOを理解し、プレイに取り込んでゆくためです。
このような現象に対する理由付けには色々あります。
・カードの除去効果
・ブロッカー機能
・インプライドOdds
・フォールドEQ
・セミブラフ
etc...
が、GTO自体はそんなことは考えていません。彼が考えているのはexploitされないようにすることだけですから。
あくまで、我々がアクションを起こす指標として、定性的に説明する方法を得ることが重要なのです。
ここでは多くの人が知らないであろう、Robust EQという概念によって説明を与えてみましょう。
・EQ Robustness
さて、本題です。
バリューブラフの観点で話せないもの
EQとOddsからアクションを決めれないもの
というのはタフな判断を求めてきますが、そのほとんどが、「当アクションでプレイが閉じない」ということに起因しているはずです。
基本的にpokerではAll-in以外を行うとき、
・のちのち捲る可能性
・のちのち捲られる可能性
・レイズをされる可能性
などが存在し、現状のEQがそのまま実現できるとは限りません。
この、EQの実現というのをEQ Realizationと呼ぶのでした。
では、EQRが高い。即ちEQが実現しやすいハンドとはなんでしょうか?
こう言い換えても良いです。
実現しやすいEQとはどのようなEQでしょうか?
次のような状況を考えてみましょう。
この状況に直面するバンドとして、
88とQJsがあります。
ここで、両者のEQを見てみましょう。
まず、フロップが開いた瞬間ですが、
お互いに44〜45%ほどのEQを持ちます。
一方、レイズに直面すると、
88のEQは38.7%、QJsに至っては35.7%まで減少します。
さて、いずれの場合もEQ的には88の方が上回っておりますが、この時
GTOで88をフォールドし、QJsをコールします。
このように、EQの大小だけでハンドの強さを評価することはできないのです。
ここで、88はFoldし、EQの38.7%を捨てることになります。つまりこのボードで、QJsは88に対してかなりEQRが高いと言えるでしょう。
このEQRの高さを評価するために導入される概念が、Equity Robustness (EQの堅牢性)になります。
EQを評価する際、
大きいEQと小さいEQ
という観点だけではなく、
強いEQと弱いEQ
という観点を持つのです。
この、
強いEQをRobust Equity
と呼びます
(別称:堅牢なEQ,ロバストEQ)
反対に弱いEQを vulnerable Equity
(別称:脆弱なEQ,バルネラブルEQ,非ロバストEQ)
と呼びます。
つまり、QJのEQはrobustで、88のEQはvulnerableであった、ということですね。
ロバストなEQとはどのようなEQでしょうか?
これはつまり、EQRの高いEQです。
EQRの高いEQとはどのようなEQでしょうか?
これは相手のbetに降ろされる心配が少ないEQです。
そうですね。ナッツ級を構築できるEQのことです。
基本的にbetやraiseをされると、相手のレンジは強くなります。すなわち、こちらの弱いワンペアなどは負けている可能性が高まりますが、ナッツであれば関係がありません。
これが、robustEQの素晴らしいところです。
例えば、
ナッツフラッシュドローやストレートドローはかなりrobustなEQを持ちます。
(上のQJもストレートドローですね!)
また、セットも素晴らしいrobustEQです。トリップス自体も十分な堅牢性を持ちますし、フラッシュやストレートに対してもフルハウスへの昇格部分のEQは保証されます。
(セットとはポケットがトリップスになること)
一方で、A以外のワンペアや、Aハイカードというのはかなり脆弱なEQとなりますね。
EQ自体としては大きい場合もあります。例えばJハイボードでのJヒットなどはかなり大きいEQを持つでしょう。
ただし、ロバストEQとは言い難いですね。
・EQ component(EQの構成要素)
ここで注意が必要なのは、
一つのハンドが強弱2つのEQを持つことはある
ということです。
というか、
グラデーション的にロバストEQをもつ
ということまであります。
例を見てみましょう。
適当なレンジに対して7h8h持っている時を考えます。
ボードはJh7c5hです。
この時、
EQ component(EQの構成要素)
は
・フラッシュドロー
・バックドアストレートドロー
・7のワンペア(とそれによる2ペア以上への昇格)
あたりでしょうか?
さすがに8ハイで勝つのは厳しいのでハイカードのEQはほとんどないでしょう。
試しに、フラッシュドローのない場合をみると
17%程度減少しますね。(厳密にはブロッカー機能とかがありますけれど無視します)
また、バックドア分は多めに見積もって4%くらいでしょうか
つまり、この7h8hは
・フラッシュドローのEQ17%程度
・バックドア4%
・7のワンペア47%
合計68%程度
のエクイティで戦っていくことになります。
ここで、7のワンペアが昇格する確率についても考えていきましょう。
7のアウツは2枚、8のアウツは3枚ありますね。
よって20%程度で昇格し、2ペア以上になります。
比較的ロバストなエクイティへと昇格を遂げますね。
つまりこの時
・ドロー系のロバストEQ 21%程度
・ワンペア昇格による弱ロバストEQ 20%程度
・ワンペアのバルネラブルEQ 27%程度
という3つのEQで戦うわけです。
直感でわかると思いますが、アクションの激しさが増せば増すほど、バルネラブルEQは厳しい環境に晒されます。
このハンドでレイズをしすぎることがミスとなりやすいのは、27%あるバルネラブルEQを自分で放棄する羽目になるからですね。
フラッシュドローに釣られてこのようなプレイをする人をかなりみます。
もし、バルネラブルEQの全てを放棄するなら、すでにそのレイズはバリューレイズと呼べる代物ではなくなっているでしょう。
(個人的な感想ですが、この程度まで考えてアクションを決めてる人を見るとうまいなあと思います)
最初の方に書いた内容の振り返りもしたいのですが、だいぶ長くなってきましたので、今回は次のことをまとめて終わりたいと思います。
・betとrobustness
さて、EQ robustnessを認知するようになった今、この知識はbetの際にどう役に立つのでしょうか?
それは、次の基本から直ちに解ります。
1番はブラフベット、2番はバリューベットへと結びつくのでしたね。
このことから
相手を降ろしたい度合い
と
potを大きくしたい度合い(potを焚くとも言います)
が大きくなるほどbetに価値が出てきそうです。
即ち、
という具合です。
バリューブラフとは、この考え方をわかりやすくしたものだったのですね。
さて、EQを放棄という単語が出てきましたね。特にvulnerableEQについてはここが大事そうです。この部分を深掘りしていくと、チェックレイズやドンクをするタイミングが理解できてくるので今度解説したいですね。
・最後に
ここまで読んだ方は最初から読み直してもらってrobustEQの観点から前半の例を見ていただければと思います。(解説書くつもりでしたが長くなりすぎるので、そのうち有料部分に載せるかも)
当記事の内容ですが、
No limit hold'em for advanced players
という本を参考にしています。
かなり素晴らしい本ですが、日本語訳がないのが残念ですね。英語自体はかなり優しい部類ですので、大卒くらいの学力があれば読めると思います。
また、ロバストエクイティに関する記事はかなり少ないようで、日本語だと数記事しか見つかりませんでした。
リリアンさんのこちらの記事が(有料ですが)素晴らしいです。というか、ポーカーを上手くなりたいならリリアンさんの記事は全て買っておけばいい気がしますね。
無料だと、記載があるのはしまぽさんの記事あたりでしょうか?
こちらのnoteにも記載があるようですね。
ポーカーの記事って、超基本的な内容もしくは、exploitのことやレンジcb戦略みたいなpioslover解析結果が多い気がしますね。
私は当面の間はプレイ中に参照できるスマホアプリとかでGTOを勉強していく方法を記事にしたいなと考え、この形態をとってます。
piosolver分析とかはもちろん大事なのですが…
今後も記事を書いていきたいと思いますが、書き始めると筆が乗って文が長くなるんですよね…
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