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ソーセージが好きすぎるので全ての始まりを思い出してみる

子供の頃からソーセージが好きだった

お子様ランチについてくるソーセージ
お弁当に入ってるたこさんウィンナー
高速道路のサービスエリアで食べたアメリカンドッグ
そのどれもが宝物のように忘れ難い、私の大切な思い出である

今はなきサイゼリヤのサルシッチャのグリル

ある日インターネットでこんな文字を目にした

「自宅でできる手作りソーセージ」

ソーセージが自宅で作れる?
本当かどうか怪しい、どうせ高い道具がいるのだろう
しかし調べてみるとそうでもない
プロ用の器具をそろえようと思うと高価だが、趣味で作る程度なら存外リーズナブルに道具・食材共に揃えられそうだ

調べるほどに私の胸は高鳴る
もし本当に自宅で作れるなら一度試してみたい
ソーセージを自分で作ってみたい!

私はある晩その想いを両親に何気なく打ち明けてみると、父は私にこう言った

「やめとけ100%失敗する」

衝撃だった それまで父は私にとって肯定のシンボルと言っていいほど、何にでも『やってみたら?』と背中を押してくれる力強い存在だった
それなのに今日に限って否定してくる
どうしてだろう 何だか今日の父はいつもと違う気がする

それに対し私の口からは

「あ゛~もう今の言葉で決めた!!もうぜっっったい作るもんね!!!はい決まり!!!今の言葉で絶対作るの決めました~~!!!」

つい引くほど幼稚な言葉が出てしまった
この瞬間、脳内の冷静な私が「うわぁ…」と思っていたのを覚えている
普段の私なら「そっか~」と何事もなかったように別の話題に戻っていたはずだ

この時、父の様子もいつもと違っていたがなぜか私も違っていた
親子そろって何があったのかは知らないが、とにかく父は私の行動を否定し、私は反抗の言葉を吠え、母は苦虫を噛み潰したような顔で私たちを見ていた

そしてこのヤケクソな発言が、後の私の人生を、本当に大きく変えてしまう事になる

第一回ソーセージ作り

2020年7月22日 天気は快晴
この日の為に特売の豚ひき肉を始めとした食材・天然羊腸・腸詰の用の道具(スタッファーと言うらしい)を全て揃えた
父に見られるのは何となく気まずいので、仕事で外出している時間帯を狙い、私は家の狭い台所を陣取った

いよいよソーセージを作れる!!おいしくできても、父には絶対食べさせてあげないんだからね〜!!ふーんだ!!

私はソーセージを作るワクワク半分・父の言葉への反発心半分という二つの感情を抱きながら調理を始めた

羊腸をノズルに装着中

しかし手作りソーセージは出だしからつまずいた
まず通販で買った羊腸が想像以上に生臭いのだ
袋から出して水につけそれに触れた途端、耐えられずマスクを着用した

挽肉をそのままドン!

次に調味料を特売ひき肉に混ぜていく
事前にネットで調べた情報を元に作成していたレシピを見ながら調味料を一つずつ計量
スーパーで買った特売のひき肉をボウルに移しそこに加えて手で混ぜていく
こねていくうちに、指の間からニュルルと出てくるひき肉の感触は何とも言えず心地いい 懐かしい粘土あそびを思い出す
当然手は生肉まみれになり、途中からスマホが触れないことに気づきレシピを確認できなくなり焦った

ノズルから顔を出す挽肉 ニュッ

そしていよいよ腸詰 生臭さに必死に耐えながら装着した羊腸にようやく肉を詰めていく工程だ
スタッファーの後ろの取っ手をぜんまいを回すように動かしていくと、ノズルに装着した羊腸にお肉が詰め込まれていく仕組みだ
スタッファーの中にお肉を詰め込み、取っ手をグルグルと回して肉を腸の中に押し込み腸詰めをしていく

グルグル…
ん…?なんだこれ難しいな…なんか全然うまく肉が入っていかない…

腸詰めが終わった
わかるだろうか お肉の詰まり具合が安定せず、ところどころ細々とした印象のソーセージが目の前に横たわっている
あれ?おかしい、これであってるのか…?
いやいや茹でたら膨らむんじゃないだろうか こんな形のソーセージ見たことないし
そんな希望的観測を胸に抱き、規定時間通りに熱湯で茹でる
最後に氷水に入れて引き締めると…

ゆで終わった姿

できた
けどなんか形がボッコボコだ
いやでもまあ初めてならこんなもの?
いやいやでてもでもあまりにも…なんか…

夢のソーセージが完成したというのに気分が浮かない
とにかくフライパンでソテーして食べてみる事にした そう、食べ物はおいしければいいのだから

手作りソーセージ第一号を食べてみた

夢に見た手作りソーセージのお味は…

なんだこれ…この何とも言えない感じは…
これは本当にソーセージなのか?

まず食感がボソボソとしている
ジューシーとは程遠く、まるで脂の抜けた茹でハンバーグのよう
そして味も異様に辛い コショウを入れすぎたようだ
今回は辛いソーセージを作るつもりじゃない あくまで普通のソーセージを作るつもりだった

食べ物としてまずくはない 食べることはできる
しかし「まずくない」と「おいしい」の間には大きな差がある
私の胸の中で激しい『コレジャナイ』感が渦巻く
本当にこれが私が夢に見た手作りソーセージなの……?

ホットドッグ風にしてみたけど…

う〜〜ん…
やっぱりこれはソーセージじゃない 細いつくねだ

本当ならもっと、お肉がジューシーでぷりぷりで、スパイス加減も丁度よくお酒が進むよう、そんなソーセージができるはずだった
どこが悪かった?何を間違えた?
これじゃまるで父の言った通りじゃないか

そう、私は初めてのソーセージ作りで、父の予言通り「失敗」したのだ
味がどうあれ、形は作れたんだから失敗じゃないだろうと思い直したりもした
しかし私は自分で自分のハードルを高く上げすぎた為に、どうしてもこれを成功と認めたくなかった

絶対にきちんと「おいしいソーセージ」を作りたい、いや、作らなければ
そうじゃないともう気持ちが収まらない
私の心にはメラメラと炎がともり、こうして手作りソーセージ試行錯誤の日々が始まった

ソーセージを作りまくる

当時の反省メモ

まず、何がいけなかったのかを全て書き出してみる
そうして明るみになったのは大きく分けて3つの改善点

①お肉は常に冷やして扱うこと
②コショウの量を減らすこと
③腸詰は、ひき肉を腸の中に8割詰めていくイメージで行うこと

この3つを胸に刻み、私はまた週末にソーセージを作ることにした

2回目のソーセージ作り

反省点を活かしたつもりが、今回も詰め方が弱く、また空気も入り全体的にへちょんとして物足りない仕上がりに
しかし温度管理に気を付けたおかげか、お肉のボソボソ感は少し抑えられ、ジューシーさも前より少し残っていた よし次だ

3回目のソーセージ作り

前回より詰め方にも慣れてきたが、それでもまだ詰まりが甘い 写真では伝わりにくいが、食べた時はその物足りなさにシュンとしてしまうほどだ
もっとお肉がぎっしり詰まったジューシーなソーセージが作りたい 負けないぞ

4回目のソーセージ作り

腸詰の工程でどうしてもおろおろと手間取ってしまい、その間にお肉の温度が上昇したようで食感が悪くなってしまった
味は美味しいのだが、食感はパサパサのソーセージに逆戻りしてしまった…

この頃私は、盛り付けて見た目だけでも良くする事を学んだ

5回目のソーセージ作り

またしても詰まりがゆるゆるなソーセージが出来てしまった
今回は最初からずっと手際が悪く、腸詰めも無意識に焦って行ったのが裏目に出てしまったようだ
味付けはだいぶ整うようになってきたが、どうしても腸詰めが上手くいかない… 悔しい…

ええい落ち込むな落ち込むな!!盛り付けとエフェクトでごまかしちゃえ!!

6回目のソーセージ作り

あっこれはおいしい!!
出来上がりを食べて瞬時にそう思えた
形もボコボコせずお肉の詰まりもかなり改善されている
お肉もプリッとしていてそのまま食べても十分美味しい
今までの中でも上位に入る出来栄え 嬉しすぎる

おにぎりに挟んでホットドッグ風に
この頃にはソーセージの食べ方への研究にも余念がなくなっていた

7回目のソーセージ作り

前回調子が良かったので、今回は今までと趣向を変え、セージを使ったハーブ系のソーセージマルメターノを作る事に
しかし悲劇は起こった
入れたセージ量が多かったのか、歯磨き粉のようなスースーする味に仕上がったのだ
違う…本当は大人が好きなビールに合うハーブソーセージを作りたかったのに…どうして…

8回目のソーセージ作り

という事で、前回のセージのソーセージリベンジ回
前回の反省点を書き出し、改善すべき箇所を洗い出して再度作り直した結果…
おいしく仕上げる事ができた!
以前のようにスースーもせず、しかし食べるとほんのりとさわやかな風味が漂うバランスの良いソーセージが完成した
お肉の食感もかなり良い やった〜!
このソーセージは、初回に比べたらかなり前に進んだ気がする!!

9回目のソーセージ作り

9回目にして、我が家のクリスマスディナーのメインを作るという大役を担うことになった
そうとなったら気合いは十分
腕まくりをし当日用のレシピを書き出している最中、こんな情報を目にした

「ひき肉はスーパーの解凍肉でなく、専門店のひきたてを使うべき」

専門店とは要はお肉を専門に扱う精肉店の事
よくよく調べると、どうやらスーパーの一度冷凍されたものを解凍したものと、精肉店の生肉をひいたものでは味や食感に大きな違いがあるらしい
目から鱗の情報だったが、調べ終えた後も私は半信半疑だった そんなに変わるもの…??
しかし試してみなくてはわからない
何事もフットワークの軽さが大事だ 早速試してみることにした

そして2020年12月23日
前日に人生初の精肉店に足を運び400gのひき肉を手に入れた私は台所に立っていた
初めて精肉店のお肉を使ったソーセージ作り、ドキドキが止まらない

お肉は常に冷やして扱い、調味料は正確に測り、腸詰は手早くしかし8割詰めを意識すること
これまでに培った経験を総動員してついに…

じゃ〜〜〜ん!!!!

完成した!!ソーセージマルメターノ!!(セージ味)

このお皿を食卓に並べると母が手をたたいて喜んでくれた 私の作ったソーセージでこんな反応をもらえるなんて、私まで嬉しくなってくる 作って良かった

揚げ物・巻物・そば・シチュー・ソーセージ

そしてこの日、父に私の手作りソーセージを初めて食べてもらった
実はこの日までずっと父に隠れてソーセージを作っていたのだ
見られたら気まずい、という思いがずっと心のどこかにあり、故に食べてもらったこともなかった

それは父も同じだったようで、私に「食べていいの?」と確認までしてきた
私が許可すると、父は串に手を伸ばした
そして一言「おいしい」と言葉を漏らし、しかし串一本をぺろりと平らげた

もう父の言葉に対して怒る気持ちはない
私の手作りをおいしいと言って食べてくれた これでいいのだ

その後私も一口食べてみた
…え?

うますぎるんだが?!

ちょっと待って間違いなく過去一おいしい
まずお肉のプリプリ食感が段違い、どこを噛んでもハリがあって、もっともっとと先を食べたくなる
そして今回はセージ入りのハーブソーセージにしたが、塩もセージも加減がちょうどいい!
かじると優しい爽やかさがプリプリお肉の間から溢れてくる
ああ、これ…!これが私が夢見ていた手作りソーセージだ…!!

嬉しい こんなに嬉しい事があっていいのかってくらい嬉しい

クリスマスディナーの〆には、父が私の好きなケーキ屋で買ってきた大きな丸いケーキを囲み、みんなで分け合った
この年の我が家のクリスマスは、過去最高の手作りソーセージと父と私の仲直りを持って平和的に終わった

そして年が明け

私はドイツ語の勉強を始めた
というのもこの頃ちょうどソーセージが有名なのはドイツであることを知ったからである
今まで海外などに一切興味はなく、私は日本から、なんなら地元からも一生出ないだろうとすら思っていた
そんな気持ちを動かすほど、いつの間にかソーセージが私の中で優先順位の高い、大きな存在になっていた 

当時はコロナ渦真っ只中、すぐに海外に飛ぶことは容易ではなかった
しかしいつか行く日の為の準備ならすぐにでも始められる

私は1年かけ独学でドイツ語検定の4級3級2級に挑戦し合格
その後はオンラインレッスンに切り替え会話練習にも力を入れた
いつかドイツに飛び、本場のソーセージを食べる事を夢見て

そして初めてソーセージを作った日から約3年後の今、私は…

ドイツにいます!!
目的はもちろんドイツソーセージを食べてその記憶を日本へ持ち帰ること
この文章も今はライプツィヒという街のシェアハウスの自室で打ち込んでいる

滞在して約3か月、日本にいたら出会えなかったソーセージ、人との出会い、体験を既に沢山経験することができている
ドイツ生活もまだ前半戦ではあるが、今の時点で来てよかった想いで胸いっぱいだ

振り返ると、全てはあの夜の父との会話が始まりだった気がする
そう思うとドイツに来れたのも全てはあの出来事がきっかけなのかもしれない
今では「こんなソーセージあったよ」と新商品を教えてくれるほど父は私のことを理解してくれている

ドイツの手作りソーセージ教室にて

私はこれまで50回以上手作りソーセージを作ってきた
そんな中で、いつかは自分でソーセージ作りに関するお店を持ちたいな、と夢想する日もある
もしお店を開くことが出来たら、地元の情報番組のインタビューで、父とのエピソードを話してみたい
私の幼稚な切り返しもカットせずに全て載せてください!と頼んでみよう
それで放送で全部カットされてるのを見て使われて無いじゃん!!と笑えたら最高に嬉しい

子供の頃から好きだったソーセージがこうして、私の新しい夢になった
この文章を打ち終えたら、次に作る新しいソーセージのレシピでも考えてみようか
まだ食べていないドイツソーセージを求めて新たな旅程も立てなければ
ドイツ滞在残り七ヶ月、悔いのない時間を過ごしていきます!

ここまで読んでくださりありがとうございました!

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