真江島 志絽

小説をチマチマ書いてます🙂

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最近の記事

銭ガール 第6話(最終話)

 刑事から取り調べを受けるのも初めてだ。  頬からの血でシャツを赤くした私は、どんな角度から見ても見事な被害者だった。医務室で当ててもらったガーゼが顔の半分を隠している。  いつもなら、机の天板を割りそうな勢いで叩き、怒鳴り散らしているだろういかついおじさんが、苦り切った顔で事実を確認していく。 「仕事の進め方でおたがいの意見があいませんでした。お酒も入っていて、つい、反抗してしまって。すいません。大人なのに」  しおらしく頭を何度も下げる。 「お嬢ちゃん。顔に派手な傷がつい

    • 銭ガール 第5話

       明日の昼にこの特別研修も終わる。  女王が手に届くところにいながらの三日だったが、なにもできていない。落とし穴を掘る作業はいつも途中で頓挫する。  会社が売春営業を後押ししていると警察にタレこみ、重役もろとも女王を葬り去るのが私のプランだが、精度が不足している。  会社関与の証拠がないのだ。  女王が自分の意思で枕に励んでいると言い張れば、もうそこでこのプランはおしまい。見せかけだけの罰が女王に下され、私は消える。今までの密告者と同じ結末。  パパの浮気を証拠にしようにも、

      • 銭ガール 第4話

         パパに消えてもらえば、私の夢は実現へと大きく近づく。あの投信をまだ保有していればの話だけど。確認が必要ね。それはおいおいやるとして、いつ実行が決定してもいいように、準備はしておかなくちゃね。  おかげで出勤前の行事が一つ増えた。  顔を洗い、メイクをし、髪に天使の輪をのせ、コーヒーを飲み、刃物をふるう。  なにで切り刻むべきか。  朝の駐車場掃除のひとときを借りて営業車でほんの少し試したところ、鋭利さを期待したカミソリでは弱すぎた。刃がゴムの粘りに負けている。  ならばと持

        • 銭ガール 第3話

           新人の朝は早い。始業前から肉体を使った奉仕が待っている。  フロアを掃き清め、デスクを拭き、駐車場を汚す吸い殻と空き缶を拾い、乱れたパンフの角をそろえ、六台あるATMにさされた封筒の枚数にばらつきがないよう補充する。なにごとにも細かい私は、すべてが同じ枚数でないと納得がいかない。  われながら面倒な性分だが、お金の世界で細かいことは美徳だ。性格がザルでは、ざらざらお金がこぼれ落ちてしまう。  起こりそうなことはもちろん、これはないだろうということまでくまなく綿密に考え、対策

        銭ガール 第6話(最終話)

          銭ガール 第2話

           山の中での新人研修では、うす汚いおっさんに妄言を吹きこまれるばかり。商品知識は本店に入ってから教育された。  そりゃそうだよね。投資信託や外貨預金のメリット、デメリット、関わる税金の仕組みを、あのバカが説明できるはずがない。セールストークが冴えてるなら、右も左もわからない新人の相手なんかしない。  だが本店配属後に受けた金融商品の研修は子供だましで、あくびをかみつぶすことだけが上手くなった。  これ、わざとじゃないかな。わざと教えないんじゃないかな。まだ客をモノとして見るこ

          銭ガール 第2話

          銭ガール 第1話

          あらすじ  お金のためになら、他人を平気で踏みにじる女が銀行に就職した。  自らカマトトブラックと名付け、なにも知らない初心な新人を装い、いかにお金を奪うかを画策し、日々を過ごす。  その結果、銀行業務の穴を複数みつけ出し、それらを結び付けることで、億単位のお金を手に入れようとする。  ゆがんだ手段でFIREを目指す女の物語。 *お金の話がいっぱい出てきます。資産運用や節約・節税に興味がおありの方にとっては、チョー基本的なことばかりです。裏を返すと、こんなことも知らずにお金増

          銭ガール 第1話

          真剣ガールズ 第6話ー最終話

           わたしはみやび先輩のこと、ものすごく慕ってるつもりだったのに、まさかあいだに、水沢さんが入るなんて……。   よそよそしいよ、先輩。  はふううう。荒いため息が、胸をしぼませた。  片方の奥歯を強くかんで、道場の玄関を一歩出るとすぐ、白のはかまと稽古着が目に入った。すこし離れたケヤキの幹に、背中をあずけて立っている。  みやび先輩だ。高等部にいかないで、待ってたんだ。  急に鼓動が激しくなった。先輩がふせていた額を上げるのと同時に、わたしは視線を地面に落とした。草履の黒い鼻

          真剣ガールズ 第6話ー最終話

          真剣ガールズ 第5話

           みやび先輩と三年生の気迫に引っ張られるように日にちがすぎて、やっときました日曜日。学校もクラブもナシ。そんでもって、ここんとこ学校と道場のほかにいったところもナシ。だって筋肉痛で動きたくないんだもーん。  今日はせっかく天気もいいんだし、元気もあるからショッピングモールでもぶらつくか。  だれか誘おうと寮の中をぶらついたけど、空き部屋ばっかり。食堂もがらーん。みんなお出かけしたみたい。みやび先輩の姿も見かけなかった。きっと道場で竹刀振ってるんだろなあ。  キリッとしまった表

          真剣ガールズ 第5話

          真剣ガールズ 第4話

           六月。部内の空気が一変した。どうやら、一か月後に待ち受ける首都圏勝ち抜き大会が原因のようだ。  この大会が終われば三年生は引退する。水沢さんたちが、特待生ひしめく高等部で剣道を続けるとは思えない。この試合を最後に、もう竹刀をにぎることもないんだろうな。  道場のすみでは、最終学年の三人が、覚悟の色をうかべた目を見つめあい、手に手をとってうなずいていた。みんな、くちびるがまっ白だ。  みやび先輩からは、ドンと重量のある気合いが放たれている。殺気こそ封じているものの、威圧感が今

          真剣ガールズ 第4話

          真剣ガールズ 第3話

           クラブが終われば、わたしは寮にむかう。  家から通うこともできたけど、おばあちゃんの強い強い希望で寮に入った。お嬢さまがたと寝食をともにすることで、孫が気品あふれるレディに変化することをおばあちゃんは期待したのだ。  中学生になったばかりのわたしが家を出ることに、パパが反対した。  そしたら、日ごろはやさしいおばあちゃんが、キッと眉を六十度くらいの角度でつり上げた。 「寮に入るなら、ユカの学費はすべて私が面倒みます」  六十度なおばあちゃんの一声で、パパの手のひらはくるーっ

          真剣ガールズ 第3話

          真剣ガールズ 第2話

           剣道部に入ったとたん、大勢のクラスメイトから、みやび先輩のことを聞かれるようになった。みやび先輩はやっぱりうるわしの王子さまで、あこがれの的なのだ。  先輩の入学にはすごい話がある。  聖ラシエールはただのお嬢さま学校ではない。全国のスポーツ大会でも名をはせる武闘派だったりもする。  でもこれは、高等部が作り出した実績だ。  スポーツ特待で高校に入学する生徒が毎年約五十名。そのスーパーガールたちが全国を舞台にバンバン勝ち名乗りを上げていく。  中等部にスポーツ特待の枠はない

          真剣ガールズ 第2話

          真剣ガールズ 第1話

          あらすじ  恋に恋するユカは、中学生になったら必ず彼氏を作ると誓った。  しかし、入学したのはお嬢さま学校、聖ラシエール女学園。当然、男子生徒はゼロ。しかも寮に入り、異性と出会う機会はまるでなかった。  そんな女の園で出会ったのが、剣道部のみやび先輩。  超絶にカッコよく、鬼のように強い。  みやび先輩は学園のアイドルで、親衛隊まで組織されている。  ユカはみやび先輩に一目惚れをする。稽古を通じ仲がよくなり、ユカは楽しい学園生活を送るのであったが……。  コメディ風の学園恋

          真剣ガールズ 第1話