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いつか観た映画・ソロモンさん(後編)

「ソロモンさん」こと広瀬正一は、本多猪四郎監督の映画「キングコング対ゴジラ」で、キングコングのスーツアクターをしていたという。
ところで、本多猪四郎監督の「ゴジラ」第一作は、1954年11月に公開されている。ちなみに「七人の侍」の公開は、1954年4月。栩野さんの話によれば、1954年3月の第五福竜丸のビキニ環礁での被ばく事件のあと、1954年の5月に「ゴジラ」の企画が持ち上がり、8月に撮影を開始して、11月に公開したという。
そのゴジラのスーツアクターは、中島春雄である。この中島春雄も、映画「七人の侍」に斥候役で出演している。つまり、ゴジラになる前の中島春雄を見ることができるのだ。そして「七人の侍」では、「キングコング対ゴジラ」のスーツアクター同士が、すでに共演しているのである。
さて、Wikipediaの「広瀬正一」の項目によれば、「キングコング対ゴジラ」のラストシーンで、「キングコングとゴジラが共に海に見立てた大プールに落ちるシーンがあるのだが、「落下の勢いで中島春雄がゴジラに入ったまま溺死しかけたのを、キングコングに入っていた広瀬がとっさにすくい上げて九死に一生を得た」というエピソードがあるという。これもまたすごいエピソードだ。

「ソロモン」こと広瀬正一は、1971年に東宝の大部屋が廃止になったあとも、東宝の撮影所の用務員として撮影所に残り続け、ほそぼそと俳優を続けていたという。
で、栩野さんの話で僕が驚いたのは、このあとである。
広瀬正一さんの遺作は、大林宣彦監督の映画「日本殉情伝 おかしなふたり ものくるおしきひとびとの群」(1988)だという。地元のヤクザの親分の「浜の勝造」を演じたのが、広瀬正一さんだというのだ!!
えええぇぇぇっ!!!あの「浜の勝造」は、ソロモンさんだったのか!!!
…て、驚いているのは、俺だけ???というか、そもそも「おかしなふたり」じたいが超マイナーな映画で、たぶん誰も観たことがないだろう。
しかしこれはやはり驚きなのである。あの映画で、鮮烈な印象を残した「浜の勝造」は、ソロモンさんだったのか…(あまりに驚いたので2度言う)。
この当時は撮影所の用務員さんだったが、たまたま声をかけられて出演したのだという。そもそもソロモンさんは電話をもたなかったので、実際に撮影所に行ってソロモンさんを見つけることでしか連絡を取ることができなかったのだそうだ。
その後、1990年代半ば頃に体調を崩し、老人ホームに入所するが、ほどなくして死去し、その正確な没年は不明だという。

…なんか、すごくない?ソロモン海戦から始まって、東宝の大部屋俳優、スーツアクター、撮影所の用務員を経て、最後、老人ホームで息絶えるまで、なんとも波乱の人生ではないか!この人が主人公の映画を作ってもいいくらいだ。こういう人たちが、黄金期の日本映画を支えていたんだね。
そしてその映画の歴史に対する敬意から、大林宣彦監督は、ソロモンさんを起用したのではないだろうか。

…て、当然この話わかってるよね、てな感じで書いているけれども、例によって誰にも理解されていない自覚はある。

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