見出し画像

憧れの旅人の背中は、ずっと先。

創作活動をしていると、ひとりでやっているんだなと思うことが多い。
読んで下さる方がいる以上、完全にひとりではないけど。作り上げる過程は、今の所ひとり。編集とかないしね。
そこで考えたのは、巷のファイトソング。
独りじゃない、とか。頼れる人が傍にいる、とか。ファイトソングを聞くとそういう気持ちになれる。元気付けられて、這いずって前に進む力をもらえる。
それも一つの真実。だけど、そんなもんは裏表に移り変わるものであって。
時々、えぇい創作なんぞ所詮ひとりで戦うものなんだ、と臍が曲がる。
思うように続きを書けないとき、展開は浮かぶのに言葉が掴めないとき、苛立ってスマホを投げ出したりする。(よくないし、あとでスマホに謝る。)
そうして、負のループに囚われると妬み嫉みや憧れが頭の中に悪さをするわけだ。お前には全く、才能がないな呆れたよ、と。
あの人は、この人は、こんなにも素晴らしいものを書いて残して、こんなにも沢山の人に読まれているではないか。やれやれ、それに比べてお前ときたら……いやいや、皆まで言うまいよ。……と、チクチク劣等感を刺してくる。慣れたものではあるのだけれど、痛いものは痛い。

何度、書くことをやめてやろうと憤怒したことか。虚しいだけだと涙したことか。
しかしまぁ、僕だって短期決戦に書き物と向き合ってきたわけじゃないはずだ。少なくとも一桁の歳の頃からものを書いてきた。
当時何を思って書いていたかは、もうすっかり忘れてしまったけれど。
僕はファンタジーが大好きだった。憧れるキャラクターもいた。
剣士? 銃使い? ハンター? エルフやヴァンパイアのような、人ならざる強い存在?
そういうものではなくて、もっと目立たないもの。僕は、ひっそりとした旅人になりたかった。
少しの魔法とギターを持って、町から町へ、ゆっくりと歩んでいく旅人。相棒は、一羽の烏だ。
旅先で、困っている人を助けたり、ギターを弾いて歌を歌って、みんなが笑い踊るのを見たり。そうして数日後には、みんなが惜しむ中、振り返らずに烏と共に次の場所へ渡っていく。
そんな、クールで渋くて、楽しいキャラクターに憧れていた。

この世界は現実で、そんな人間にはなれそうにもないが、僕は未だにそんな自分を夢に描いている。創作は、僕がそんな憧れの旅人になる唯一の方法だ。
だから、やめたくてもやめられないし、やめても舞い戻ってしまう。自分の思い通りにはいかないし、憧れには程遠いとわかっていても。
頭の中で、相棒の烏が鳴く。その声は、僕を僕に戻してくれる。
この烏は誰かの翼を借りて空を飛ばないし、自分を恥じてその色を石鹸で洗い流したりはしない。ただ、翼をはためかす黒い烏でいる。
それと同じだ。
書けるものは限られていて、表現できるものは少ない。僕には、それだけの力がまだ備わっていないから。
しかし、それを嘆いていても仕方ない。色々試して、やり易いところを、書きやすいものを、つらつらと生み出すしかないんだ。
いつか旅を終えるときが来たら、烏と別れギターを置く日が来たら、筆をしまう日が来たら。
きっとそのとき僕はやっと、追いかけ続けた旅人になれる。ま、その日までそれなりにやってみよう、それなりに。


この記事が参加している募集

#自己紹介

227,686件

#スキしてみて

523,049件