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ままならない

人生とは、ままならないものだ。
やりたいことがあることと、やれることがあることとは、似ているようで全く違う。やりたくてもやれない、やりたくないけどやれる。悶々と生きていくのが、人間という生き物なのだろう。
悲しいことに、僕は言葉は使えるけれどそれを求められてはいない。それもまた、理想と現実の齟齬のひとつ。
まだ若い、と自負しているが、にも関わらず僕はもう今後の人生を悲観している。
そりゃあ昔は──世間を何も知らない、夢さえあれば楽しかった昔は、何にでもなれた。
医者、研究者、考古学者、教師、俳優……
そして、作家。
優しくて暖かい未来地図は、歳を重ねるごとに汚れて破れて、今では目的地さえ見失って。見るに堪えない。
もし今、あの頃に戻れるとしたら、僕はあの幼い大馬鹿者を全力で張り倒すだろう。
現実を見ろ、もっとよく考えろ、ちゃんと頭を使え、と。
底なし沼に沈み、周りから断絶される感覚を味わわせるのは、些か同情心が湧くからだ。
夢が夢のままであることは、それ自体美しい。しかし、同時に最悪の痛みでもある。
それは、自分が自分として在ることを誰にも知られないことと同義だ。
書いても書いても、夢は所詮夢でしかない。
筆が止まってしまえば、現実世界で、なんとなく居心地の悪い、幻肢のような感覚と共に電車に揺られて仕事に行く羽目になる。その退屈さ、その不満感たるや、言葉では足りない不快だ。
以前に書いた、文字の読めなくなった小説家の短い話は、ある意味僕の理想だった。
何も叶わないのであれば、夢を見る方法を失ってしまえば、気が楽になるのではないかと。強制的に眠りにつくように……少々乱暴だが、穏やかな日々をもぎ取れる気がした。
実際、本当に安寧を得られるかは体験しないと分からないが。
書くだけなら、タダである。
そう、タダ。得るものはない。
痛くて脆い、酷い夢に溺れるだけ。
連休が終わるように、甘い夢物語も終わる。
全くもって、人生とはままならないものだ。