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妖の唄ー源さんのおでんー


或る夜の麒麟。

またおでんが恋しくなって『闘魂』に足が向いた。
屋台の明かりが既に温かさを演出しているのがたまらない。

「やあ、ごしゅ……」
暖簾をくぐって主人に声をかけようとした麒麟は言葉を続けることを止めてしまうくらい面食らってしまった。
『よお、麒麟ちゃん』
源さんが『闘魂』の屋台に立っていた。
「どうしたんだい!?源さん」
『いやね、実はーー』

源さんがひとりで『闘魂』に呑みに来たある日。
主人が源さんに告げたらしい。
近々引退すると。
源さんはそれを聞いていても立ってもいられなく、主人に弟子入りを決めたそうな。
『闘魂』の主人から徹底的に味を叩き込まれてーー。

『ってわけよ』
「そうかぁ……ご主人引退したのか」
『麒麟ちゃんあれからしばらく来てなかったもんなぁ』
「いやはや、後を継ぐとはねぇ……」
『あの味を亡くすのは惜しいと思っちまってねぇ』
「わたしとしちゃぁ有難い。源さん、貧乏神引退だね」
麒麟は笑う。
『そうさ、アレはもうやらねぇ。だけどよ……』
「どした?源さん」
『貧乏神の特質は消えねぇ』
「源さん……」
『人に憑く事も家に憑くことも出来る貧乏神は屋台にも憑けるんだ』
麒麟は源さんの言いたい事を察した。
しかし。
『でもよ、麒麟ちゃん』
「ん」
『オラもびっくりしたんだよ、あの母子を助けたあの能力覚えてるかい?』
「あー、不幸にならなかったら貧乏神が離れることが出来るってやつね」
『そうそう、そしてそこに幸福が舞い込む』
「そうだったな」
『オラ、この屋台に憑いたことになってたんだが、おでんを食べた客がよ、不幸にならねぇんだ』
麒麟は察して微笑んた。
『そしたら貧乏神は離れられる。でもよ、屋台は辞めたくない』
「ん、そうだよね」
『屋台に幸福が舞い込んだんだよ』
「どんな??」
『オラの貧乏神特質が消えたーー』
「ほんとかよ!?」
『ああ、自分でわかる。人を不幸を不幸にするあの力が消えた』
麒麟は嬉しそうに微笑んだ。
『オラ、貧乏神じゃなくなったんだ』
「源さん、わたしの言った通りだったじゃないか」
ーーあんたは貧乏神なんかじゃないよ。
『ありがとうよ、麒麟ちゃん』
「せっかく後を継いだんだからさ、屋号新しくしようぜ」
『え!?』
懐から符を取り出し暖簾に張り付けた。ブツブツと言霊を吐き出す麒麟。
指をパチンと鳴らした瞬間に暖簾の屋号が変わった。
【おでん  源さん】

「いいじゃない」
『おお……』
「もう、立派なおでん屋の源さんだよ」
源さんはちょっと涙ぐんでーー。
『今日は何にしましょ?麒麟ちゃん』
「じゃあ、ご主人、大根とハンペンで」
『あいよ』
おでん屋の源さんの声が元気に響いた。


[完]




スピンオフってわたしがやっても楽しいっすね✨

サポートなんてしていただいた日には 小躍り𝑫𝒂𝒏𝒄𝒊𝒏𝒈です。