記事一覧
きっと気持ちは通じ合うー『夜中に犬に起こった奇妙な事件』
https://amzn.eu/d/7MprSP0 イギリスの中学校に通う息子が、英語の授業で使う本だということで読み始めた。邦訳も出ているし、ウェストエンドで舞台化もされるほど、イギ…
多様性の中の伝統 『眠りの森の美女』
バーミンガム・ロイヤル・バレエの『眠りの森の美女』をロンドンで見てきた。ピーター・ライト版の舞台演出は、まるで本革と金文字で豪華に装丁された絵本のページを、目の前でゆっくりとめくっていくような感覚で展開していった。その豪華本の物語で主役のオーロラ姫を演じるのは、谷桃子バレエ団の動画で「次元が違う…!」と絶賛されていた平田桃子さん。オーロラ姫の周りだけ重力が軽くなるような魔法がかけられているのかと思
もっとみるアレグロとアダージオが紡ぐバレリーナの人生。
表紙は、今ではほとんど見ることのない1950年代ごろのバレリーナの体の線。背表紙にはイギリスでバレエの発展に貢献したアリシア・マルコワからの賛辞もある。そのシンプルでも何かバレエの真髄が詰まっていそうな装丁に魅かれ、古本屋で購入した。作者は、1932年に米アカデミー賞で最優秀作品賞を受賞した『グランド・ホテル』の原作者のヴィッキイ・バウム。ウィーン出身でその後アメリカに移住した女流作家だ。
主人
映画『オッペンハイマー』そこに描かれていない日本を探す
やっとこの映画を見た。直後に出てきた感想は、怒りに近いものだった。どうして私達日本人はアメリカにこんなにむごいことをされても、その後アメリカと友好関係を結ぶようになったのか。戦争が終わってからアメリカがどう日本人をマインドコントロールし、またどう日本人がマインドコントロールされてきたのか、映画には描かれていない部分について考えてしまった。
私は岡田斗司夫さんのファンで、どの動画だったか忘れてしま
終わりは始まり。Laufey『From the Start』
昨日、去年の5月から始めたプロジェクトを失敗という形で打ち切ることにした。このプロジェクトを成功させることができたら、職場で私の昇進もほぼ約束されたようなものだったので頑張ってきたけど、どうやっても成功という形には持っていけないことが分かった。いや、実はもっと以前、去年の12月ぐらいにはそういう予感がしていたので、もっと早くやめていればよかったのだ。でも決断ができたのは、2024年3月6日。これが
もっとみる『パリの迷い子たち』エッフェル塔から注がれる天使の視点
この小説(原題: The Strays of Paris)は、イギリスの大手書店のWaterstoneでフランスやパリに関する小説が集められていたコーナーに平積みになって紹介されていた。文章も短く手軽に読めそうな感じだったので、手にとってみた。作者はアメリカのピューリッツァー賞作家のジェーン・スマイリーで、日本語のウィキペディアページもまだ存在せず、日本ではあまり知られていない作家のようだった。
トレバー・ノアのお笑いに衝撃を受ける。
イギリスに10年も住んでいれば、もう英語なんて問題ないでしょーと思われるかもしれないが、やっぱり今でも英語は苦手だ。同僚たちと話していても、私だけ一人冗談が理解できていないことは未だに起きる。昔はそういう自分を恥ずかしいと思ったりしていたけど、最近は日本で友達と話していても私だけ最近の日本のお笑い事情がわからないため私だけがついていけないこともよくあるので、どっちでも変わらないなぁと思うようになっ
もっとみる小澤征爾さん、私は無事二足歩行動物に戻れました。
小澤征爾さんのファンになったのは、1993年ベルリン郊外ワルトビューネで行われたベルリン・フィルのピクニックコンサートのテレビ放送だった。バレエファンだった私はチャイコフスキーのバレエ曲ならだいたい聞き慣れていたのだけど、小澤征爾さんが指揮するくるみ割り人形の『花のワルツ』を聞いたとき、私の目前に広大な花畑が広がり、そこで花々がたくさん空に舞い上がっているような幻想を覚えた。ああ、これはバレエダン
もっとみるフランスの伝統は生きている。
Netflixでフランス制作の『Lupin』を見終えた。パート4にも期待したいのだけど、パート3でほぼすべての伏線は回収しているので、ここで終わってもまぁいいかという気もしている。
原作の怪盗アルセーヌ・ルパンの良さを忠実に守りながらも、アフリカ系の「ルパン」が実にうまく現代のフランス社会にぴったりと収まるようなストーリー展開となっていて、原作を知らない人もこの作品を通してモーリス・ルブランのル
映画『Maestro』ー私達は色彩のある社会を生きているか?
名指揮者レナード・バーンスタインの音楽や人生については、すでに多くのクラシックファンには知られていることもあるし、この映画自体が何かバーンスタインの新しい側面を見せてくれるという訳ではない。でもやっぱりこの映画は一見、もしくは多分音楽を楽しむためにもう一度以上見る価値は十分にあった。
映像の編集と音楽の使い方が見事だ。それだけ制作として名を連ねるスピルバーグやスコセッシも、ブラッドリー・クーパー
消えゆく声を呼び起こす『ゴジラ-1.0』
半世紀近く日本人として生きていているけど、ゴジラを映画館で見るという選択肢を取ることは全く無かった。もともと怪獣映画にも全く興味がない。でも、『ゴジラ-1.0』だけは、絶対に映画館で見なくては、強く思った。そうさせたのは、VFXが得意な山崎貴監督が撮った作品はやっぱり大画面で見ないと楽しめないということ(『アルキメデスの大戦』を長距離フライトの機内で見てすごくがっかりした経験から)と、その時代設定
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