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同棲してる彼女は子犬8割、狂犬2割。

PM7:54


会社帰りのサラリーマンやOL、授業終わりの大学生、これからデートの高校生カップル、、、

この時間帯になっても真っ昼間のような人混みが駅前に広がっている。


〇〇(この調子で帰れれば8時30分には帰れそうかな。)


夜ご飯は彼女が作ってくれてるし、風呂は貯まるように予約してきた。

俺、渡邉〇〇は朝に締めたままのネクタイを緩めながら最寄駅行きの電車を待つ。


ピコンッ!


あっ、彼女から連絡が来た。



ゆい「夜ご飯できてるよ〜」

ゆい「はやく帰ってきてね」


2通のメッセージと一緒に『この前買ったんだ〜』と自慢してきた猫のスタンプを送ってきた。

壁から両手を出してこっちを覗いてる猫のやつ。

〇〇(なるほどなるほど、、、)


日頃はあんまりスタンプなんか送ってこないけど、文面とスタンプの絵柄で本心は丸分かり、、、笑

俺は可愛すぎる彼女にニヤけそうな表情を堪えながらキーボードに指を滑らせる。



「りょーかい」〇〇

「寂しいから早く帰って来てってことね」〇〇


とりあえずこんなんでいいか。

俺は素直じゃない彼女をこんな空気感でいじるのがかなり、、、いや結構好き。


ピコンッ!
ピコンッ!
ピコンッ!


おぉ、弁明の連絡がめちゃくちゃ来てるな。

まあ家帰ったら直接イジるから返さなくてもいいや。


『まもなく、電車が参ります。黄色いラインより内側でお待ちください。』


そろそろ電車がやってくる。

俺は通知の鳴り止まないスマホをポケットに突っ込んですでに満員電車気味の車両に乗り込んだ。

うぐっ、、、、、あとで由依ちゃんに癒してもらお。

知らないおじさんの肘で押されながらそう決心しました。


最寄駅。


〇〇「、、、、、、っはぁぁ、、、」


とてつもない息苦しさから解放された拍子に思いっきり外の空気を吸い込んだ。

駅から10分弱歩くだけで愛する彼女に会える。

それだけでなんとか足を動かそうって言うエンジンがかかる。


〇〇「さてと、帰りますかね、、、」


あっ、コンビニでビールでも買ってこうかな。

由依ちゃんと乾杯したいから。


〇〇「一応、返信だけしとくか」


5分くらい前にようやく止まった由依ちゃんからのメッセージ。

『21』という数字がメッセージアプリのアイコンに表示されている、、、どんだけ送ったん、、、、、



ゆい「寂しくないから!」

ゆい「いや寂しくないわけではないけど、、、」


彼女が送ってきてくれたメッセージを見ると大体こんなことがつらつらと。

どれだけ必死に弁明してんだ、、、笑

ほんとに可愛い彼女だな〜笑


「もうちょっとで帰るね」〇〇

「帰ったらあとで甘やかして」〇〇


ゆい「無視すんなって」

ゆい「まあしょうがないな〜」


自宅。


缶ビール2本が入ったビニール袋を片手に玄関の鍵をガチャガチャと開ける。

さてさて、まずは由依ちゃんとご飯を食べて風呂に入って、、、、、一緒に入ろうかな。


〇〇「ただいま〜」

小林「おっ、、、おかえり、、、、///」

玄関を開けたら彼女の由依ちゃんが買ったばかりのエプロンをつけてお出迎え。

なぜか顔が赤くなってるけど。


〇〇「ただいま、由依ちゃんもお疲れ様。」

小林「まぁ、、、///」


いつもだったら『ご飯できてるから一緒に食べよ。』とか『お風呂入っちゃいな。』とか。

そんな言葉をかけてくれるんだけど、、、


小林「、、、、、、///」

〇〇「え?どうかしたの?」

小林「あっ、、、えと、、、、、んっ!」ギュッ

次の瞬間、俺の胸にすっぽりと収まるように由依ちゃんが飛び込んできた。

彼女のつけている優しい香水の匂いが鼻をくすぐる。

そしてどこか不器用に背中に手を回して恥ずかしげに俺の顔を見つめてくる。


〇〇「ゆっ、、、由依ちゃん、、、?」

小林「なに、、、///」

〇〇「なんか珍しいね、由依ちゃんからって」

小林「自分で癒せって言ったくせに?」

〇〇「それでか」ナデナデ

小林「うひひっ、、、///」


俺の顔を見つめながら掌の感触を楽しんでいるのが彼女の小林由依ちゃん。

大学1年目で付き合い、3年目で同棲開始、もう少しで交際期間5周年を迎えるところ。

大学卒業後は俺は無事にホワイト企業へ就職し、由依ちゃんは立派なオフィスレディーとして働いている。

小林「、、、、、、よしっ。
   それじゃあご飯食べよっか?」

〇〇「はーい」


由依ちゃんから解放された俺はスリッパを履いてリビングへ。

ジャケットとネクタイをシワにならないようにソファへ置いて一息つく。


小林「今日は唐揚げね、〇〇好きでしょ?」

〇〇「由依ちゃんのが特に」

小林「なにそれ笑」


冗談っぽく本音を話しながら2脚の椅子を優しく引いて座る。


小林「よいしょっ、、、」


目の前には綺麗な彼女、見るたびに惚れ直してしまう病です。


〇〇「うまそ、、、いただきます!」

小林「はい、どうぞ」


湯気のたつ白米、綺麗に盛り付けされたサラダ、鮮やかなキツネ色の唐揚げ、、、、

文句なんて死んでも付けられない最高の夕食。


〇〇「めっちゃ美味い、、、!!」

小林「そうだろ〜。
   〇〇が好きな味付けにしといたから」

〇〇「濃いめのやつね」

小林「そー。バッチリでしょ?」

〇〇「完璧すぎて涙出そう」

小林「出してから言えって笑」


気の置けないこう言う雰囲気は出会った時から変わらない。

本当に由依ちゃんと付き合って良かった、、、


小林「ほらほら、急いで食べると死ぬよ?」

〇〇「由依ちゃんの料理で死ぬなら本望」

小林「あっそ、、、///」


〇〇「ふぅ、、、ごちそうさま!」

小林「私もごちそうさま〜」


俺は2人分の食器を持って台所のシンクに置く。

食器洗いは俺の役目だからね。


小林「ん、ありがと」

〇〇「こちらこそ美味しいご飯ありがとね」


長袖のシャツを捲って水道のレバーを上にあげる。

由依ちゃんはワンプレートでご飯を出してくれるから洗い物が少なくて助かるわ。


小林「明日は何食べる?」」

由依ちゃんは椅子に座ったまま俺の方をじーっと見てます。


〇〇「久々に外食でもする?」

小林「おっ、いいじゃん」

〇〇「ジャンルは?」

小林「んー、、、ヨーロッパの方面で」

〇〇「広い、もうちょい狭めて」

小林「じゃあイタリアンがいいな〜」

〇〇「おっけ、いいところ探しとく」


そんな感じに頭を使わない会話を延々と繰り返すのがたまらなく好きだったりする。

おっ、そんなこんなですぐに皿洗いが終了。


〇〇「よしっ、それじゃ風呂に入りますかね〜」

小林「そっか、、、///」

〇〇「ん?一緒に入る?」

小林「うっ、うるさい!早く行ってこい!」

〇〇「はいはーい」


たぶん図星。

由依ちゃんって誤魔化す時に無理やり語気を強めたり言葉の勢いが凄くなったり。

照れ隠しのつもりでも全く隠せてないのも可愛いポイントの1つ。


小林「、、、、、、///」

〇〇(たぶんあの調子じゃ、、、、、笑)


浴室。


部屋着と下着、あとはバスタオルを置いて服を脱ぐ。

疲れた腕をなんとか動かしてシャツのボタンを外して洗濯カゴの中へ。


〇〇「ふぅ、、、今日も疲れたわ、、、、、」


湯船に浸かる前にシャンプーを泡立てて頭を洗い、洗顔クリームを泡立てて顔を洗う。

ついでに髭も剃っておくか。


〇〇(体は、、、、、あとで洗ってもらうからいいか)


彼女の覚悟が固まるまでにちょっと時間稼ぎで2回目の洗顔だったり髭剃りだったり。



ガチャッ、、、



あっ、脱衣所のほうに入ってきた音がした。

どうやら覚悟が決まったようです。


〇〇「由依ちゃーん、背中洗って〜。」

小林「うっ、、、///」



ドンッッ!!


あっ、どっかにぶつけた。

きっと彼女なりにはバレないよう慎重に入ってきたつもりなんだろな。

可愛いポイント追加でお願いします。


そして大体5分くらい経つと、、、、、


ガチャッ


小林「洗ったげるよ、、、///」

〇〇「うん、お願い」

タオルで前を隠しながら恥ずかしげに入ってくる由依ちゃん。

恥ずかしがる割にこういうことするからなぁ、、、笑


小林「体洗うタオル貸して」

〇〇「ん」

小林「よいしょ、、、」


〇〇「ほら、こっちおいで」

小林「うーわ、、、///」

〇〇「嫌な顔すんなら入ってこないでよ笑」

小林「嫌じゃないけど恥ずかしいから、、、///」


浴室に充満した湯気の中、湯船で由依ちゃんを抱き寄せる。

華奢な体に腕を回して肩に顎を置く。


〇〇「はぁ、、、落ち着くわぁ、、、、、」

小林「なんか変態みたい笑」

〇〇「うっせ」


由依ちゃんも俺の方に体重をかけてリラックスしてるご様子。

月に2〜3回だけ由依ちゃんが一緒にお風呂に入りたくなるらしいので。


小林「今日さ、ちょっと仕事ミスっちゃって」

〇〇「どんな?」

小林「発注の数間違えた」

〇〇「珍しいじゃん、そんなミスするの」

小林「まぁね〜
   最近はちょっと疲れてたから、、、」

だから今日は一緒に入ろうとしたのかな、、、?

由依ちゃんは整った顔だったり強気な態度を見せたりするから様々な人に頼られがちだ。

だけど中身はかなり繊細で甘えん坊な人。


小林「ちょっとオーバーワークだったな〜」

〇〇「今日もお疲れ様です」ナデナデ

小林「どーも、、、///」


抱きしめている俺の腕に優しく自分の手を添える由依ちゃん。

こういう子犬モードの由依ちゃんを知ってるのも彼氏の俺か、由依ちゃんの親友である渡邉理佐くらい。

小林「はぁ、、、」

〇〇「じゃあ今日はゆっくりしよ」

小林「そうだね〜」

〇〇「あっ、由依ちゃんが好きなドラマの続きって
   今日だっけ?」

小林「そうだよ。
   〇〇も気になっちゃった?」

〇〇「まあね、ヒロインの女優さんも前から気になっ」

小林「は?」

〇〇「え?」

小林「今なんつった?」


あぁー、、、やば。

由依ちゃんが狂犬モードに入っちゃった。

さっきまで身も心もぽかぽかしていたのに急に寒気のようなものが背筋を通った。


小林「ヒロインの女優がなんだって?
   確か長濱ねるちゃんっていう子だよね。」

以前はどこかのアイドルグループに所属していて、卒業後は女優として活躍しているらしい。

ねるちゃんは卒業後もいくつかのドラマだったりCMだったりに出ていて俺もよく目にしていた。

まあ、、、男としての本能が働いたってのもあるけど。


〇〇「いっ、、、いや演技力の話よ?」

小林「あとは?」

〇〇「あと?」

小林「怒らないから言ってみ?」


由依ちゃんを抱きしめる手が緊張で固まってしまう。

背中しか見えないというのに凄まじい圧力を感じてます、、、


〇〇「その、、、あの、、、、、」

小林「ほら早く」

〇〇「ねるちゃんってデカいな〜、、、なんて」

俺は正直に思っていたことを話すと、由依ちゃんは俺の腕に添えていた手をぱっと離した。

そして俺の顔をチラリと見て一言。


小林「最低」


ザブンッ‼︎


湯船から勢いよく立ち上がり、またタオルで体を隠して脱衣所の方に歩き出す。


〇〇「いや待ってマジで!!」

小林「ど変態彼氏の言うことなんて聞かないから!」

〇〇「そんなこと言わんで!」

小林「うるさいっ!ばかっ!」


やっぱり『怒らないから言ってみ』というのは信用してはいけなかった、、、

っていうかなに馬鹿正直に話してんだ俺は。


〇〇「由依ちゃんってば!」

小林「うっさい!話しかけんな!!」


その後、2週間弱は不機嫌だった由依ちゃん。

理佐に仲介してもらって何とか助かったけど、二度と由依ちゃんの前で他の女性を褒めることをしませんでした。


小林「次あんなこと言ったら、、、な?」

〇〇「すみませんでした、、、」

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