見出し画像

雑記:外出(都内)

駅前。
まだオープンしてもいないカフェのテーブルに、何故か食器だけが整然と並べられていた。まるで虚構の世界のようで、終わってしまった世界のようだった。

電車に揺られながら、学部時代、「木材と人間」という講義があったことを思い出していた。
「例年、秀を取れるのは受講者の10%程度」と説明のあった講義で、秀を取れたことを少しだけ自慢げに思っている。同時に、どうして高い評価を取れたのか、少し不思議だ。
「木材の有効活用」についての最終レポートで評価のほとんどが決まるのだが、自分は講義で見聞きしたことを可能な限り盛り込んだ。ウッドラケットからカーボン系に至るまでのテニスラケットの変遷について書き殴った後、材料特性には劣るかもしれない木材を、今一度表面素材として活用することで、自然な温もりとリラクゼーション効果を与え、プレーヤーのパフォーマンスを向上させる…みたいな趣味に近いことをつらつらと書いた記憶がある。今思えば、付け焼き刃の知識を詰め合わせただけのレポートなのだが、期末の成績書を見ると秀の文字が印字されていた。世の中の「正解」も、学術的な「正解」も、いまだによく分からない。

特に理由もなく都内に出た。歩き出して仕舞えば、案外気力も湧いてきた。秋葉原の電気街を当て所なく、ロボット掃除機やらオーディオインターフェースやらを一応の目当てにして歩く。

一人で飲食店に入る習慣がない。習慣がない、というと正確ではなく、実は少し苦手だ。なにせ陰気な性格なので。一人で入る時もあるが、一度行ったことのある店に限る。食券式なのか、後払いなのか。どれくらい混み合っているのか、どの席が落ち着けそうか。初めての店では、そういった諸々を想像して、入るのが億劫になってしまうからだと思う。
秋葉原はJRとの乗り換え駅ということもあり、もう何度来たか分からないが、一人で昼食を取ったことはない。昼下がり、空腹を感じながらも、最寄り駅に帰ってから食べようかと考えていたところだった。
そういえば以前、長野で働いている研究室の先輩と、カレーを食べたことを思い出した。確かあの時は、もう一人の先輩と昼下がりから飲んだ後だった。Google mapで調べながら、二度目の店に辿り着く。あの時と同じ味のするエビカレーに、少し安心感みたいなものを覚えた日曜日。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?