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タヨウセイ、バンザイ。

「多様性って全部が迎え入れるべきなのか…正直、ぼくはそう思えないんです。そこに問いを投げる番組なら、見る気がします。もうきれいごとはいいんですよね。」

来週の月曜日に番組企画の締め切りがある。
深夜枠ぐらいで、フォーマットもテーマも完全に自由。
全然アイデアは浮かんでこない中で、同居人の一人に相談したら、こんな返事が返ってきた。

次の日、本屋さんに行ったときに旅の道連れ用に、
朝井リョウの「正欲」という文庫本に手が伸びた。
あらすじはこんな感じ。

自分が想像できる”多様性”だけ礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちいいよな――。息子が不登校になった検事・啓喜。初めての恋に気づく女子大生・八重子。ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。ある事故死をきっかけに、それぞれの人生が重なり始める。だがその繫がりは、”多様性を尊重する時代"にとって、ひどく不都合なものだった。読む前の自分には戻れない、気迫の長編小説。

Amazon.co.jp: 正欲 (新潮文庫 あ 78-3) : 朝井 リョウ: 本

読んだ感想としては、ものすごく今のいろんな要素がちりばめられていて、まさに、同居人のニーズを満たしてるコンテンツだった。

同時に思ったことは、私は、「八重子」だと思う。

大学時代から「多様性っていいよね、そうじゃないなんて古いし、ダメだ」って考え方はあったつもりで、1年前まで、日本の多様性を促すような番組にいた。

その番組を制作をするにあたって、とある日本在住の「移民」の方に言っていただいた言葉がある。

「僕は、別に社会に認めてもらいたいとか思っていないし、仲良くもしたくないし、それを強いるのもやめてほしい。無意識にその行為ができるのが、マジョリティ側で、権力側にいるからですよね。日本社会でよくわからない僕らでいるよりかは、その社会にいるからちょうどいい範囲でいてくれないと、怖いんですよね」

その方は、当時ネットコラムを書いていて、それも書籍化されている。
「多様性バンザイ」って私のこともバッチリ書かれている。
(もしよかったら、こちらで買えます苦笑)

最近、もう一冊読んだ本がある。
村田沙耶香さんの「信仰」。

世界中の読者を熱狂させる、村田沙耶香の最新短篇&エッセイ
「なあ、俺と、新しくカルト始めない?」
好きな言葉は「原価いくら?」で、現実こそが正しいのだと、強く信じている永岡。同級生から、カルト商法を始めようと誘われた彼女は――。
信じることの危うさと切実さに痺れる8篇。

信仰 | 村田 沙耶香 |本 | 通販 | Amazon

基本的にいつもの村田さんのワールドで、
読むのもだんだんしんどくなっていたのだが、
その中にエッセイ「気持ちよさの罪」がある。
多様性に疑問を呈する、村田さんワールドの心のうちが見える。

二つの本を読んで言えることは、
分かったふりをしているけど、実際のところ全く分かってなくて、
メディアはいいとところ、耳障りがいい程度に無難なところしか取り上げないし、ちょうどいい程度に、コンテンツとして消費しようとしている要素はあるんだろうなと突きつけられる。

なにをメディアとして伝えていくべきなのか。
なにを伝えられるのか、と思う。
その答えとして、
この半年、マジョリティマイノリティの構造から外れた世界にいる。
「丁寧な暮らし」みたいな、ある種、マジョリティっぽい幸せの渦中を
追い求めているようなところに逃げている。

分からないし、怖いのだ。
時代は変わっても、
価値観は変わっていいといわれても、
変わったふりをどれだけしても、
どれだけ本当なのだろうか。

最後に、本題とはズレるけど、
「正欲」ですごく印象に残った表現を一つ。

「大晦日とか正月って、人生の通知表みたいな感じがする」(p275)


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