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「もしもし、運命の人ですか。」の破壊力

半年ぶりに恋愛がらみで「これはおもしろい!」という本を見つけた。
(前回は、「傲慢と善良」。こちらすでに10人以上に布教し、好評です笑)

個性派書店の平積みされていた、こちらの本。

「もしもし、運命の人ですか。」

いったいどういうことなんだと。
「もしもし」って、電話しか冒頭にしか使わないけど、あえてふつうでは絶対に続かない「運命の人」という、大胆な言葉をならべることのアンバランスさ。
過去これまでのたくさんの恋愛経験もあって、
もはや運命なんて信じる気持ちなんてほとんど消えかかっているけど、
まだその一縷の思いをもっていいかもしれないという期待と不安なのかなと。

著者の穂村弘さんといえば、歌人。
いつかの社内報で、穂村さんの「短歌をください」という書物が推薦本として紹介されていた。
というのも、私の会社では、ディレクターが番組のナレーションの文言を書く。取材対象者が感情を吐露するインタビューの前後など、過不足ないナレーションの言葉のセンスはめちゃくちゃ必要なのだ。

だからこそ、背景や状況そして感情もすべてを、洗練された限られた言葉で、表現することに長けたコンテンツ「短歌」は、ものすごいと思う。
その根底には、言葉のセンスだけではなく、人生経験と観察力も必須だ。

本文では、男女の微妙でリアルな恋の駆け引きがあふれている。
よくある女性の恋愛エッセイじゃなくて、歌人しかも、当時40代のそんなにイケメンじゃないおじさんが書いていることのギャップ。
鬼ロマンチスト。
ぱっと見モテない男性的な感じで本文は進んでいくけど、
この人とてつもなくモテるんだろうな、と思った。
というか、私、好きかも。まだ会ったことないおじさんだけど笑

(ついでに、岸正彦「断片的なものの社会学」も1冊読んだだけで、「あぁ、この人好きだ」ってなった、おじさん苦笑)

本文で、好きな表現をいくつか。

・問題は自分のスタンプカードの貯まり具合が分からないことだ。「ふたりで食事」までしかスタンプが貯まっていないなら、これ以上駒をすすめるべきではない。(p43 性的合意点)

・序盤から中盤過ぎまで圧倒的白で埋まっていたオセロの盤上に、最後の最後でほんの何点かおかれただけで、ぱたぱたと裏返ってすべてが黒く染まっていく(p161 「比較」と「交換」)

・<今>を起点として、無数に枝分かれする未来のルートの何本かが、きゅんきゅんきゅーんと点灯するのがみえる。それぞれの行先は、天国か地獄か。愛か慰謝料か。指輪か包丁か。(p169 コンビニ買い出し愛)

こうして書き出してみると、
やっぱり比喩がおもしろいんだな、と思う。
スタンプカード、オセロ、枝分かれするルート。
情景が見えやすい。
短歌絡みの勉強すると、イメージカットの表現の幅も広がりそう。

そういえば、先月、私の同期が30分の恋愛ドラマを作っていた。
これまでドラマには全然興味なかったけど、ちょっといいな、と思った。
いつか恋愛ドラマとか作ってみたら、私、けっこういい線いくと思うんだけどな。脚本とか書いてみたいかも。書いてみようかな笑

なにはともあれ、今度言ってみようかな。
「今日は、寒いですね」という返信に、
「え、今日はそんなに寒くないよ。寒がりなのかな(p87 1%ラブレター)」と。

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