見出し画像

現実逃避

20代後半のこと。
朝起きたら、顔に違和感があった。
顔の半分が動かない。
病院に行ったら「顔面麻痺」とのこと。
「ストレスですね」と言われる。
「入院しましょうかね」と先生。

不謹慎ではあるが、入院できてホッとした。
仕事は楽しくなってきたところ
だったけれど、逃げたい気持ちもあった。
逃げる明確な理由ができたとホッとした。
それから両親は不仲も不仲で、
そっちの方がきつかった。
一緒に暮らしていたから、そこから
一時的に離れられることにも
ホッとした。

後輩が本を3冊持って、
お見舞いに来てくれた。
中身を読んでないけれど、
おもしろそうだと思って買った、と言う。
雑誌に漫画。どれも読みやすい。
まったく。そこも後輩らしい配慮だ。
後輩は太宰治好きの人。
入院中のひとが気楽に読めるものを、と
彼女なりに考えて選んだのだ。
 
もらった本は、

①雑誌のanan
いい男特集、とかいうタイトルだった。
そこに載っていた俳優やタレントが
誰だったか、さっぱり思い出せないけれど。
目の保養、とか言われた。
読み終わったら、貸してくださいね、
と言われる。

②『ダーリンは外国人』(小栗左多里)
という漫画。この頃、私はフィンランドが
好き過ぎたから、それで選んだのだろう。
 
③『OLはえらい』(益田ミリ)
これは私たち頑張っているよね!
というエールだったのだと思う。

でも、後輩は中身をよく知らずに
買ったそうだ。全て。
 
この③『OLはえらい』がとても響いた。
後輩に早速病院からメールする。
「すごくいい」と。
今、この本は手元にないし、
どんなことが書いてあったかも
よくは思い出せないけれど、
響いたということだけが、
ずっとずっと残っている。
 
退院後、この『OLはえらい』を
同じ部署の女の子たちで回し読みした。
これはいい、とてもいい、
と言ってみんなで読んだ。
中には「わからん」という
Kさんもいたけれど、
さばさばとしたKさんらしい反応で、
それも良いなと私は思った。
 
しばらく益田ミリさんブームが
後輩を中心に起きて。
後輩が次から次へと
益田ミリさんの本を持ってくる。
これもいいですよ、と言って貸してくれる。
『すーちゃん』がしみじみ良かった。
ずっと心にある。
しみじみいいんだよなあ。
 

 
この前、益田ミリさんの本を
久しぶりに読んで、
あの頃のことを思い出した。
若い頃のあの思い出は格別だ。
益田ミリさんというだけで、
あの時味わった時間に浸ることができる。

ありがたいです。