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(掌編小説)くろねこ春子の日常#003小春の夢はひこうき雲

満月の夜に黒猫に変身する女の物語


「お父さん!あたしのチョコレート食べたでしょ!」
「お父さんは小春のチョコレートなんか食べてないよ!春子だろ?」
「にゃー」
「猫がチョコレート食べるわけないじゃん!ていうか、お父さん生きてた時、春子いたっけ?」
 私は目を覚ました。桜も緑の葉っぱがモサモサ茂る季節。だけど今朝は少し肌寒い。なんでお父さんの夢を見たんだろう?春子の夢はよく見るけど、死んだお父さんの夢は見た記憶が無い。お父さん、春子にヤキモチやいてるのかな?お母さんにLINEで告げ口しておこ。さてと、眠いけど着替えて出勤するか。

「小春!見てみて!あそこ!」
「小春じゃなくて小春ちゃんでしょ」
 全く、小学校2年生のくせに生意気な男だ。しかしかわいいから始末が悪い。オペを控えた翔太くん、最近特に駄々をコネがち。私は翔太くんの指さす窓の外を見た。
「お兄ちゃんからもらった飛行機、木に引っかかって落ちてこないの。取って!」
 ゴム動力かな?プロペラの付いた飛行機が見事に木の上に止まってる。それにしても入院中に遊ばせるおもちゃじゃないよな。
「あれ?翔太くん、お兄ちゃんいたっけ?」
「いとこのお兄ちゃんだよ!ねえ取れないの?」
 翔太くんの顔を見ると、涙が乾いたあとが沢山あった。鼻水も。私はティッシュで鼻水を拭い取りながら頭を撫でた。

 仕事が終わって中庭の木の下に行き、引っかかった飛行機を見上げた。飛行機は結構高いところに止まっていて、あんな所まで飛ぶんだなあと妙に感心。明日は満月の夜か、やってみるか。

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