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(掌編小説)アイドルを辞めて猫を飼う

歌は好きだよ。私は歌うのが大好き。でも届かないんだよなあ。私のグループは口パクだからね。だって大勢で歌うとさ、声も揃わないんだよ。本当はね、歌いたいんだよ。歌が好きだもん。
「みさきちゃん。今日はこの後クイズ番組の収録だから、そろそろ準備してね」
マネージャーのMさんは穏やかで優しい女性だ。この間結婚したんだよな。32歳。年齢よりもかわいく見えるよ。
「Mさん。本当のこと言うとさ、クイズとかバラエティとか嫌なの。歌がやりたいんだよね」
私がそう言って下を向いていると、Mさんがあめちゃんを一つくれた。
「グループで歌えるじゃない。ソロがやりたいのは分かるけどさ。これもお仕事」

Mさんは穏やかで優しくて、甘いあめちゃんを持っていて笑顔がかわいい。いつものように私はMさんになだめられて、クイズ番組の収録に入った。あんまり乗り気じゃなかったけど、突然スイッチが入ったようにやる気が出た。まさか共演者にA君がいるなんて!しかも私とペアのチーム!はっきり言って私はA君のファンだ。アイドルで歌がうまくてかっこいい。28歳。年齢もステキ。A君は気さくで優しくて、私をリードしてくれてトークも拾ってくれた。まともに話すのは初めてで、私はしょくぱんまんの前のドキンちゃんみたいに、目がハートマークになっていたはずだ。

「歌が好きなんだね?良かったらライブハウスに来る?小さなソロコンやるけど、飛び込みのゲストってことで歌わない?」
「え!いいんですか?じゃ事務所に内緒で」
私は後先考えずにOKした。そしてこっそり彼とLINE交換して、私は恋する20歳になったのだ。
ある日彼からLINEが来た。ライブの前に二人で飲まないかと。お互いのスケジュールを合わせて、私たちは深夜0時に密会したのだ。

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