本当になるよ【禍話リライト】

平成の後半のこと。
Aくんの通っている私立の中高一貫校には、使われていない旧校舎が残されていた。

「この学校、なんで旧校舎が残されてるんだろうね」
「取り壊せばいいのにね」

そんな話をしていたのだが、あるとき、同じ部活の友達がある噂を仕入れてきた。
旧校舎にまつわる噂だ。

昭和の時代、こっくりさんが流行った時に、隠れてやっていた連中がいて、そのときに不審火が出て部屋が焼けて、何人か怪我をした。
それで、こっくりさんが禁止になったという噂だった。

その噂を聞いたAくんたちは、俄然興奮した。

「こっくりさんって、そんなパワーあんの?!」

火をつけたのはこっくりさんだと解釈したのだ。

「いやいや、そんなことないでしょ。こっくりさんって火のお化けじゃないんだから」

そんな風に反論するやつもいて、議論は紛糾した。

旧校舎は立ち入り禁止だったが、ガチガチに封鎖されているわけではない。
入ろうと思えば入れるような場所が、いくつかあるのだ。

「じゃあ、真偽を確かめるために、ちょっと行ってみようや」

そんな話になり、Aさんたち文芸部のメンバー5人が、旧校舎に入ってみたのだそうだ。

「三階の部屋らしいよ」

噂を聞いてきた友達の先導で現場に行ってみると、確かにそれらしい部屋がある。
旧校舎は全体的にボロボロのなのに、一部屋だけ使われていなかった感じの部屋があった。
入り口には大きな南京錠がかけられていて、封印されている。

「これ、マジじゃん」
「何か見える?」
「どれどれ……」

中を覗いてみると、確かに部屋の一角が焦げているようだ。

「マジじゃん」
「すげえ」

Aくんたちは外に出て、口々にこっくりさんの力を称えた。

「やー、こっくりさんパワーすげえな!!」
「侮れないなぁ」
「まあ、『地獄先生ぬ~べ~』でもキツネのキャラが火を操るしな」

興奮する友達の話を聞いていて、Aくんはそんなもんかな、と思っていたのだそうだ。


数年後。
高校に上がって、国語の先生と話しているときに、Aくんは国語の先生にこの話をしたのだという。
国語の先生はそこそこベテランで、もしかするとこっくりさん事件当時も学校にいたかもしれないと思ったからだ。

「実は中1の時、学校の七不思議を調べるために旧校舎に行ったんですよ」

もう時効だろ、というつもりでAくんがそう言うと、国語の先生は微笑しつつも嗜めてくる。

「ダメだよ、お前危ないんだから」
「そのあとは一度も行ってないです」
「当たり前だ」
「で、そのとき3階に行ったんですけどね」
「3階だめだよ、危ないよ。教室には入らなかったよね?」
「入りませんでした……っていうか、鍵ががっちりついてて無理でした」
「それはそうだよ。あそこは入れないようにしてんだよ」
「部屋の隅が焦げてますよね?あの部屋」
「そうだね。あれ、遠くから見てもわかるよね」
「あれ、すごいですね。九尾のキツネ的な技で燃えたとかですか?」

Aくんがそう言うと、先生は意外そうな表情を浮かべる。

「何言ってんの?」
「……え?」
「ああ、お前らのイメージだと、こっくりさんしてて紙が燃えたとかそう思ってんの?」
「はい、そうだと思ってました」
「そうじゃねえんだけどな」
「違うんですか?」
「当時若手だったんだけどさ、俺、消火活動に関わったんだよ」
「当事者じゃないですか」
「こっくりさんが何度も同じ返事しかしないことがあったらしくてな。あ、俺は信じてないんだよ?こっくりさんなんか。ま、自己暗示かいたずらだと思うんだけど、それに腹を立てた一人の女の子が、紙を燃やしたんだよ」
「人が火をつけたんですか!?」
「まあ、当人としてはそんな大ごとになるって思わなかったようでな。その程度で木に火が付くはずがないって思ってたのに、なぜか教室に火が広がって、ちょっとしたボヤ騒ぎになったんだ」
「そうなんですか。そういうことだったんですね。じゃあ思い込みでやっちゃったってことで、こっくりさんパワーじゃないのか……」

すると、急に先生の様子が変わった。

「いや、まあ、その……ここまでのくだりは、正直こっくりさんというか人間じゃないものは関与してないと思うんだけど……」

急にしどろもどろになる…

「何言ってんすか?もう、こっくりさん出てくる余地ないんじゃないですか?」
「……俺は後で駆け付けたんだけど、当事者の子たちが言うのよ」

先生の話によると、火が燃え広がった時、こっくりさんをしていた女子生徒たちは「消火しなきゃ」と思ってすぐに動き出したのだという。
すると誰かが、トイレの掃除用具入れにバケツがあったはずだと言ったので、皆でトイレに行ってみると、何故かバケツがあったようなスペースだけが空いていて、バケツそのものはない。
不思議には思ったが、何よりもまず消火が最優先である。
手で水をすくって持っていく程度ではとても間に合いそうにないので、生徒の一人が「先生呼び行ってくる!」と言って教室を飛び出した。

しかし。

階段から下に駆け降りようとして、足が止まった。

踊り場に誰かがいる。

女だ。

掃除で使うブリキのバケツを重ねて両手で抱えてこっちを見ている。

見たこともない、中年女だった。

女は、童謡のような節回しで、聞いたことのない歌を歌っている。

「ほんとだよ、ほんとになるよ」
「ほんとだよ、ほんとになるよ」

そのフレーズを繰り返しながら、独特の節回しで体を揺らしながら楽しそうに歌っていた。

「うわぁ!!」

彼女は反対側の階段を駆け降りてから外に出て、助けを呼んだ。


「……で、俺もそこに駆けつけて、何とか火を消したんだけどさ。当事者の女の子たちがおいおい泣いてて、『踊り場に変な女がいる』って繰り返すんだよ。でも、そんなはずないんだよ。火事だっていうことで大変だから、外からいっぱい人が来て、どっち側の階段からも上がってきたんだよ?でも、誰もそんな女を見かけていない。……でも、確かにバケツはなかったんだ。用務員に聞くと、絶対バケツはあったって言うから、おかしいな、どこ行ったんだろうってことになったんだけど……」

一か月後。
使っていない焼却炉のなかから、べこべこにへこんで使い物にならなくなったバケツが二つ、見つかった。
到底女子生徒の力では不可能なほど、バケツはボロボロだったそうだ。

「……まあ、だからそれは変質者の仕業ってことになったんだけど、俺はあれは人間のしたことじゃないと思うんだよな」

Aくんはその話を聞いてゾッとして、やっぱりこっくりさんパワー半端ねえ……との思いを新たにしたそうだ。

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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「ザ・禍話 第2夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。

ザ・禍話 第2夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/600889557
(36:14頃〜)

※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。

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