棒の庭の家【禍話リライト】

禍話には、「アイスの森」という話がある。
打ち捨てられた私有地の中に、さまざまな生き物の「名前」や「種類」が書かれたアイスの棒が、無数に突き立てられている……という話なのだが、その話を紹介した時にも言ったように、話してくれた人は少し細部を変えているように思われたため、なんとなく舞台は森じゃないんじゃないか……と私は思っている。
そのためか、たまにここがアイスの森の舞台じゃないか、と言ってくるDMが届くのだが。

Pさんという方から、こんなDMが届いた。

「うちの近所に私有地があるんです。そこには何かの廃墟があって、その中庭に棒が刺さっているとか。ひょっとするとそこがアイスの森の舞台じゃないですか?」

そのDMには詳しい場所も記されていた。
だが、これまでにも述べてきたように私は話の舞台となった場所を出来る限り聞かないようにしている。
だから私はこう返した。

「いや、僕、知らないんですよ。それに本当だったらいかない方がいいですよ。危ないですから」

しかしPさんは、どうやら行ってしまったようだった。
数日後、彼からのDMで、私はそのことを知った。
そこにはこう書かれていた。

「行きました。幽霊が出たとかはないんですが、めちゃくちゃ怖いことがあって逃げ帰りました。僕がアホでした」

気になった私は、「何があったんですか?」と返す。
Pさんはそれの返信で、こんな話を書いてきた。


その私有地は、地元の有力者の所有だったと噂されている。
確かにその私有地の中には廃墟があるのだが、経年劣化して酷くボロボロになっていた。
何の建物かはわからないが、サナトリウムのような雰囲気があったという。
ただ現在は、警備なども特にしている様子がないため、侵入自体は容易だろうと思われた。

そこでPさんたちのグループは、昼間にそこに行ってみたのだそうだ。

行ってみると噂通り、中庭にアイスの棒のようなものがたくさん刺さっている。
しかし、「アイスの森」の話とは異なり、全てに同じ名前が書かれていた。
書かれていた名前は「ミケ」だった。
猫の名前のようだ。

「この下に全部ミケが死んでるってこと?」
「そんなわけないでしょ」

ところどころ掘り返されている部分もあるので、少し土を退けてみたが、そこには特に何もない。
骨くらい出てくるかと思っていたが、そんな様子もなさそうだ。

「なんだこれ?」

ただ、何処からか腐敗臭がすることは確かだった。

「おそらくどっかには埋まってるんだろうね」
「でもさ、これどういうこと?」

そんなことを話していると、建物の中にいつの間にか侵入していた友達の一人が、慌てた様子で飛び出てきた。

「こえーこえーこえー」

見ると、手にはノートが2冊握られている。

「おいおい、ダメだよお前、ひとんちのもん勝手に持ってきちゃ」

諌める仲間たちの言葉には一切耳を貸さずに、友人はノートを目の前に突き出してくる。

「これ、みてみて」

それは、懐かしい小学生用の学習帳だった。
友人がノートを開く。
中には大きな字で日付と「ミケが帰ってきてくれた」と書かれている。
どうやら、日記のようだ。
ところがそのすぐ次のページに、数日後の日付が書かれていて、「ミケが死んだ」と書かれている。
さらにそのまたすぐ後に、「ミケが帰ってきた。やはり私のゆいいつの友だちだから帰ってきてくれた」と続く。

「え、ミケ、帰ってきてるの?」
「そんなはずないだろ…」

何だかわからないがやたら不吉な内容にPさんたちが戦慄していると、「もう一つ違うのがあって」と友人はもう一冊を前に出してくる。

「奥の本棚に、この手帳が」

そちらはノートではなく、大人が使うような大きめの手帳だった。
中を見ると、親御さんと施設の関係者がやり取りをしているような内容だった。
子供が施設で過ごす日々の様子が綴られている。

「これが、どうした?」
「最後、最後」

めくっていくと、半分くらいのところでやり取りが終わっているようで、そこから先は白紙であった。
その、書かれている一番最後のところに、親御さんが何かを書き殴っている。
乱れた筆致なので、一見すると何が書いてあるのかよくわからないのだが、最後に一際大きな字で、はっきりとこう書かれていた。

「あの子、全部承知で殺していると思います」

「おーっとっと……これはこれは」
「おい、戻してこいよ」
「あ、はい」

友人はなぜか丁寧語を使ってそう言うと、2冊を抱えてすごい勢いで建物内に戻っていく。
残されたPさんたちは、先ほど見たノートの内容について話し始めた。

「つまりこのー、その女の子が飼ってる猫が死んだってことで、親が可哀想だから似た猫を与えるというのを続けてるけど、どうやらその子が猫を殺してるってことなのかな……?」
「そうかもしれないけど……イヤイヤ、やばいでしょう。それ、絶対ダメでしょう」
「この中庭の掘り返した跡だけどさ……最初は親が気を効かして掘り起こしてたけど、途中から諦めてそのまんまってことじゃないの?」

そうこう言っているうちに友人が戻ってきたのだが、どうにもひどく凹んでいる。

「どうしたよ?」
「あのさ、ノート返した時にさ、見ていなかった最後のページをみたんだよね……」
「それで?」
「こう書かれてたんだ……『何度も帰ってきてくれたのに帰ってこないなんで』って。そんで、字が綺麗になっていて……あれは中年くらいの人が書いた字だ」

Pさんたちは一も二もなく、その場から這々の体で逃げ出したのだそうだ。

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それ以降、PさんからのDMはない。
ひょっとするともう、怪談などは一切聞いていないのかもしれない。
DMは最後、こう結ばれていたからだ。

「それだけのことなんですけど、本当にすいませんでした。まだ怖い気持ちが残ってるし、こんな気持ち悪いのはもう嫌です」

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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「ザ・禍話 第1夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。

ザ・禍話 第1夜
https://ssl.twitcasting.tv/magabanasi/movie/599438369
(45:09頃〜)

※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。

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