ばらばらの山【禍話リライト】
普通に車が通っていて、途中までは民家がいっぱいあるような、花見シーズンには近隣の人が集まって一杯やるような、そんな山で起きた話。
夜。
Cくんたちがあてどないドライブをしているとき、運転手が「久しぶりにこの山道通っていい?」と尋ねてきた。
助手席のCくんは、「運転してるお前の好きにしろよ」と答える。
「おっけい」
そう言って運転手は山道に入って行った。
山道とは言っても、舗装はもちろん道もきちんと整備されている。
グニャグニャ曲がってるわけではないし、ガードレールも綺麗なものだった。
街灯もついてるし、カーブもきつくない。
山道って言うからベロベロに酔うかと思ったけど、これならいいな。
Cくんはそう思っていたそうだ。
その山を上って、今度は道が下り始める。
半分くらい下りたところで、進行方向の右手側にダンボールを振っている人がいた。
ちょうどカーブのすぐ先のところだったので、見つけるのが遅れて減速が間に合わず、その人の脇を通り過ぎた後、ギリギリ見えるくらいのところで車を一度停めた。
「え、こんなところでヒッチハイク?」
「こっちになんか見せてたよね」
後部座席に乗っている後輩が振り返る。
「こっちになんか見せてますよ」
「なんて書いてある?」
「街灯の間でみえないところに今いますけど、こっちに来てますよ」
「来てんの」
「……え?」
後輩が黙り込む。
「ヒッチハイクかなぁ」
「おかしくね、こんなとこで」
運転手とCくんが話していると。
「あ、やばいやばい!!」
後部座席の後輩が、慌てた様子で前方に身を乗り出してくる。
「おかしい奴です!!行きましょう、行きましょう」
Cくんが後ろを見ると、その人物はダンボールをこちらに見せつけるようにして走ってくる。
「逃げよう逃げよう!!」
運転手が車を出す。
追いかけてくる人物はスピードを上げて……などということもなく、追いつかないまま、やがて視界の向こうに消えていった。
ただ、後ろの後輩はガタガタ震え続けている。
「どうしたの?ぶっ殺すとか書いてあった?」
「いや」
「じゃあ何が?」
「いや、俺、山出ないと話せないです……」
そう言って震え続けているので、山を下りてコンビニに入り、駐車場に車を停める。
サイダーを買ってきて、後輩に渡すと、手がぶるぶる震えていてうまく掴むこともできない。
「俺が開けるよ。ところであいつなんて書いてたの?」
「あいつ……あの男ね、ダンボールに……
『ばらばらしたいがでる』
って、ひらがなで書いてました」
「おお……」
「ええ……バラバラ死体がある、とかじゃなくて、バラバラ死体が『出る』って?」
「出るって書いてました……それをこっちに見せつけるように」
「マジかよ」
「結構近づいてきたでしょ、その時見えたんですけど……顔が笑ってましたよ……普通じゃないですよ、あれ」
一週間後。
その時のドライブの面々を含めた数人で会った時に、前回はいなかった地元民の先輩が、Cくんたちの話を聞きつけたのか、
「なんかお前らすげえ怖い目に遭ったんだって?あの山で」
と尋ねてきた。
そうなんですよ、こういうことがあって……と説明すると、納得したように先輩が頷く。
「ああ、あれ、有名な人なんだよ」
その言葉に、Cくんたちはちょっと安心した。
「有名な人なんですか?」
「そう。あの人な、小学校の先生だったんだよ」
「先生」
「で、山登りが趣味で、でもまあ、本格的な登山っていうか、軽装で行く山歩きみたいなのが好きでさ。でね、ある時血相変えて山から戻ってきて、『バラバラ死体があった』って叫びながら家に飛び込んで来たんだと」
「おおごとじゃないですか」
「そうだよ。だからさ、家族も警察呼んで。その人が先陣切って案内したんだよ。……でも、何もなかった。当然、場所間違えたんじゃないかってことになって、山狩りもやった。でも、見つからない。それでも発見の状況とか、遺体の様子を事細かに描写するもんだからさ、じゃあやっぱりあったのかなって感じで、周りとしては半信半疑だったんだけど……そのうち、毎日毎日細かくそのことを話すようになっちまったらしい。授業中にまで、な。奥さんや子供も気持ち悪がって、離婚しちまったらしい。授業中ものべつまくなしに『あったあった、バラバラ死体があった』って言うもんだから、学校でも問題視されてな。それで先生も辞めて、今何してるかわかんねえな」
「……それ、何年位前の話ですか?」
「15年位前の話だよ」
「え?俺ら見たの、20代半ばくらいの歳の人でしたよ」
「いや、そりゃおかしいよ。今、40過ぎのはずだよ」
「じゃあ別の人って事ですかね……」
そう話していると、運転手が口を挟んだ。
「あの……もしかして、その当時のそいつ、なんでは……」
その場はその言葉をきっかけに、水を打ったように静かになってしまったそうだ。
数週間後。
またその先輩と会った時、先輩がいやに沈んでいる。
どうしましたか?と尋ねると、先輩は重い口を開いた。
「あのさあ……前話したバラバラ死体見つけたって大騒ぎした教師な、死んでたわ」
「え……そうでしたか。いつ頃ですか?」
「結構前に、教師辞めた直後に、物置でな。木を切るための刃物を使って、結構ひどい状況で亡くなってたらしい。俺は知らなかったんだけど、死んでるよそいつ」
「じゃあ、俺たちが見たのはなんなんですかね……?」
「さあ……ただ、あの後改めてその人の特徴を聞いてみたんだけどな。お前らが見た奴と、教師の特徴がそっくりなんだよな」
「マジですか……」
とにかくあの山にはもう近づかないようにしよう。
Cくんたちはそう固く決意したのだそうだ。
……これで終わればよかったのだが。
それから半年ほどたったときのこと。
Cくんは平日休みで、家でゆっくりしていた。
すると午後になって、年の離れた中学生の妹が帰ってきた。
「ただいま〜」
「おかえり」
その時Cくんは、リビングのテレビでワイドショーを見ていたのだが、ちょうどその日の夜放映するホラードラマのCMが始まるタイミングだった。
それを見て妹が、思い出したように口を開いた。
「そう言えば、お兄ちゃんさ」
「何?」
「最近ね、通学路の何々公園ってあるでしょ。そこに変な男の人出るんだよね。学校の先生が見回りしようって話してて。私たちからしたら、そんなに警戒することもないと思うんだけど、先生たちはすごい必死でさぁ。集団下校しろとか言い出すの」
「そうなの。そいつが変質者で、性的ないたずらでもするんじゃないのか?」
「違う違う、ちょうどお兄ちゃんくらいの年齢でね。変な話なんだけど、今から山に行くような恰好してるんだって」
「え?」
「リュックサック背負ってて、枝切る刃物あるじゃん、あれが見えてんだよね。で、その人が人懐っこい顔で近づいてきて、『バラバラ死体の話していい?』って言ってくるんだって」
「それはお前……集団下校しなさい」
Cくんはかろうじて、妹にそれだけ言った。
一年くらい、集団下校は続いた。
その間、指名手配犯が逃げたとき並みにパトカーが回っていた。
だが、そのあとはものの見事に何もなくなったそうだ。
目撃情報もない。
あくまで噂ではあるけれど、大々的なお祓いみたいなことをしていたという話もある。
それも、一度だけではなく、何度か呼んでいたらしい。
それで完全に収まったのだとすれば、お祓いにも効果はあるんだな……そうCくんは思ったのだそうだ。
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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「ザ・禍話 第2夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。
ザ・禍話 第2夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/600889557
(1:01:23頃〜)
※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。
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