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海外人材と日本企業をつなぐ就労アプリ——慶應SFC発、21歳ながら2度目の起業:WoW SPACE・三浦紘勇雅

日本では今、少子高齢化による労働力不足が深刻になりつつあります。一方、諸外国においては、さまざまな理由から自国での就労が難しく、海外に仕事を求める人が多くいます。

今回は、そうした海外人材と日本企業を結びつける就労マッチングアプリ「WoW Academy」を開発し、事業を展開する株式会社WoW SPACEのCEO、三浦紘勇雅(みうら・ひゅうが)さんに話を聞きました。

この記事は、神奈川県の「かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム(KSAP)」(運営事務局:GOB Incubation Partners)に採択された起業家へ取材したものです。KSAPは、社会的な価値と経済的な価値を両立させようと挑戦するスタートアップをサポートする取り組みです。KSAPの詳細はこちら


大学2年生でWoW SPACEを創業

三浦さんたちが開発しているアプリ「WoW Academy」は、日本での就労を希望する海外人材に向けて、日本語学習のコンテンツと、「日本企業とマッチングする」機能を搭載しています。会員登録をすれば、ユーザーは全て無料で利用可能。学習中のユーザーを検索した企業から、採用のオファーやアプローチが来るという仕組みです。

CEOの三浦紘勇雅さんは、慶應義塾大学のSFC(湘南藤沢キャンパス)に通う大学4年生として日々の生活を送る傍ら、2022年に同社を起業しました。

ただし、この三浦さん、今回が初めての起業ではないとのこと。現在の事業につながるきっかけとなった1度目のビジネスについて、話を聞きしました。

「私はもともとアトピー持ちだったのですが、地元である別府の温泉に入ることで、症状が緩和された経験があります。そこで、温泉の成分が肌に良い効果を与えたのではと考え、アトピーに悩む人たちを救うために、温泉の成分を効率的に皮膚に吸収させる機器を開発する株式会社MITテクノロジー​を高校2年生の時に立ち上げました。それが最初の起業です」(三浦さん)

とはいえ、当時高校生だった三浦さんにとって、ハードウェアの製造開発は非常にハードルが高い事業です。思案に暮れていたとき、“救世主”と出会います。

「それが現在WoW SPACEのCTOを務めている、ニシャーンタ・ギグルワ(Nishantha Giguruwa)先生です。スリランカ出身の方で、現在大分・別府にある立命館アジア太平洋大学の教授をしています」

当時ギグルワ氏は、三浦さんの立ち上げた事業を多方面からサポートしてくれたといいます。

「MITテクノロジーの事業活動を通じて、私自身がスリランカに行ったこともあります。先生は顔が広いので、事業がいろいろな人の目に留まり、国家プロジェクトに採用されたりもしました。これをきっかけに、スリランカ政府とのつながりもできました」

結果的に、1度目の事業はその後、資金面の壁にぶつかり断念。しかし、高校を卒業し慶應に進学した三浦さんは昨年、2度目の起業に踏み出します。

「前の事業でスリランカに行ったとき、職にありつけない方をたくさん見ました。一方の日本では、人材不足が報じられています。そこをマッチングできたらと思ったんです。こうした事業は、大人世代の方でもできると思いますが、Z世代である私たちがこれからの時代を作っていかないといけないのでは、と考えました」

スリランカ政府と連携、退役軍人がアプリのパイロットユーザーに

前述の通り、現在WoW SPACEではギグルワ氏がCTOを務めています。今回の事業においてもスリランカとは深いつながりがあり、それは事業の強みにもつながっています。

「スリランカでは、先の経済破綻で国内に失業者があふれかえっている状態です。そこで私たちはまず、スリランカの退役軍人の方々およそ40万人に対して、アプリを広める許可を政府から頂きました。これによって、登録ユーザー数をある程度増やすことができるのではと考えています」(三浦さん)

退役軍人というとシニア層を想像しがちですが、実際にはほとんどが30代だそう。「比較的若いユーザーをリリース初期の段階からデータベースに集められることは自社の強み」と三浦さんは話します。

またアプリの開発も、現地で進めています。

「アプリ開発は、スリランカのペラデニヤ大学(日本の東京大学にあたるといわれている)の卒業生エンジニアが立ち上げた会社に委託しています。Wow SPACEとしては日本企業へ委託するよりもコストを抑えられますし、同時にスリランカ国内が経済的に大変な状況なので、私としてはできる限り、エンジニアの方に還元できるよう事業を推進しているところです」

カリキュラムづくりはアカデミアとの連携で、ブランド力を構築

日本語学習のコンテンツは、大学や学生と連携して制作を進めています。

「日本語能力検定の試験に向けた講義ビデオや日常会話、面白くて楽しいコンテンツなどがあります。講義ビデオはプロの日本語講師の方にお願いし、面白いコンテンツは慶應の学生が中心となって制作しています。さらに、立命館アジア太平洋大学、秋田の国際教養大学と連携し、全体のカリキュラムをつくっていますどちらも留学生の受け入れ数が多く、日本語教育の質が非常に高い大学です」

アカデミアの力を借りて、コンテンツの質とブランド力を高めていくねらいだと三浦さんは説明してくれました。

さて、現在WoW SPACEでは「WoW Academy」のコンテンツ拡充を進めていますが、コンテンツがどんなに増えても、海外人材ユーザーには無料で利用してもらえるような仕組みを撮りたいと三浦さんは言います。

「海外の恵まれない環境にいる方々を助けたいという思いがあるので、永久に、無償でサービスを提供していきます。そのために、日本企業からのスカウト機能のフィーを、マネタイズポイントとして考えています。実現にはもう少し時間がかかりそうですが、さまざまなプロジェクトが動いているので、うまく軌道に乗せていけたら」

学生と大人がフラットにつながる、WoW SPACEの組織づくり

最後に、Wow SPACEの組織運営について話を聞きました。WoW SPACEは海外エンジニアや大学関係者といった“大人世代”と、慶應の学生を中心とする“Z世代”の混成チームで事業を進めています。

「私は今21歳ですが、自分自身がまず未熟だというところもありますし、学生だけでは知識や経験が足りず、社会人の方とは戦えないと思っています。ファイナンスや工学的な知識の部分を現在大人の方に埋めてもらっている状況です」

その一方で、学生を巻き込むことも絶対に外せないポイントだと三浦さんは続けます。

「私たちZ世代が、こうしたソーシャルグッドな取り組みをしていかないといけない、ということを直感として持っています。ではどこを学生に任せるのかとなったとき、学生の強みはやはり、今の流行りやスタイリッシュさ、和気あいあいとした雰囲気を出せるところだと思っています。ですので、面白くて楽しいコンテンツや、日常会話のコンテンツなどを学生につくってもらっています」

“大人世代”は現在6人で、その皆さんが学生に対しウェルカムな雰囲気で接しているそう。さらに三浦さんが架け橋となることで、学生と大人がフラットにつながる組織運営を実現できているといいます。

海外で、日本で、自分が実際に体感している社会的課題。その解決に向けて、事業の発展を目指す三浦さんの挑戦はこれからも続きます。

WowSpaceについて>

https://wow-space.jp/