IR背負い投げ JAN2024:エクイティストーリーって?

2024年も既に8日が経ちました。金融勤めの頃は年末年始=お休み(外資系金融の多くは年に2週間強制的に休みを取る必要がある)にしていましたが、2024年はスタートアップ勤めらしく4日を仕事始めにしました(もっと言えば、年末年始も色々と妄想・熟考していましたが)。
紅白がかなり遠い世界の番組になってしまったので(知らんグループばかり)、本を読んだり、ネットで情報収集したり、SNSを徘徊したりして年末を過ごし、年明けはニューイヤー駅伝(ベンチャー人間としてはGMO推し)、箱根駅伝を観て過ごしました。そんな時、尊敬する若手(もう中堅?)ファンドマネージャーの杉山氏(武士道アセット)のXでの呟きが目に留まりました。

Xよりキャプチャー

私はこの問いに対し、「IPO企業のエクイティストーリーは重要だ」と回答しました。しかしながら、釈然としない気持ちも心のどこかで燻ぶっていました。
元々、上場する時にはⅡの部もしくは各説の作成が求められます。Ⅰの部は新規上場時に公衆縦覧に供される申請書類なので、目にしたことのある方々も多いことでしょう。一方、Ⅱの部は東証本則市場へ新規上場申請する際に提出する申請書類で、正式には「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅱの部)」です。各説(各種説明資料)は、東証グロースや名証ネクストに新規上場する際Ⅱの部の代わりに提出するものになります。共にⅠの部をより詳細に記載したもので、ビジネスモデル、今後の事業計画等がより良く理解できるものになっています。これらはあくまでも審査資料であり、公表されることはありません。
本来はその企業を知るために重要なビジネスモデル、事業計画が世に周知されないため、それを補完するという意味で主幹事を中心とした証券会社からのリサーチレポートは重要でした。私が所属していたD証券では、2000年代半ばまでは全上場企業の新規公開紹介レポートを書いていた記憶があります。他社も主幹事+αに関しては書いていたように記憶しています。しかし、証券会社にとってIPOは単独では収益性の低いビジネスであることもあり、今では1~2枚の簡単な紹介レポートばかりになっているようです(プレディールレポートは別)。

エクイティストーリーっていつ頃から言われだしたのでしょう。2022年4月に東証・名証が新市場移行を行った時から、「事業計画及び成長可能性に関する事項」の開示が求められるようになりました。エクイティストーリーという言葉が一般化したのはこの頃ではないでしょうか。取引所の取り組みは素晴らしいと思います。株式価値は本来当該企業の将来価値を現在価値に割り戻したものですから、将来価値の測定ができなければ、適正な株式価値の議論はできないですからね(成長企業をDCFで考えると、株式価値の80~90%以上はターミナルバリューで形成されています)。その意味では、上場日にならないと、この資料が開示されない問題は早く変えて欲しいところですが。

では、何故エクイティストーリー不要論が出てくるのか?(杉山さんとはディスカッションしていないので、勝手解釈です)この資料が将来価値測定の役に立っていないということではないでしょうか。全部が全部役立たずという訳でなく、そのようなものが目立つというのが正しいでしょうか。株式投資には色々な側面があり、夢に対する応援投資(例えば、サイバーダイン、ユーグレナ)もありますが、基本的には「何をやって、どうやって儲けて、どう成長していくのか」を評価するものになります。それが伝えられる資料になっていなければ、上場後の資料としては役立たずかなと思います。きちんと書かれていれば、アナリストレポート不要のしっかりとした資料になると思います。それ故に、私はエクイティストーリーが必要だと考えています。

ここでもう一つ、気になること。最近企業成長とエクイティストーリーの考える順番が逆になっている経営者が多すぎです。エクイティストーリーを先に考え、どうしたらバリュエーションが上がるかなどを考える経営者が多いのですが、世の中そんなに甘くありません。上場ゴールで良いから上場時のバリュエーションをストレッチさせたいという考えなら致し方なしですが、私はそのような経営者・企業を応援できません。まずは自分の会社をどう成長させるのか(そもそも成長させる必要性があるのかも含め)をしっかりと考え、経営してください。その流れの中でIPOや上場市場を通じた資本政策が必要であれば、上手に資本市場を活用してください。その時には情報の非対称性を打ち消すエクイティストーリーが必要になります。いつでもご相談ください。世の中、「こんな風にすればバリュエーション上げられます」とかいうアドバイザーもいますが、株式はそんなに簡単ではありません。厚化粧に走ることなく、土台の磨きこみに注力してくださいね!

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