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[ライフストーリーVol.19]ルーツを個性として強みに フィリピン文化を広める活動に勤しむ若者3人の思い

フィリピンにルーツを持つ3人の若者が、フィリピン文化についてもっと知ってほしいという思いで立ち上げた団体「tayo」。

タガログ語で「私たち」「人の集まり」という意味と、イントネーションによっては「立ち向かう」「声を上げる」という意味も持つそうです。
それぞれ日本に来たタイミングや生活した期間は違うものの、自身のルーツやアイデンティティ、フィリピンに対する感情には共通点もあります。団体の活動や現在の仕事に関する思いなどについて話していただきました。

プロフィール

Askaさん:日本で生まれ、すぐに母親の母国であるフィリピンに渡るも、数年後に再び日本に戻って保育園に入園。以降は日本で暮らす。現在はフリーランスのグラフィックデザイナーとして活動する。

Mikaさん:母親がフィリピン人。両親は日本に住んでいたが、自身はしばらくフィリピンで兄や親戚と一緒に住んでいた。12歳の頃来日し、東京都内の小学校に転入して日本語を学ぶ。現在は映画配給・プロダクション会社に勤務しマネージメント業務に携わっている。

Agaさん : 祖父が日本人、両親はフィリピン人で生まれも育ちもフィリピン。16歳で来日し専門学校に入学。いったんはフィリピンの大学に入学するも再び日本に戻り、現在は日本企業でグラフィックデザイナーとして勤務する。

フィリピンの文化を知ってほしい思いで活動開始

― 3人が出会った経緯について教えてください。
Mikaさん 直接3人が顔を合わせたのは、昨年10月に開催された「TOKYO ART BOOK FAIR」の会場なのですが、それ以前に私はフィリピンのキャンドルなどを販売しているAskaちゃんのインスタグラムをフォローしていて、お客さんとして知り合いました。Agaくんとはアートブックフェアの前に開かれた別のイベントで、共通の友人を介して知り合いました。

― tayoという団体を作って活動しているそうですが、どんなことを行っているのですか。
Askaさん:今年5月にMikaちゃんの実家近くにあるカフェのギャラリースペースでイベントができるということで、Mikaちゃんに声をかけてもらいました。せっかくイベントをするなら、自分たちのフィリピンのバックグラウンドを活かして居場所を作りたいよね、という話になり、「tayo」を立ち上げました。イベントでは、私がオンラインで行っているセレクトショップ、itutuguで販売しているフィリピンブランドのキャンドルやアクセサリーの他に、Mikaちゃんがフィリピンで撮った写真の展示、そして、フィリピンの駄菓子なども販売しました。
Mikaさん:3人ともアートが好きでしたし、日本ではフィリピンに対してマイナスイメージもあるので、それを払拭したいという思いもありました。2日間開催して、日本に住んでいるフィリピン人や日本人の方もたくさん来てくれました。
Agaさん: 最初に3人で会った時に「日本ではフィリピン文化があまり知られていないね」という話になったんです。そこから他の外国人のコミュニティがどんなことをしているか調べたりしながら、企画を形にしていきました。

―みなさんの周囲に、フィリピン人のコミュニティはあまりなかったのでしょうか?
Mikaさん:日本にはフィリピン人が多く住んでいますが、フィリピン文化についてはあまり知られていません。コミュニティもあるにはありますが、そもそも自分のルーツについて触れたがらない人もいて、しっかりしたものはない印象です。
Askaさん:私は自己完結するタイプなので、コミュニティの存在はあまり気にしていませんでした(笑)。
Agaさん:私が住んでいた静岡県には地域ごとにフィリピン人のコミュニティがあって、NPO団体によるサポートもありました。

Tayo!初のpopupイベント「isa tayo!」

―それぞれ状況が違ったわけですね。これからどんな活動を行っていきたいですか? 
Mikaさん:周りから食べ物について聞かれることが多いので、フィリピンの食べ物についてもう少しアピールしたいですね。作った人のストーリーなども伝えていけたら良いなと思います。
Agaさん:具体的には何も決まっていないですが、フィリピンの文化について伝える雑誌のようなものも作れたら、と考えています。

itutuguによるキャンドルとアクセサリー販売

日本社会で苦労したことと良かったこと

― みなさんはそれぞれ日本に来た時の年齢や在住期間が異なりますが、苦労されたことはありますか。
Mikaさん:日本に来た当初は語学力がなく、アイデンティティについてもコンプレックスを抱えていたので、仮に日本語を喋れるようになっても、社会的に居場所が見つかるのかなという不安がありました。
Askaさん:私は小さい頃から日本に住んできたので言語面での苦労はなかったのですが、両親が離婚してフィリピン人の母とずっと暮らしていたので、周囲の人たちはほとんどフィリピン人でした。フィリピンの音楽や食べ物が日常的にありながらも、学校に行けば日本人のコミュニティに入るので、そこのギャップは感じていました。私は見た目的には日本人っぽいので、あまり表には出しませんでしたが、友達と話したり遊んだりしているときに文化の違いを感じることもよくありました。場面ごとに頭の中でスイッチを切り替えていた感じです。
Agaさん:僕の場合は16歳の時に日本に来て、やはり言語の問題は大きかったですね。日本に来てから市役所が開く日本語教室で勉強して、ある程度喋れるようになってから専門学校に入りましたが、日本文化も分かっていないし見た目もフィリピン人なので社会に受け入れられるか不安でした。ただ、最初のうちは辛かったですが、周囲と違うことを逆に武器にして目立とうと考え方を変えてからは慣れていきました。

― では、逆に日本に来て良かったことは?
Mikaさん:来たのが日本だったからかどうかははっきりしませんが、自分と向き合って自立して生活するという考えを持てたのは良かったですね。フィリピンにずっと居たら、一人暮らししようという感じにならなかったと思います。
Askaさん:う~ん、時々フィリピンに行くことはありますが、私は日本で長く暮らしているので特に実感はないかもしれません。日本の方が給料が良いとか教育の水準が高いとか、そんなところでしょうか。
Agaさん:住みやすさは日本が上だと思います。あとは、真面目な考え方を持つようになりました。それは、ずっとフィリピンにいたら気付かなかった価値観でしょうね。
Mikaさん:それは、ありますね。日本人の方が圧倒的に真面目です。たまに息苦しさも感じますが。

外の世界に目を向け居場所をつくる

―フィリピンにルーツがあることで、仕事選びの際にも何かしら影響はありましたか?
Mikaさん:英語とフィリピン語が喋れるのは強みですが、それで他に何ができるんだろうという疑問は常に持っていましたね。
Askaさん:私は自分がミックスであることは、仕事選びには特に影響しませんでした。純粋に進みたいと思った道に行けた感覚です。
Agaさん:自分は好きな分野で仕事がしたいという気持ちの他に、就職活動の際は言語力を強みとして活かそうと思いました。特にものづくりにおいては、自分の視点がなければ生み出せない面白いものが作れる、という点を大事にしました。私を採用した会社も、日本人とは違う感覚を組織に持ち込んでもらいたかった部分があったのだと思います。今の仕事では海外のクライアントが多いので、たとえば日本語版のウェブサイトを英語版にする際に、言葉遣いなどの点で日本人では気付かない違和感を指摘できたりします。今年初めに英語サイト制作チームのデザインを任され、大きめの案件が取れた時は嬉しかったですね。

isa tayo!で開催された写真展「labing labing」フィリピン・ダパオ市の風景

―ご自身の経験も踏まえ、外国ルーツの若者にアドバイスをお願いします。
Mikaさん:自分の学生時代を思い返すと他者との違いを気にしすぎていたので、周りと違うのは強みでもあると伝えたいです。また、自分が悩みを持っていること自体、悪いことではないし、周りに相談することによって、より良い関係を築き、自分に合う環境も見つけることができます。ですから、自分を表現して、理解してもらうことが大事だと思います。自分の事を一番よく知っている家族と友達とルーツについて話すのも良いでしょうし、話せる環境があれば疎外感は減っていくのではないでしょうか。
Askaさん:私もアイデンティについては学生の頃はよく悩んでいましたし、文化的な部分で自分が周囲とは違うなと感じることはありました。ただ、悩んでいたからこそ、そこに閉じこもらず外の世界に目を向けて、文化やアートへの関心を高めていったのが今の仕事に就くきっかけにもなりました。私の場合は高校3年生くらいから趣味に関するコミュニティなど、学校以外の世界との交流が増えていきました。自分だけを見ているとどうしてもネガティブになっていくので、好きなことに目を向けて、いろいろな人に会うのは大事だと思います
Agaさん:日本に来てからは自分がミックスであることについてずっと考えて、日本に長く住んでも居場所が見つけられないかもしれない不安がありました。でも、自分と日本との繋がりを理解して、自分のルーツに興味を持てるようになってからは、違いを強みとして捉えられるようになりました。同じような境遇の人たちは周りにいると思うので、孤独を感じた時には居場所を自分で作るのも選択肢の1つだと思います。

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