仕事でハプニングに見舞われた時のベストな対処法
仕事をしていると予想外の出来事に対処せねばならないことがままある。
今の会社に入ってもうすぐ20年。
いろんなことがあった。
接客業なので変な客に遭遇したことは数えきれない。
どうでもいい電話をしつこくしてくる人にうんざりしたり、突然怒鳴りだす客に唖然としたり。
買っては返品、を繰り返す人もいた。
ミスをして落ち込むこともしょっちゅうだった。
地震のあった日はスプリンクラーが作動してしまい、売場が水浸しになって大変だったし、コロナで我が売場が営業できなかったときもしんどかった。
突然の異動を告げられ、眠れない夜を過ごしたことも……。
そんなこんなの20年。
もう多少のことでは動じない自分になれた。
はずだった。
その日、私はバックヤードで梱包作業をしていた。
そこへやってきた職場のマリー・アントワネットこと木村さん(仮名)。
「暑いわね~~~🧡」とお菓子の箱に手を伸ばし、優雅なおやつ&おしゃべりタイムが始まった。
「え さんもどう? これおいしそうじゃない🧡」
アントワネット様はフィナンシェをほおばり、私にもひとつ差し出した。
おいしいお菓子。
はずむ会話。
陽気な笑い声。
ベルサイユのサロンと化したバックヤードで楽しいひと時を過ごしていると、
「木村さん、お認めお願いします(キリッ)」
とイケボが響いた。入社二年目のハヤト(仮名)である。
昨年入社したハヤトは我が部署に配属されて丸一年がたとうとしている。
入社一年目だった昨年は学生気分が抜けていないようなところがあり、ありとあらゆるドジを重ねて先輩たちを心配させたハヤト。
ドジ男子ぶりは相変わらずだが、最近は仕事に慣れて余裕すら感じさせるようになり、隣の部署に配属された新入社員の様子を見に行って「若いですね」とニヤついたりしている。
ハヤトは書類に判をついてもらい、その流れでアントワネット様と楽しく雑談している。今日のテーマはアンパンマンだ。
「ハヤトさんは小さいころアンパンマン通過したのかしら?🧡」
「いやあ…アンパンマンは通ってないですね」
「子供だから自分のアンパンマンブームを忘れちゃってるんじゃないの?」
「そうなの、子供ってアンパンマンブーム一瞬で過ぎちゃうらしいのよ🧡」
「忘れてるんですかね」
「ハハハハ~」
「ウフフフフ🧡」
ベルサイユは今日も平和である。
椅子に座ってフィナンシェをムシャムシャしながら、何とはなしに目の前に立っているハヤトに目をやった、そのときである。
私は信じられないものを目撃して言葉を失った。
ハ ヤ ト の ズ ボ ン の フ ァ ス ナー 、 全 開。
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ハヤトのファスナー御開帳を目撃し、私の脳内に400字の思いが瞬時に駆けめぐった。私もそこそこ長い間生きているが、同僚のズボンのファスナー全開という事態に見舞われたのは初の経験である。
こんな時どうすればいいのか? どうするのが正解なのか?
本人に言ってやるのが親切だとは思うが、Z世代に恥ずかしい思いをさせるのは忍びない。いかにデリカシーに欠けている自覚がある私でも、ここは本人が一刻も早く気付いてくれるのを祈るしかないだろう。
私はハヤトの全開のファスナーから目をそらし、無言になった。
楽しそうなアントワネット様とハヤトの笑い声が脳内で次第に遠ざかっていく……。
もう、私にできることは何も…何もない……。
ハヤト、グッドラック。
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