忘年会で謎の美女に会う
昨年12月、職場の忘年会にて。
忘年会。
なかなか懐かしい響きである。
わが部署も4年ぶりくらいの忘年会だろうか。
とは言え6人しかいない部署、しかも諸事情で2人欠席というこじんまりにもほどがある忘年会という名の飲み会なのであった。
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私が今の部署に最初に異動してきたときの忘年会は割と派手だった。
当時わが部署は10人くらいいて、忘年会と言えば仮装カラオケが定番。
12月の忙しいさなかだというのに、忘年会が近づくとみな自分の出し物の準備でソワソワ。仕事そっちのけで一心不乱に振り付けの図解を書いたり、自費で用意した衣装や自作の小道具を備品の間に隠したり。仕事終わりにみんなで振り付けの練習までした。
最初はそこまでやんの!? とあきれた私だったが、こういうのは振り切ってやったほうが絶対に楽しい。
Gジャンの袖を切った衣装を着てバンダナを頭に巻き、『スニーカーぶる〜す』を熱唱するNさん。
郷ひろみメドレーでキレ良く歌い踊り、マイクを離さないKさん。
旦那様から借りたグレーのジャケットと赤いネクタイを着け、『贈る言葉』のイントロとともに耳に髪を掛けながら「はい~いいですかぁ~~!」と入ってくるOさん。
私は木村さんといっしょに、ベルばら主題歌に合わせてオスカルのかつらをかぶって歌うSさんの両脇でお花を持って踊る。
年齢のバレる出し物オンパレードな忘年会の模様はばっちり動画撮影され、後日部長がゲラゲラ笑いながら観ることになるのだった。
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さて、昨年末の忘年会はコロナ明け久しぶりの忘年会ということもあり、さりげない飲み会であった。
参加者は職場のマリー・アントワネットこと木村さん。
アンガールズ田中さんに似ている青山さん。
新入社員・ドジ男子のハヤト。
そして私の4人である。
心配なのは、23歳のハヤトが50代3人との飲み会に嫌々参加しているのではないか?というところだ。
部署内ではひとりだけ年齢が離れているし、同世代と話ができなくてさぞつまらないんじゃないかとも思うのだが、そこは木村さんも気になっていたようだ。
「ハヤトさんが来たとき、私、話し相手になるって決めたの。やっぱり、同年代がいなくて話したいことも話せないでしょうしね。いろいろ自分の知らないことも勉強になるし」
木村さんは人から話を引き出すのがとても上手だ。ハヤトとも学生時代のこと、ゲームのこと、家族のこと、いろんな話をしていて、それがハヤトの気持ちを少し楽にしているところは間違いなくあるはずだ。
(たんに木村さんがお話し好きなのでは……と思わなくもないが)
そんな木村さんの気遣いのおかげか、ハヤトが楽しそうに飲んでいるのでひとまず安心した。私にとっても仕事をしていなければ20代と話す機会はないのだから、ヤングがどんなことを考えているのか知ることができてありがたいことである。
しばらくすると、ハヤトが
「自分、女装したことあります」
と言い出した。
おいおいおいおい、おいしいじゃないか、ハヤト。
今やプロ野球選手がファンフェスでガチの女装をしたりする時代。もちろん写真あるんだろうね?
「いや…ありますけど……。酒が入らないとちょ、っと見せられないですよ」
よ~し、もうちょっと酒が入ったら見せてもらおうか。何系?
「ギャル系です」
いいねいいね。楽しみだね。
30分後。青山さんと日本酒を飲みだしたハヤトに木村さんが一言。
「ハヤトさん、見せてよ、女装」
いい塩梅になっているハヤトは、スマホを弄りながら覚悟を決めたように言った。
「じゃあ、まず えさんに」
ありがとう。
私がこの世のすべてを否定しない変態だってわかってくれてるんだね。
さっそく拝見。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「えさん、どう?」
「どう?どんな感じ?」
「・・・・・・いやめっちゃきれいですよ・・・・・・!!」
そこにいたのはタバコをくわえた金髪ボブヘアーの絶世の美女であった。
ハヤトさん、すごい美女っぷりです。参りました。
もともとハヤトは可愛い系の顔立ちだが、正直忘年会の仮装レベルの女装だと思っていたもので、これほどのクオリティとは……。
「どれどれ」
「見せて見せて」
木村さんと青山さんも写真をのぞき込んで絶句した。
「……すご~~~い!これメイク誰がやったの?」
「あ、それは自分で」
「髪はかつら?」
「あ、はいかつらです」
「まつ毛は?」
「あ、まつ毛は自毛です」
「写ってないけどスカートはいたりしてるの?」
「あ、スカートははいてないです」
あまりに衝撃的な写真を目撃して、ハヤトを質問攻めにする50代3人。
「学生の時、友達と本気の女装をやろうってなって。はい、本気でやりました」
女装というと抵抗を感じる人もいるのかもしれないが、私は男性の心を持った人がやる女装はコスプレと同じようなものだと思っている。
違う人格になって変身してみたい。
そんな願望は誰にでもあるのではないか。
私もとびきりのイケメンに変身してみたいものである。
やるじゃん、ハヤト。
大事に画像保存してるってことはまんざらでもなさそうだな。
ハヤトにはまだまだ私たちの知らない一面がある。
ちなみに参加しなかった我が部署の2名にも見せようよ、と言ったら即拒否された。
ゴリラの支援に使わせていただきます。