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卑怯なことする俳優が好き


卑怯。


映画やドラマや演劇を観ていると、思わず、

「卑怯だな~~~~~~~!」

と大笑いしてしまう俳優に出くわすことがある。
おそらく台本の段階ではごく普通の、何の変哲もない目立たない脇役だったであろうに、俳優によるキャラ作りやアドリブの効いたせりふ回しで強烈なインパクトを残し、周りを食いまくってものすごい存在感を放ってしまう。

私はそんな俳優の卑怯な演技が大好物なんである。



卑怯な演技をする俳優の特徴は大まかに言って3つ。
(※個人の意見です)


1.誰もが知っている有名な俳優ではなく、知る人ぞ知るくらいの知名度。

2.確かな演技力がある。

3.目立って名をあげてやろうという野心まんまん。

であるからして、どんな卑怯なことをしてもその地位が脅かされる心配のない超有名俳優や大スターが、一見「卑怯」と思える演技をしても私の中では「卑怯」にカウントされない。
また、卑怯な演技が作品の空気を壊してしまうようでは「卑怯」の風上にも置けない。

卑怯な演技は、脇役としての矜持と俳優個人の「目立ちたい」という野心、この二つのギリギリの攻防が生み出す奇跡なんである。

ちょっと自分が何言ってるかわからなくなってきたが、私が大笑いした「卑怯な演技」をいくつか挙げてみたい。
(敬称略)




西村まさ彦 今泉慎太郎(古畑任三郎)】

旧芸名・西村 雅彦から「まさ彦」になっていたことを今知った。

西村は三谷幸喜主催の劇団「東京サンシャインボーイズ」の俳優。私は彼の出演していた「ショウ・マスト・ゴー・オン~幕をおろすな」という舞台を観に行ったことがあるのだが、上演中の舞台の裏側で次々と起こるハプニングを、三谷幸喜らしいライブ感で魅せるコメディーで、それはそれはおもしろかった。

三谷幸喜脚本のドラマ「振り返れば奴がいる」ではラスト、主人公を刺すおいしい役で出演していたが、西村の知名度を上げたのはなんといっても「古畑任三郎」の今泉慎太郎役だろう。
今泉は主人公・古畑任三郎の部下だが、登場した当初はごく普通の目立たない役で、セリフも少なかった。ところが回が進むにつれ、頼りなく無能なイジられキャラが確立していき、古畑が今泉のおでこをたたくのがお約束になっていった。
途中から有能な西園寺守(石井正則)が古畑の部下として加わると、今泉の嫉妬が爆発、キモさがどんどんエスカレートしていく。このへん、西村のアドリブと思われる演技も多く、卑怯度がかなり高い。三谷の脚本も、キャラ変に伴って今泉の重要度を増していった感がある。

極めつけは現役メジャーリーガーのイチローが犯人役で登場した回。
今泉はイチローに会うと大興奮。ミーハー丸出しで「イチローだ!イチローだ!」と大騒ぎ、挙句の果てに、

「ここ、たたいてもらえませんか?」

とおでこを差し出してイチローにお願いする。
イチローが素の感じで笑っちゃいながら「ええーっ!?」と言っていたところをみると、このシーン、西村のアドリブの可能性が高いが、
「イチローにたたいてもらっちゃった!」
と大喜びする今泉の姿に、卑怯だな~~~!とつぶやかずにはいられない。



笹野高史 ライダー(男はつらいよ ぼくの伯父さん)】

私は映画「男はつらいよ」シリーズを(テレビでではあるが)全作観ちゃったほどの寅さん好きである。

最新作「男はつらいよ お帰り 寅さん」は映画館に観に行った。泣かせに来てるのはわかっていたが、寅さんが出てくると涙が止まらなくなってどうにも困った。
しかし、驚いたのは笹野高史が御前様になっていたことだ。

笹野高史といえば、「男はつらいよ」シリーズ後期の脇役常連で、私などは次はどこに笹野高史が出てくるのだろうと楽しみにしていたものである。
毎度違うチョイ役で出てきては卑怯な演技で笑わせてくれた笹野高史だが、第42作「男はつらいよ ぼくの伯父さん」で演じたライダー卑怯っぷりは圧巻だった。

寅さんの甥っ子・満男(吉岡秀隆)がオートバイで初恋の相手・泉(後藤久美子)の元へ向かう青春ど真ん中な感じのシーン。
道路で転倒してしまった満男は、通りかかったライダー(笹野高史)に助けられる。
この笹野演じるライダーの現れ方がとてもかっこいい。寡黙で経験豊富な男らしいベテランライダーといった雰囲気で、満男はすっかり頼りにしてしまう。
ところが、一緒にホテルに入ったとたんキャラが急変。

「ねえ~、そのつもりで来たんでしょ?満男ちゃん!みっちゃん!!」

と、おネエキャラ全開で満男に猛アタック。
満男がほうほうのていで逃げ出し、悔しがるライダー。

おそらく「みっちゃん」は笹野のアドリブだろう。
オートバイで初恋の人に会いに行くという名シーンに突然現れ、おネエキャラで強烈なインパクトを残した笹野高史、卑怯すぎる


【藤村富美男 元締・虎(新・必殺仕置人)】

みんな大好き必殺シリーズ。
私が一番よく観ていたのは「新・必殺仕事人」「必殺仕事人Ⅲ」のあたり。
中村主水(藤田まこと)、秀(三田村邦彦)、勇次(中条きよし)、おりく(山田五十鈴)、加代(鮎川いずみ)という強力な仕事人メンバーと、主水をいびる姑・せん(菅井きん)と妻のりつ(白木万理)という盤石のレギュラー陣。
そして、必殺シリーズと言えば音楽。平尾昌晃による、
ちゃらら~~~ちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃ、ちゃらら~~~
というトランペットの音は、仕事シーンの興奮と相まって忘れ難い。

さて、この必殺仕事人で卑怯な演技をしていたのは誰かと言えば、私はこの人を挙げたい。筆頭同心・田中を演じた山内敏男である。
筆頭同心・田中は中村主水の直属の上司で、「新・必殺仕事人」の途中から異動でやってきた。前の上司の内山は「おい、中村!」と呼びつけては昼行燈の主水に説教したりボヤいたりしていたのだが、新上司の田中は主水より年下。
「古畑任三郎」の今泉と同様、初めは、
「中村さん、お願いしますよ。」
などとごくごく普通に話していたのだが、主水の昼行燈ぶりにイライラが募ってしまったのか、次第にヒステリックなしゃべり方に。
「中村さんっっっ!!もう~あなたって人はっっっ!!」
とどんどんおネエキャラになっていく。おネエキャラは卑怯な演技の最終兵器。田中のエスカレートしていくおネエっぷりに笑いが止まらなかった。


ところが。


私はその後、この必殺シリーズに置いて「卑怯」の概念を覆される、とんでもなく卑怯な人を見てしまった。

1977年放送の「新・必殺仕置人」の再放送を観ていた時の事。
山﨑努演じる念仏の鉄ら、江戸の仕置人たちの寄り合い「寅の会」の句会(仕置きのオークション)シーンで、元締・虎が登場。そこに、


元締 虎  藤村富美男(元阪神タイガース)

というクレジットが出てきて、私は心底驚いた。
藤村富美男って、あの伝説の初代ミスタータイガースの!?
なぜこんなところに!?


ここで少しばかり藤村富美男について説明したい。


藤村富美男(ふじむらふみお)は1916年広島県呉市生まれのプロ野球選手。
戦前から阪神タイガースで活躍し、兵役で出場できなかった期間を挟んで、1950年代まで活躍。選手兼任監督をしていた時、「代打はワシや!」と告げて自ら登場し、代打逆転サヨナラ満塁本塁打を放つという、漫画のような活躍をしている。初代ミスタータイガースとして、オールドファンにはおなじみの伝説のプロ野球選手である。

私はもちろん藤村富美男の現役時代は知らないが、藤村の背番号「10」が永久欠番になっていることや、「代打ワシ」を始めとする数々の豪快エピソードは聞いたことがあり、まさかその伝説の選手が引退後、必殺シリーズで元締役をやっていたなどとは夢にも思わなかった。
もちろん本職の俳優のように演技がうまい訳ではないが、なんというか、オーラのようなものがすごい。背筋をぴんと立て、眼光鋭く座る姿は、まさに元締めの貫禄。

やがてシーンは掟を破った外道仕置人の粛清場面へ。現役時代さながら、虎がバットっぽいこん棒を一振りすると、なぜか藤村の現役時代の映像がカットイン。外道仕置人は豪快に吹っ飛ばされて障子に突っ込み、仕置完了。

いや、すごかった……。

カーブやスプリットやスライダーで卑怯にこねくり回してくるかと思ったら、ど真ん中に剛速球を投げ込まれて呆然と見逃し三振。
私が挙げた卑怯な俳優の3つの条件、どれも当てはまってない。


ある意味、卑怯すぎるでしょ、藤村富美男!!



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