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【創作】ファントムペイン


街にイルミネーションが灯る季節になると、切なさとも寂しさとも言えぬ痛みを感じるようになったのはいつからだろう。イルミネーションの光が美しければ美しいほど、そこに幸せに溢れた喧騒があればあるほど、戸惑いにも似た感情が湧き上がってくる。

クリスマスは嫌いじゃない。
嫌いじゃなかった。たぶん今でも。
けれど、クリスマスが愛する人と過ごす一年で一番幸せな日だと信じていた頃にはもう戻れない。


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あの頃、私は6歳年上のFに恋をしていた。

その年の12月24日、10人ほどの友人が集まるクリスマス会がFの部屋で開かれ、準備をするため、私は姉のように慕うTとともに一足早く部屋を訪れた。

Fが飲み物の買い出しに行き、Tと私が部屋の片隅に置かれた小さなクリスマスツリーの飾り付けをする。オーナメントのシルバーとブルーのボールを、ああでもないこうでもないと二人ではしゃぎながら飾り終えたとき、Fが帰ってきてツリーに眼をやった。
「どう?いいでしょう。二人で飾り付けしたの」
Tは私の肩を抱き、得意げに言った。
「お前らにしちゃいいな」
Fは私達を子供扱いするように少し笑ったが、私にはそんな言葉ですらうれしくてならなかった。

やがて皆が集まり、パーティーが始まる。

気の置けない友人たちとの楽しい時間の中で、私の視線は常にFに向けられていた。その大人びた風貌や、年上ぶった物言い、時折見せるやさしさや繊細そうな影が、とても魅力的な人。

Fと同じ空間で過ごすクリスマスイブは、瞬く間に過ぎた。
有頂天だった。


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Fはみんなを駅まで送った。

楽しかったパーティーの余韻を纏いながら、皆はひとかたまりになって歩く。

私の前を、並んで歩くFとTの姿が目に入った。
Tが長身のFを少し見上げるようして何事か話している。Fは聞いているのかいないのか、ただ前を向き歩く。Fのロングコートから伸びる、Tのスカートから覗く、それぞれのブーツが奇妙な調和をもって交互に動くのを、私は見るともなく見ていた。

一瞬、目を合わせた二人の横顔を見たとき、私は気付いてしまった。

FとTは恋人同士なのだと。


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皆と別れてぼんやりと電車に揺られる。ケーキの箱を提げた男性や、プレゼントの袋を抱えた若い女性の姿が視界に入って霞む。
電車を降り、改札を出て、私は駅前のロータリーへと向かった。

夜の街にあふれる無数の光。
イルミネーションの下の喧騒に埋もれてしまいたいのに、幸せに満ちたきらびやかな光は頑なに私を拒絶した。
あれほど美しく残酷なイルミネーションを見たことはなかった。

私は停車していたバスに飛び乗った。どこでもよかった。この無慈悲な雑踏から逃れたかった。しんとした車内で、窓の外のイルミネーションがしだいに遠ざかるのを眺めながら、私は泣いた。

もはや私の一部となったこのちっぽけな恋心の行き場は、今跡形もなく消えてしまったというのに。


ファントムペインが私を責め苛んでいた。







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