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詩)鼓動/窓を大きく開けて

読みかけの本を伏せて 窓を大きく開ける 今日は少し肌寒い 本を脇にずらして眠る カーテンが揺れる くだける 前でも後ろでもない 縦でも横でもない 言葉でも形でもない なにか 在り続けること 在り続けられないこと 鼓動

人工的な冷たい響きの中でずっと蠢いて来た 違和感の時代に生きなければならなかった 甘くも酸っぱくもなく なにが価値なのか 虚構の幸せを目標にして 格差が上から塗り込まれ  あるものは隠されて 汚いものはないものにされ 下へ下へと圧力ばかりがかかる 恥を知らない日本人の一人として 生きて来た 美しい日本 キャッチフレーズが踊る世界で

階下から園児の声がする ふたりがお互いに主張し合っているような声が風の音のように流れてくる かたちや言葉が制約を作る そのほんの少し前 手の温もりの意味 それがなにかを知る前の声が

やがて 手の温もりがどうやって蔑ろにされ 切り取られ 無惨に 叫びも届かない 憎しみで冷たく重いものを手にし 相手がどんな手かで その手を打ち砕くこと そのことを見て見ぬふりをすること 自分とは関係ないと 砕かれた手の温もりから流れる血を すっううと流れる血を感じた時

世界が変わってしまう そんな時
それでも世界が在り続ける
その意味を 窓を大きく開けて 息を吸って
手の温もりに思いを寄せ 世界は何か大きなことから始まるのではなく 風の音 手の温もり その中に在ると 戻る くだける それは否定ではなく 鼓動 人が人であるための 

2022年に詩集を発行いたしました。サポートいただいた方には贈呈します