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あの頃
八月といえば 大牟田の実家
カタカタカタ
モーター音のする扇風機が回る縁側
ざっくり 包丁で切り分けられた
お盆の上の西瓜

顔と同じくらいの西瓜にかぶりつき
足をぶらぶらさせながら
ぷっぷっと種を飛ばす

その日も暑い日だった
それはなんの前触れもなく
〈あゝそうだった 
ヒロシマのピカもナガサキのピカも両方見たよ〉
父がそう話した
〈そうそう 
あのヒューヒューという焼夷弾の音 
八月になると 
思い出すねえ
怖かったねえ〉
ばあちゃんが答えた

それはカタカタとなる扇風機の音と共に
西瓜に夢中の少年の身体の中に収まった

あの頃
〈八月になると〉
という会話があちこちで繰り返され
同じ質量で
「せんそう」がクルクル回っていたに違いない


八月なると
カタカタカタカタと鳴る扇風機
今 それは
どんな想いで
回っているのだろう

八月なると 
親父のあの声  
若き親父はあの時 
なにを思い 
なにを言いたかったのだろう 

今 その想いは
僕の身体の中で
カタカタと
懸命に
音を発し
鳴ろうとしている
カタカタと
必死に

そんな気がするのだ

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