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詩 大切なものたち 記憶の中で

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形象化と現実は、少しズレていて、本当の出来事より印象に残ったりします。
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詩)予感

詩)予感

コロナ禍の前に逝ってしまった父
最期の日 泣きながら妻が電話して来た
予感があったのに仕事に出てしまった
もう意識がない父に言い訳も出来なかった
あの日なぜ仕事に行ったのか 今も悔やむ

小田急線の普通に乗って藤沢へ行く
母親と娘が「じゃこれは?」と話している
センスの磨き方という本を二人で見て
こんな時間が永遠に続くと思うんだ
記憶にきっと残らない大切な時間

娘が高校生の頃 誕生日のプレゼント

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詩)去る日

詩)去る日

4時51分発の始発は
不思議な連帯感
乗り継いだ列車は
仕事帰りと
これから仕事の人間の
まるで違う二種類が混じり合う
半分が寝て
それ以外はスマホ

夜明けの街
列車の音が鼓動の
今日の始まりを告げる
最後の日はこうやって過ぎた

詩)自問~What was I made for?

詩)自問~What was I made for?

わたしはどうすればいいのだろう
自分にできることは何だろう
伝えられることはなんだろう

たった一人の愛するものを奪われた人へ
語り合いながら家路につく
その途中で無残に殺された4人の男たち
爆撃で飢えで子どもを殺された親が
血相を変えて部屋を出ていこうとするとき

こんなことなら生まれてこなければよかった
しあわせだったのは 現実じゃなかった
何のために生まれてきたの?
何のために生まれてきたの

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詩)ガザの閃光

詩)ガザの閃光

錆びた鉄骨 三月は
朝の硝煙のもう幕が高く舞い
太陽は見えない
長く 錯覚の影が延びる
光が薄く投影して 風はない
朝陽がゴツゴツの地肌を晒すように
傷口をさらす
あゝ今日はいつなのか

遠くに煌めく閃光
その瞬間 鈍い響
地核をゆるがすように響いている
錆びた鉄骨
ごとごうごうと揺れると
バサバサと
ふっとむせ返るような蝶の羽ばたき
油くさいにおい
頭から被る
むせる
くろくろしろし

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詩)生きているという事実

詩)生きているという事実

生きるという 逆らえない事実
生きなければならないという事実

何もないという 悲しくも うれしくもない事実
何もない という言葉にしても しなくても 変わらない事実

別世界 なんだろうか
昨日まで当たり前だった事実

写真さえなくなり
もうその昨日さえ 記憶の中にしかないという
事実

そこに立ち向かうとか そんな事じゃなく
明日 生きていかなきゃいけないとい
明後日も飯を食わなきゃいけないと

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詩)慰霊碑

詩)慰霊碑

群馬県藤岡市の成道寺に「藤岡事件」で犠牲となった朝鮮人を悼む石碑がある。朝鮮人十七名を日本人自警団が警察署を襲撃して殺害した「藤岡事件」

「右頸部中央ニ於テ巾四仙迷(㎝)動脈ヲ切リ頸椎ニ達ル刺創ノ外手足顔頭等ニ棍棒ヲ以テ殴打セルカ如キ殴創」(藤岡警察署長の死亡検案書より)

一九二四年地元有志が石碑を建立。犠牲者十七人の名前を刻んだ。
翌年から町主催で慰霊祭。しかし戦時中に中断。五七年市長らが

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詩)昭和の天ちゃん

詩)昭和の天ちゃん

その人はあの人のことを「天ちゃん」と呼んだ その人、中西さんはかわいいおばあちゃん。料理が上手い。美味しいきゅうりのぬか漬けを職場に持ってきてくれた。
肩が凝るとソロバンでこんこん肩をたたいて、あの頃はまだパソコンはなかったけど さすがに計算機はあった。でもこっちの方がいいと。
ウルサ方の建設職人が来てはいつも長話。女たちもお茶菓子を持って来ては長話
中西さんが長野の田舎から出て来た時、街で豪華な

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詩)たった一人の天使

詩)たった一人の天使

たった一人 天使がいれば
人生はまるで違って 
たった一人 天使がいれば
その幼い笑顔に 幸せが宿り
たった一人 天使がいれば
親はまるで 天国よりも幸福になり
たった一人 天使がいれば
全てはうまくいくと 思える
たった一人 天使がいれば
親族全てが 和解し合い
たった一人 天使がいれば
何もかもが 明るく見える
たった一人の天使が もしも
死んでしまったら
たった一人の天使が 
その幼くて美し

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詩)最後のメッセージ Last message from Gaza just before death

詩)最後のメッセージ Last message from Gaza just before death

CHILDREN ARE BEING TARGETED!……………… …CHILDREN ARE BEING TARGETED!……………… …THIS LITTLE GIRL CRYS OUT FOR HER MOTHER・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
おそらくこれはわたしがここから送れる最後のメッセージです 私は

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詩)期限切れ

詩)期限切れ

女房が台所で屈んで
ゴソゴソやっているので
「なにやってるの」と聞くと
「賞味期限切れたのを早く食べようと思って」
少女のような微笑みで言う
「大丈夫でしょ 古いのから食べるから」

素のままっていうのは
何とも言えない味がある
う~ん どう説明すればいいのかわからない
何とも言えない味 なのだ

期限切れのラーメンが
自家製チャーシューと味玉子が添えられて
どんぶりに盛られると一流店のラーメ

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詩)収まらない日

詩)収まらない日

いよいよ定年退職が間近に迫って来た
間近といいつつ
あれやこれやとふらふらしているわたし
楽しそうでいいわね なんて
女房にちくりと言われたり
そろそろ収めるものは収めないと
そう思いつつ
全く収まらないのだ
本は増え続ける
一冊買うたびに
腕を組んだ女房が
頭をかすめる


もう買っている

車をリース契約で買い換えることにした
今の車は10年前のもの
なんでも買うわ!のお店に
引き取りを依

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詩)線と線

詩)線と線

直角と線に覆われて暮らすようになったのはいつごろからだろうか
縦と横 線は線で結ばれ 線に囲まれている 線は無駄がない ルールの中で決められた結論を導き出す。 以前自動車の車体の設計をしている方に「線」の話を聞いたことがある。
手書きで図面を作っているときは線は収まったのだけれど、コンピュウターになってからどこまでも数値がつながって、収まらなくなったのよ。どこかで切り上げないと無限に連なることにな

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詩)八月になると

詩)八月になると

あの頃
八月といえば 大牟田の実家
カタカタカタ
モーター音のする扇風機が回る縁側
ざっくり 包丁で切り分けられた
お盆の上の西瓜

顔と同じくらいの西瓜にかぶりつき
足をぶらぶらさせながら
ぷっぷっと種を飛ばす

その日も暑い日だった
それはなんの前触れもなく
〈あゝそうだった 
ヒロシマのピカもナガサキのピカも両方見たよ〉
父がそう話した
〈そうそう 
あのヒューヒューという焼夷弾の音 
八月

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詩)三軒茶屋 ちゃんぽん長崎

詩)三軒茶屋 ちゃんぽん長崎

 

真っ赤に燃える日差し 三軒茶屋駅前のマックに若者が群れている不思議な光景を横目で見ながら 長崎ちゃんぽんを食いにいく

カウンターしかない席 隣の親父(僕もオヤジ)は発泡酒片手に爆発しそうな量のチャーハンをかっ込んでいる お洒落な帽子がかっこいい
僕の頼んだちゃんぽんはまだ来ない たまらずビールを注文

山本寛斎さん残念だったね しょっちゅう来てたのにね 雑誌、取材に来た? 街中華とかいう番

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