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見沼田んぼの生姜

見沼田んぼ
弊社が使用する生姜は創業当初から変わらず、100%さいたま市の見沼田んぼのものを使用しています。この「見沼田んぼ」はさいたま市に大きく横たわる大規模な緑地空間で、江戸の中期、徳川吉宗の時代に開かれました。
以降、戦後まで首都圏の食糧自給を支えてきましたが、近年のインフラの飛躍的な進歩でその役目を終え、残念ながら現在では休耕地が目立つようになっています。その見沼田んぼの休耕地を少しでも減らせないか、と考えて使い始めたのが、弊社で使用している無農薬、または超低農薬の生姜です。

徳川吉宗(1684-1751)

見沼田んぼの「谷中」生姜
見沼田んぼの谷中生姜、なんて、地理に詳しい方にとってはおかしなワードです。名古屋名物の台湾ラーメンみたいな話かというとそうではなく、れっきとした謂れがございます。
見沼田んぼは江戸後期から、生姜栽培が盛んでした。
特に盛んだったのは「葉生姜」、別名「谷中生姜」とも呼ばれる葉つきの中生姜で、、、

今でも見沼田んぼでつくられる谷中生姜

味噌なぞつけてかぶりつきゃ、そりゃあ酒のアテにも最高で、夏の暑気払い、夏バテなんかにももってこい!ということで大人気のお中元だったそうです。
「谷中」と言えば今の日暮里、そりゃ東京のことじゃあないかね、とは言いますが、谷中なんてもう江戸の時分から栄え切ってますから、そんなところで畑なんかやる人はいない。だけど「谷中生姜」てぇ銘はある、これを絶やしちゃかなわない。
そういう訳で、代理生産の地を求めて北上してったわけです。そこで白羽の矢が立ったのが、まさに見沼田んぼ。見沼田んぼでこしらえた葉生姜を、芝川から通船堀へ通して江戸へ運ぶ、そこからお中元になって夏の江戸っ子の口へ及んで精をつける、と。お中元に生姜を贈るなんて、なんとも粋じゃねぇか。
で、時は移ろい時代は令和、江戸は東京に様変わり。見沼の農業はちょいと廃れ、今や生姜を贈るなんてのは傾奇者のすることだ。なれどまだまだ遺る見沼の生姜!そんな折、これを使った「発酵ジンジャーエール」なんてぇオツな飲み物の登場だ!飲めば夏バテなんてどこかへ行っちまう。しかもこいつを髷を結ったイナセな野郎が造ってる、と。
さてさて…こいつでいっちょ、知人友人の暑気払いはいかがかね…?

と、こういうわけで、見沼田んぼは生姜の産地であったという今では地元でも知られなくなった昔話がございます。ここをまた生姜畑に戻してあげて、休耕地が減ったらいいな、という想いとともに日々奮闘しています。

無農薬、または超低農薬の生姜
生姜は、人間の身体を不思議なくらい温めてくれますよね。人間の身体は、体温が上昇すると、免疫力や代謝が向上し、元気が出る。
だから生姜自身も、虫にも病気にも強い農作物というイメージが有りました。しかし、実際はその真逆でした。生姜自体は、畑の中ではとっても弱いのです。
虫に食べられた芽は、もうそこから伸びません。病気にもかかりやすく、土の中に病原菌が潜んでいる畑では、次々に感染して畑中に一気に広がり全滅したりします。実際2021年に無農薬で試し、全滅した圃場もありました。生姜の農家さんはみんなこう言います。「生姜は博打と同じだからねぇ」と。特に初期はとても弱いので、病気が出ないように、植付け前に畑の土壌消毒を行います。そうすると、半年たって収穫するとき、もう無農薬とは言えません。しかし、植え付け前に土壌消毒を一度行っただけで、その後は一切農薬などは使用しないので、私は超低農薬の生姜、と呼んでいます。だから私たちの生姜は、無農薬で育てている生姜も多く使用していますが、超低農薬の生姜も使用しています。どちらも変わらず、身体に優しい上質な生姜です。農薬=悪、と思考を止めるのではなく、正しく使用して品質や収量を高めることが、農業者にも消費者にも良いことにつながる、と考えています。
無農薬じゃなきゃ、有機栽培じゃなきゃ、という方がいることも承知していますが、弊社はあえて、無農薬の生姜だけではなく、超低農薬の生姜も使用し続けます。

11月初旬に収穫した、見沼田んぼの無農薬生姜

ところで、スーパーで販売している生姜や、通常の飲食店で使用されているもの、特にその多くが中国産のものですが、基本的に普通に農薬が使われているものしかありません。無農薬の生姜を手に入れることは、けっこう難しいことですので、もし見つけたら、お!尋常じゃない努力をしているな!すごい!と心の中で農家さんを褒め称えてください。

名無しの生姜
私たちが使っている生姜の種類はいくつか有りますが、主に育てているのは、すごく珍しい生姜です。どのくらい珍しいかというと・・・
宮崎県の三股町というところに中村さんという生姜専門の農家のおじさんがいます。
この方が明日「もう、やーめた!」と言ったら、この生姜はなくなります。
それだけ珍しい生姜を、分けてもらって育てています。中村さんが万が一「もう、やーめた!」と言っても、この素晴らしい生姜をなんとか見沼で残したいな、と思いながら。
因みに、この生姜には品種名もついていません。名無しの生姜です。
ある日、中村さんのところに宮崎県庁から電話が来て、「その生姜、どうやら高知県で一番作付けされている"土佐一"の親らしく、とても珍しいものだから、できれば絶やさないでね」と言われたそうで、中村さん曰く「そういうわけだから毎年畑一枚分は植えているんですよ。」とのこと(笑)

見沼田んぼで大きく育った名無しの生姜

この生姜をわざわざ使うのには、理由が有ります。それはその「味わい」と「強さ」です。
味わいについて。生姜という食べ物は、かじるとジワジワと口の中が辛くなっていきますが、この生姜は特別で、口に入れた瞬間に、パッ!と花火が舞うような、強い辛味と爽やかな香りが広がります。その後、穏やかで甘味を感じるような印象に変わり、さっとキレます。えぐみはありません。私たちが生姜に求めているところだけ切り抜いたような、素晴らしい生姜です。
強さについて。この生姜は上記の通り、日本で最も生姜が有名な高知県で、最も多く栽培されている「土佐一」という品種の親になった生姜だそうです。これまで、一切改良などされずに栽培されてきた生姜なので、どうやら病気に少し強いようです。中村さんは、近所の方に「生姜を植えてみたい」と相談されたときは、素人には土佐一は無理だから、と言ってこの生姜の種をプレゼントするそうです。
私たちが見沼田んぼで育てる際、多くは元々休耕地だった圃場に植え付けます。農薬を使わない、または最低限に抑える場合、やはり病気の蔓延が恐いので、この生姜を採用することが良いような気がしています。
今や休耕地だらけになってしまった見沼田んぼですが、今後はこの生姜をたくさん植えて、風が吹くたびに生姜の葉の爽やかな香りを楽しんでもらえるようになったら素敵だな、と思っています。


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