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ギク川霊のぎっくりしゃっくり昼下がり 23年冬 - 4

そういうことである。なんと24年になってしもうた。
その4である。

その1その2、そしてその3のつづきである。


……ということで、前回の続きになるんですけどね、ギク川さん。
わたしが最初にしゃべるってのもおかしな話なんですが……えーっとあの、とりあえずわたくしの書いた文章をですね、読んでいただけましたでしょうか。

geekさん……

はい、どうしました?

やっとお話を読めたんですが

はい、ありがとうございます。
いかがでしょうか

はやてが……

はい。
はやて、いましたね。
はやてが、どうしました?

はやてが

はい、

はやてがね、いなくなっちゃったんですよ……

そ、そうですね。
そういうふうに書きましたので、ええ。

あんなにがんばったのに、……いなくなっちゃいました

うーん、そう、ですねぇ。
……えーっと、あの、ほかにご感想、あります、か??

いなくならないとダメだったんですかね、はやて

あー、どうでしょうね。
そればっかりは本人に聞いてみないとなんとも言えないというか、彼が決めたことを尊重して書いたって感じに、なるかなぁ

じゃあ、最初からいなくなる予定だったんですか?

それは、そうですね。
彼が去っていく場面は頭の中にクリアに描けていたんですよ

そうだったんですね。
うーん、居なくならなくても、はやての居場所を作ってあげればよかったのになって、わたくし思ったんですね

あー、ギク川さんはそう思ったんですね

はい

書き手としてはですね、はやてがいなくなるところでおしまいにして、その後の彼については、読んだ方の想像にお任せするってことをしたかったんです。
彼は「しゃべる」というコミュニケーション手段を持ってはいなかったけれど、なんとか集団でうまくやってきたわけですよね

途中まではそうですよね、がんばれがんばれって思ってました

そうなんです。
けれどそれまでと同じように過ごしていてはうまくいかない場面が出てくる。自分は変わらないけれど、環境が変わっちゃうんです。それは時間の流れを意味していて、誰の力をもってしても流れを変えたり止めたりはできないんです。ストーリーの組み立てとしてはよくある手法だと思います。
でね、うまくいかない場面っていうのは、特定の誰かが悪者になっちゃいけないと思うんですよ。

でも、寄合で、ガンコ親父が「お前は言いたいことが無いのか〜!」って、言ってましたよね??

そうです。
あの親父さんみたいな厳しい人がいるから、村に大きなことが起こっても方針がブレず、村がある程度意思統一した集団として機能しているという見方もできるかな、と思いました。頼りになるのと融通が利かないのとは、この場合は表裏の関係で切り離せないんじゃないかと思ったんです。
あのガンコ親父は彼なりに村の決まり事を一生懸命に守ろうする意識があってああ言ったんじゃないかと思うんですよ。悪気があるんじゃなく、彼なりの正義感で例外を認めないことで、村を大事に思ってるぞ、と表現したんでしょう。
でも、いま現実にそういうことがあったら「閉鎖的だ」とか「排他的だ」と言われるかもしれませんね。

声の大きい人っていますよね、今でも

そうそう、そんな感じで。そうなったら声の大きな人の陰でウワサをする人もいるわけです

あーそっか〜。冬の場面でそういうのがありましたね

そうなんですね。
書きたかったのはそういう人たちだったかな、と思うこともあります。
中心となる人物、主人公ですね、これをひとり配置するんだけれども、その周辺を細かく書き込んでいくことで主人公の住んでいる世界が書割りのレベルから一歩出るのかな、と思って。
字数制限がなかったらこういう人たちの生活する場面も書いてみたいな、と思いました。

じゃあ、村だけじゃなくてまちにも同じようにいろんな人たちがいるから大変ですよね

ね〜、ほんとに。
商人と旅芸人っていうのは、よその村の人だろうと気にせずしゃべることができたんだと思うんですよね。だから書いてみました。
薬問屋も、取引がありますからいくつかの場面が思い浮かんでました。
それ以外のお侍さんの視点とか、お坊さんのいるお寺のこととか、あとは人間じゃないですけど、村とまちを結ぶ道での出来事とか、頭にはいくつかアイデアがあったんですが

あのー、geekさん

あ、はい?

それ、全然書いてないんじゃ

ええ。4000字で表現できることって限られていると思ったので。

じゃあ頭の中にある場面ってどうなるんですか?

書かないです

書かないんですか!?

はい

でも、頭にあるんですよね!?

あります。いや、正確にいうと「ありました」かな??

ギク川ですね、書いてもいいんじゃないかと! ないかと!

そうですね、また何か違うものを書くことがあったら、そのタイミングで今回の経験が活きるでしょう。しらんけど。

くわっ! しらんけど!

はい。しらんけど。

……えーっと、さて。
そうですね、あのー、このおはなしって4つに分かれてますけど、どうやって分けたんですか?

ああ、それですか。
最初の「一」は導入で、あとはエピソードです、はい。

たしかに、はやてってこういう人だよっていう説明が最初にあって、そのあとは初夏の場面、冬の場面、で、寄合の場面、になってますね。

話としてコントラストがついた方がいいかな、と思ってそうしました。ものがたりとしていくつかの対比ができたかな、と思ってます

初夏と冬、とかですか?

そうそう、そんな感じで

ほかに対比ってなんかありましたかね〜。村とまちとか?

はい、それもありましたね。他に気づきました?

はやてはしゃべれないけど、みんなはしゃべれますよね。それくらいかな〜?

ありがとうございます。
まずですね、最初の季節の対比ってありましたけど、これは話としてわかりやすいと思ったのでそういう設定にしました。ここで梅がポイントになってますね。

はいっ! はやてが一生懸命がんばってました!

そうなんです。
村は、梅の栽培はできても、それを薬にする技術はなかったから、まちへ売るってことにしてたんでしょうね。
で、村とまちの対比なんですが。
話のなかで商人が、同じ梅でも薬にしたら儲かるぞ、と言ってましたが、きっと村の人にそういう発想ってなかったんだと思うんですよ。おそらくそういう余裕もないでしょうし。

あー、そうかもしれないですね〜

となると、村とまちとの対比には、技術や知識があるかないか、という観点も含まれるんじゃないかと思うんですよね。たとえば、村で梅を加工できたら、その方がきっと村は潤うんじゃないかな〜と想像するんですが、そういう視点を持ってなかったから梅の実を売ってたんでしょうし、アイデアがあっても反対されたのかもしれないし、村で何が決定されてきたのかはよくわかんないですけど。

たしかにそういう書かれ方になってる気もしますね〜

で、しゃべる人としゃべらない人っていうのは、元々のコンセプトにあったんですけどね、

はい

しゃべらないっていうのは、ひとつのわかりやすい形ではあるんですが、実際にこういうことってあるよね、と頭の中にはあったので、それを表現してみたかったんです

どういうことですか?

たとえば、発言権が無いとか、何か言っても取り合ってもらえないとかっていう状況ですね。
極端な例だと芸能人や歌手って特定のイメージがありますし、そのイメージから外れた発言や行動って受け入れられないことがあると思うんですよね。最近はSNSがあるからそこまでじゃないかもしれないですけどね。
まあ、芸能人や歌手じゃなくても、身近にもそういうことってあるかな、と。それって見方を変えると「個人 vs 集団」の構図にもなっていて、今回のものがたりではそういう見方もできるような書き方をしました。あと、対比構造としては、権力の有り無しとか、大人と子供、とかでしょうかねぇ。

はぁ〜、そうですか。
ギク川そんなふうには読んでなかったですね〜

いろいろありますけど、読み方に「正しさ」は無いので、それでいいんだと思うんですよ。他の人に聞いたらぜんぜん違うことを言うでしょうし。いろんな読み方があるほうが楽しいですしね

そうですね! 楽しい方がいいとギク川も思いまっす!
ところでgeekさん!

あら、ギク川さん元気になりましたね

はいっ!
今回ですねっ、書いたなかで、思い入れのある表現とかってありますか?

ああ、なるほど。おもしろい質問ですね。
えー、そうですね……冬の場面で、はやてがまちから必死に帰ってきたところで村人が
「おうい! おうい! かえってきたか!」
というところ、ですかね。

そこですね! ギク川も「帰ってきたー! がんばれがんばれっ!」って思ってました!

そうですよね。
書いてる側からすると、ここってウワサをする村人のことがよく表れてるな、と思ったんです。はやてが帰ってきて単純に嬉しい、よく無事に帰ってきた!という気持ちは間違いなくあったと思いますし、それを大声で表現したんだと思うんですね、けど

けど??

村人ってウワサしてたじゃないですか。「地主ははやてを死なせるのか」って。

あ〜、そうでしたね!

で、はやてが帰ってこないと、自分達のうわさ話が本当になったんじゃないかって黙っちゃうわけです。その時間が長引くほど、自分たちのうわさ話がはやてを殺めたんじゃないかって怖くなってきたと思うんですよ。待ってる時間はそれだけで長いですからね。
あるいは、はやての安否以上に「おまえらがうわさ話してたから、はやては帰ってこれなかったんだぞ」とか指さされる不安もあったりして。

うわ〜っ、それはすごくイヤですねぇ。ずっと言われそうですし……

そうなんですよ。だから彼が帰ってきた時に2つの意味でよかったと思ったんでしょうね。彼が帰ってきたことと、自分達のしたうわさ話の罪悪感が払拭されたことと。必要以上に彼の帰還を喜んだんじゃないかなぁ。
あの場面はそういう質量感のある表現になったような気がします。

うわーそうでしたか〜。そんな背景があったんですね、ありがとうございます! 
みなさんも好きな表現があったら教えてくださいね!

ところでgeekさん!

はい?

「はやて」って童話募集で書かれたってことは、他の方の作品なんかもいろいろあるんですか?

そうですね。ウミネコ童話集という本に、わたしの書いたものも含めて素敵な作品がたくさん収録されるんですよ。
作品の一覧は「ウミネコ文庫からのお知らせ その6」をご覧くださいね。

あ、そうだ、ギク川さん

はいっ!

「はやて」の挿絵はご覧になってない、ですよね??

えっ!? 挿絵、あるんですか!?

実は、あるんです。KaoRu IsjDhaさんに描いていただいたんですよ。
こちらが挿絵ありバージョンです。

えーっ!? ギク川ですね、こっちで読みたかったです!

そうですよね。
今回、最初に挙げたのが挿絵なしバージョンだったのでそれを前提にしちゃいました。その間にいろいろと進めてたんですよ。素敵な挿絵とともに本に収録されるので、これもまた楽しみですね。文庫本はモノクロなので違った印象になるかな、と思います。

カラーで挿絵を見られるのはnoteだけなので、また感想教えてくださいね。

くーっ! そうですねっ!

はいっ! ということで!
今回は年またぎの放送になりましたが、楽しんでいただけましたでしょうか!? わたしも挿絵ありバージョンを読んで年明けのお休みを過ごしたいと思いまっす! 

それでは皆さん、次回まで健康に気をつけて過ごしてくださいね!
今回もお相手はわたくしギク川霊とっ!?

わっ、油断した!
はい、geekでした。


ではまた次回、お会いしましょう!
バイバーイ!




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