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老舗建設会社の新規事業がチョコレート⁉自分で価値を作る商品開発のおもしろさと、事業拡大の先に見えたものとは

 コンサルティング会社勤務を経て実家が営む建設会社に入社した佐々部一宏さんは30歳の時、アメリカ発祥の「Bean to Barチョコレート」に目をつけ、チョコレートブランド「CACAOLOGY(カカオロジー)」を立ち上げました。2020年7月にG Innovation Hub YOKOHAMA(以下G)に入居してパティシエと2人、手探り状態からスタートした異業種への挑戦は、赤レンガ倉庫に出店するまでに成長。立ち上げから3年が過ぎた2023年末、さらなる飛躍を願い地元洋菓子会社へと事業を引き継ぐ決断をしました。佐々部さんに事業立ち上げから譲渡までの思いを聞きました。


異業種から自分の世界観を追及できるチョコレート業界へ

 横浜市港南区出身で、実家は祖父の代から続く建設会社を営んでいます。僕は大学卒業後、コンサルティング会社に就職しましたが、当時から自分で事業をやりたいという思いを持っていて、社会や仕事のイロハを学んだら会社は辞めると決めていました。2年半で退職して、実家の会社に入り経営管理や土木の現場仕事、施工管理を2年ほど経験しました。その中で、建設業以外の事業をやりたいと思うようになったんです。建設会社は公共工事を請け負いますよね。市内のインフラを整える大切な仕事だと思いますが、その仕事は税金をもらってやっている、つまり税金を使っている立場なんです。それなら反対に税金を生み出す仕事が必要だと考えて、価値を作ってお客さんから対価をもらう仕事をしたいと思うようになりました。
 そこで興味を持ったのが「Bean to Barチョコレート」でした。Bean to Barチョコレートは産地にこだわってカカオ豆を仕入れ、チョコレートになるまでの全製造工程を自社内で一貫して行うものです。アメリカで生まれた大量生産、大量消費アンチの商品で、フードロスの観点やカカオ生産者の労働環境改善なども背景にあります。「何か事業を」と考えていた時にたまたま届いたメールにBean to Barチョコレートのレポートがあって、2015年ごろから日本にも入ってきて、未経験の人たちが参入しそのジャンルを作っていると書いてありました。実は学生時代、アメリカに留学中に実際に見て面白いと思った記憶があったんです。大手企業と被ることもないですし、お金儲けだけでもなく、自分の世界観を追及していけそうだと思いました。それに横浜という地は歴史的に新しいことを受け入れているので、外国のカルチャーが合うのではないかとも考えて始めることにしました。一番の原動力は新しいし、面白そうという好奇心でしたね。

横浜で働く人たちと交わりながら作る“横浜発”のチョコレート

チョコレートの商品開発について語る佐々部さん

 3年前に建設会社の中にチョコレート事業を立ち上げましたが、まったく経験のない業種だったので周囲からは反対されました。パティシエでもない初めて挑戦する人たちがすでにやっていて不可能ではないことは証明されていたので、それらを説明して了承を得ました。僕が作るわけではないですし、作り手になりたいわけでもない。自分はプランナーとしてできる人を見つけてくれば良いという考えでしたね。社内に仕事場を作っても良かったのですが、新しい事業なのでしがらみのない新たな環境でやったほうがうまくいくと思って、シェアオフィスを探しました。「横浜発」という考えがあったので、横浜で働く人たちとつながりを持ちたくて。Gはネットで探して見つけましたが、人と人との交流があって仕事をするためだけのシェアオフィスではないというコンセプトが入居の決め手になりました。
 入ってすぐに求人広告を出して、豊富な経験があるパティシエと出会うことができました。僕が見つけたというよりも、見つけてもらったという感じですね。菓子を作るだけでなく、0から1を作れる人という条件で募集をしたので、企画段階からパティシエの意見も取り入れ、機械の選定や取引先の開拓、製造場所探しまで関わってもらいました。
 Gでは交流会でチョコレートの話をして、入居者のみなさんに試食をしてもらいました。
チョコレートの風味は豆の産地によって結構異なるのですが、誰にでも分かるものなのか不安があったんです。試食で味の違いが「分かる」という声を聞いてとても自信になりました。その場でもらった感想をパッケージの商品説明に使ったり、お客さんと直接話すときに使ったりもしましたね。みなさん積極的に参加してくれて良かったです。

アーティストとのコラボパッケージやパティシエの強みを商品に採用

アーティストの作品がパッケージになったChocola Meets

 ブランド名を「CACAOLOGY(カカオロジー)」として、2つのラインナップを作りました。1つはパッケージでアーティストとコラボした「chocola meets(ショコラミーツ)」です。食べたことのないチョコレートを味だけで買ってもらうのは難しいと思ったので、4種類、風味ごとに違うアーティストにパッケージの絵を描いてもらいました。味の違い=パッケージの違いです。全国各地のアーティストと仕事をしている知人に紹介してもらい、パッケージのイメージに合いそうなアーティストを僕が選びました。最終的に手に取りやすい親しみのある絵を描いている若手のアーティスト10人以上とコラボしました。デザイナーではなくアーティストなので、出来上がったものは作品です。修正依頼はできないので、相手を信じて任せるしかないという緊張感がありましたね。
 もう一つはチョコレート本来の濃厚さを楽しむ、生チョコに近いような味わいのプリン「カカオクリュ」です。二人三脚でやってきたパティシエがプリンの製造経験が豊富だったので、商品に生かせば他との差別化を図れると思って作りました。コロナ禍だったこともあり、オンラインでの販売が中心でしたが、こちらは2021年に港北区大倉山にオープンした製造所に併設の店舗でも販売しています。

世の中に価値を届け続けてくれる地元企業へ事業を譲渡

2022年12月にオープンした赤レンガ倉庫の店舗

 コロナが収束した後、売り上げを伸ばすために人がたくさんいる場所に店を出したいと考えて、リニューアルに向けてテナントを探していた赤レンガ倉庫に出店することにしました。しかし、赤レンガ倉庫の店舗がオープンするとこれまでとはスピードやリズムが一気に変わって、一人ですべてを回すのはきつくなってしまったんです。初年度は人が集まるのかも、どのくらい売れるのかも分からないので、生産量の見通しも立てられませんでした。持続的ではないと思いましたし、ここから先は会社として支えられる体制でやったほうが良いと判断して事業の譲渡先を探すことにしました。働く人が減っている時代の中で、大量に作って売るのは小さな会社には難しいのですが、だからと言って自分で組織を大きくしようという考えはありません。
 その結果、これからチョコレートを扱いたいと考えていた株式会社ありあけとご縁があり、2023年12月に事業を引き継ぐことになりました。ブランドを作ったとはいえ、ずっと抱えようとは思っていなかったので、譲渡することにためらいはなかったです。世の中に価値を届けられていれば良いと思いましたし、次のステージに進むという感じで。商品を生み出すことと販路を拡大することは、組織体制も仕事の進め方も違いますし、コストもエネルギーもだいぶ違うと思うんです。「ハーバー」などの商品を展開するありあけは、大きな工場も店舗もありますし、従業員数も多いので、事業を引き継ぐことで大きくしてもらえたら良いですし、この先どうなっていくのかを楽しみたいです。
 事業を始めたいと思った時は、小さくてもまずやってみることが大事だと思います。僕の場合はGでテスト販売をしたり、そのつながりで関内のアートイベントにポップアップストアを出店したりしましたが、友達に売るとか、安心できるコミュニティの中で始めるだけでもだいぶ違います。いきなり投資して店舗を持つのはすごく怖いと思うので、できる範囲で無理なくやるのが良いですね。

趣味はトレイルランニング。考えが凝り固まった時も走れば良いアイデアが!

 新たな事業をやってみたいと思っていますが、まだ具体的な予定はありません。自分で何かを立ち上げるのか、どこかの会社に入ってやるのかも決めていないです。時間ができたら海外に行ったり、趣味のトレイルランニングを楽しみたいですね。もともと走るのは大嫌いでしたが、留学中にダイエットのために走るようになって。最初は1キロも走れなかったんです。でもやるなら目標を作ろうと思って、マラソン大会出場を目指して走るようになりました。10㎞走れるようになるまでは本当に辛くて、当時よく続けたなと思いますね(笑)。ただ道を走るのはつまらないと思ってしまうのですが、留学していたシアトルは森や公園が多くて、それらがランニングコースに入ってくるので気分転換になっていました。日本はタイムを目標にしがちですが、僕は走ることでリフレッシュしたり、満足感や幸せを得たいと思っていて。タイムではなく走ることで楽しいと思えるものを探していったら、トレイルランニングに行きついたんです。旅のような感覚で走れますね。走ることは健康に良いですし、仕事で考えて凝り固まった時に走るとアイデアも出てくるのでやっていて良かったと思います。今はトレランを完走するための体力づくりという感じで日常的にランニングを続けていて、自宅から関内、みなとみらい周辺まで走ることもしばしばあります。走っていろんな地域にいけるのも楽しいですよ。

関内のおすすめスポット…大岡川沿い。走っても散歩していても、探索するのが楽しいエリアです。桜の季節は最高!


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