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短編小説 競馬八百長絵図を読む (2135字)

コメの国では、ディープステートが操る影の政府がある。
古今東西、世の中に陰謀論の絶えた事は無い。
この話は、単なる競馬狂いの妄想である。
しかしながら、当たる時もあるから怖い。

江戸日本橋、大手廻船問屋大国屋は、年に一度の大商いに沸いていた。
その一カ月前、板橋の盗人宿干支屋には、江戸の義賊雲切仁左衛門の手下が集結していた。
今夜は大国屋の千両箱を狙う絵図を描く最後の打ち合わせの日だった。
今回の絵図を描いたのは、天下一品の絵図描きの捨吉だ。
捨吉が絵図の説明、段取りを話始めると、
親方の雲切仁左衛門が、首を捻って言った。
いつもの雲切の手口だな、これでは見抜かれてしまう。
今回の絵図は捨吉に降りてもらう。
梅吉、お前が描け。
おおおーと一同は唸った。
大阪の盗人一味から加わった新参者の梅吉は躰を強張らせた。
親方の雲切がいった。
1つ、江戸の民に喝采される事。
1つ、悪いのは、雲切じゃねえ、儲けた大店だ。
1つ、御上には、捕まらない事。
梅吉、頼んたぞ。
と言うと親方は、じっと目を閉じた。
数日後、江戸の庶民の間に、雲切が現れ、狙いは大国屋だと噂は広がった。
江戸の庶民は決行の日は、いつか、野次馬たちは、いつもの様に騒いだ。


大国競馬場には、非公式の団体、大国共進後援会なるものがある。
元々は、勝ち星に恵まれない馬主への年に一度の互助会ボーナス的色彩の強い競馬関係者の八百長の絵図を描く会だった。
近年は地方競馬場の競合が激しく、公正な競馬ばかりやっていては、人気が出ない、つまり売り上げが伸びない。
早い話競馬場の人気は、高配当の出る荒れる競馬場、とか荒れるレースは無いが、よく当たる競馬場、等の性格が明確でないと生き残れない。
そこで、大国共進後援会の役割も、変化し射幸心を煽るレースを組み立てて、大国競馬場ファンの拡大を図ったり、高配当を連発したりの販促活動をする組織に成って来た。
大原則として、八百長がバレてはならない、つまり売り上げの多い日に八百長をすると、配当金のバランスの悪さも隠しやすいが、売り上げの少ないレースで、八百長をすると配当金のバランスの悪さが目立つと、
ファンに疑念をいだかれる。
これはおかしいと騒がれる事態に陥る。
手入れが入り検挙者を出す、存続に係る事態に陥る。
そこで、八百長の絵図描きは、お決まりの法則を取り入れつつ、ファンの裏を描き、円満にウィンウィンの関係を築くのが理想となるのです。
大国共進後援会の例会は大国競馬場貴賓室で行われる。
会長の佐々山が発言した。
今開催は年間で一番売り上げの多い、帝国賞が行われます、例年通りに仕掛けたいと思いますが、皆さんいかがでしょうか。
各部門とのコネクションをつける代理人4名は賛同した。
異議なし。
長年絵図を描いて来た川島が、説明を始めた。
例年通り大、中、小、3レース仕込みたいと思います。
代理人の一人が発言した。
最近マンネリ化が激しいんじゃないか、1番が来れば連れて10番11番が来る。3番が来れば13番。2番に12番。パターンがバレバレだ。
川島が反論した。
今の流行りの傾向で、大中央も真似していますので、まあ
餌を巻いていると考えていただきたい、3回もやれば、その後パターンを変えると効果は10倍以上で帰ってきますから、お決まりも効果があります。
他の代理人が言った。
今の絵図では、騎手に偏りが出てやりにくい、先の開催では、スタート古参騎手が落馬して、辻褄を合わせたくらいだ。騎手もやりにくい。ファンに見抜かれている。
川島は苦しい弁解をした。
騎手の技術の問題もある、職人が少ないんですよ。
他の代理人が言った
もっと若手を使ったらどうだろう、若手だけのレースならやりやすい。
それは、良い案だな。
佐々山会長が言った。
今年は絵図の描き手を、予想側の崎野君にやってもらうか。
今年も11R帝国賞は大中央に、持って行かれるから、その分その前のレースで、仕掛けてもらいたい。
崎野が話し出した。
今年は、大、中、小、を止めて、ストレートに大2本でどうでしょう。
9R三連単80万、!0R三連単200万と盛り上げて11Rは大中央にお任せ、12Rは成り行きで、どうでしょう、
佐々山会長が、機嫌よく言った。
9、10と盛り上げて、11でドスンと落とすか、それで行こう。ところで9、10、は多頭数だろうな、
川島が大丈夫です、と胸を張った。
再び佐々山会長が指示を出した。
前日、前々日のレギラーは川島君が絵図を描いてくれ、
じゃあ、後はたのむ。
の一言で大国共進後援会の例会は終了した。

競馬新聞が可哀想になるくらい睨みつける、地方競馬ファンがいる。
闇の組織は今年どんな絵図を描いたのか、絵図を読むファンがいる。
番組表を睨みつけて、何処で仕掛けて来るか、予測するファンがいる。
ファンは八百長を、織り込み済みだ。
どこで、その尻尾を掴むか、
それが、大国競馬場の楽しみの一つだ。
ミニスカ姉ちゃんの、生ファンファーレが聴こえる。
                       おわり。
                 
                  














絵図 ディープステート 影の政府、陰謀論
鬼平、大岡越前、雲切仁左衛門、
俺たちは八百長をやっているのじゃねえ。
競馬を盛り上げているんだ。


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