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短編小説 Wワーク (1044字)

母がスーパーの仕事から帰って、晩御飯を作る間、
僕は台所のテーブルで宿題をやったり、ゲームをしたりして、ご飯を待っている。ご飯を食べ終えると、母に学校の話をしたり、宿題を見てもらいながら、友だちの話とか、何でもない話をしていた。
父は、いつも帰りが遅く、僕にとっては遠い存在だった。
僕が小4の秋の事だった。
その日、なかなかゲームがクリア出来ずに、僕はのめり込んでいた。
ご飯がテーブルに並べられて、
いただきます。
と母に言ったのに、僕はゲームを手放さなかった。
茂、ご飯ですよ。
はーい
一口、二口、食べながら僕はテープルの下でゲームを始めた。
茂、何やってるの。 もう食べなくていい。
テーブルをドーンと叩いて母が怒った。
僕は母の剣幕に驚き
ごめんなさい
と言ったが、母の表情は険しく、二人とも無言で食べた。
お腹がいっぱいに成ると、気分も変わって来て、いつもの様に僕はテーブルの上に宿題を広げ、今日は計算問題を解きだした。
母もそれを見て、自分でも計算しているようだった、僕は母に
ここの計算どうするの
と訊いた、母の顔が急に強張った。
んーんん、よく、わかんない。
ああ、お母さん、解んないんだ、お母さん、解んないんだ。
僕は、囃し立てるように、繰り返し見下して言った。それは分数の問題だった。
母は、急に立ち上がって、台所に立ち、洗い終わった食器をまた洗い始めた。その仕草を見て僕は、泣いていると思た。凍り付いてしまった。
とんでもない事をした。僕は悔いたが、もう遅く母との間に溝が出来た。

その数日後、母はもう一つ仕事をする事に成った、スーパーの仕事から帰った母は、晩御飯の用意をして、すぐ清掃の仕事に出かけた。
僕は一人で晩御飯を食べ、母に甘える会話の時間は無くなった。
生活パターンも変わり、僕は塾に行くようになった。
父と母と僕、三人がそれぞれが別々に生きている感じがした。

冬が来た。僕の成績は上がってきた、分数の多い算数のテストで、よりによって100点を取った。僕は嬉しかったが、その日母には言えなかった。
翌日、塾の先生に100点の話をした。先生は喜んで
茂君、お母さん言ってたよ、
私は勉強できないから、仕事して塾代稼ぐぐらいしかできないから、
先生どうぞ、よろしくお願いしますて。
僕は驚いた。泣けて来た。
急いで家に帰った。
母は未だ清掃の仕事に出ていなかった。
お母さん、
これと100点のテストを見せた。
母は、喜んで、
よくやったね。
と言った後また僕に背を向け、台所で洗い終わった食器を又洗い肩を震わせ恐らく泣いていた。
おわり

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