見出し画像

今までよりはマシな所へー「バグダッド・カフェ」Out of Rosenheim


さなえさんの
好きな映画は何ですか?

と、よく聞かれます。

正直に言えば
好き。なだけでも何百あるのか
分からないくらいですが笑


あえて、の1本を。


1987年の映画
『バクダッド・カフェ』です。



ベガスへ向かう途中の夫婦は
砂漠のハイウェイで喧嘩別れ

ジャスミンは スーツケースひとつ引きずり
ハイウェイを歩き出します



どこへ向かっているのかすらわからない ただ
”今までよりはマシなところへ”

たどり着いた その場所は
バクダッド・カフェ



そこは
寂れたガス・ステーション

コーヒーマシーンが壊れたカフェ
バッハを弾き続ける息子
遊び回るばかりの娘
働かないバーテン


やっと帰ってきた亭主は
コーヒーマシーンの代わりに 小さなポットを拾ってきた

女主人ブレンダは 怒鳴り散らした末に
亭主を追い出す


怒りから始まる二人の女


途方に暮れる彼女の目に
大きなトランクを引きずり 歩いてくる旅行者が写る


砂漠に不似合いなヒールとスーツ
大粒の汗を拭い
たどたどしい英語で
宿を借りたいと申し出る

怒りのおさまらないブレンダは
客相手でも喧嘩腰

突然やってきたジャスミンにも
不信感ダダ漏れで

1日限りの客と思ったこの旅行者が
いつまでも留まるのにうんざりしながらも
次第に 彼女の存在に癒されていく

説明のない映画



そしてこの映画
「なぜ」がない

台詞で説明しない
登場人物についても説明なし


だからこっちも「なぜ」目線で見ると
訳がわからない話なんです

ブレンダがキレ続けるように。


なぜ彼女がここに来たのか
なぜ彼らがここにいるのか
なぜ女主人は怒っているのか
なぜ旦那は出て行くのか
なぜ息子はバッハを弾き続けてるのか
なぜ”バグダッド”なのか



それって全部
観てるこっちが
こうだろうと
勝手に思うだけなんですね




そういう思い込みみたいなものをとっぱらって
ただ眺めてみると
とっても面白いのです



だから台詞の少ない映画って好き♪



ジャスミンは汗を
ブレンダは涙を
それぞれ拭いながら 見つめ合うシーンが印象的。



無くしてきたものと、ひとつになる



おまけに
ジャスミンが大粒の汗たらして引きずってきた
スーツケースは旦那のものだった(!)
自分の着替えひとつない
そんな状況



ただ彼女は
自分のスーツケースを取り戻しもせず
その、引きずってきたケースを捨てようともしない



未知の世界へ
その身ひとつで
ひとり踏み出した彼女にとって
その役に立たなそうなスーツケースは

忘れてきた(無くしてきた)男性性の象徴みたいに
私には観えました




一番ムダ(と思えること)をやってみろ、みたいな
それを活かしてこそ
自身の女性性も輝くというね

統合されるといえばいいかな



一番してこなかったことをして
もともと持っているものとひとつになる




彼女にとっては
ガラクタだらけのオフィスを掃除するのも
ピアノを聴くのも
赤ちゃんをあやすのも
マジックも



理屈なんかない

ただ目の前にあって
やらずにはおれなかったこと




目の前を受け入れ続けて
でも見てるだけじゃなくて
関わり続けて
だからマジックセットも捨てずに使った


それがあの
バグダッド・カフェの賑わいにつながっていくんだな。


「Out of Rosenheim」



原題は「Out of Rosenheim」
ローゼンハイム(故郷)から遠く離れて
…ってところでしょうか



おそらくは故郷から
そして旦那から
遠く離れて



慣れ親しんだ場所から離れて
今までならやらなかったことをする
(マジックは一つの挑戦だね)



それは受け入れる人がいれば
受け入れない人もいるけど
(インディアン警官とか)


キャンプを張ったヒッチハイカーが
繰り返し飛ばすブーメランみたいに
帰ってくる


ジャスミンも
帰ってきましたね


ブレンダと再会したジャスミン
…何を話してるんだろう…
それすら語られないところがいいんだけど


Calling You


ラストシーンにして初めて
よくある映画っぽい
説明っぽい台詞のやりとりがあります

ジャスミンはコックスの問いかけに答える
まるで子どものような表情で
だけどはっきりと
自分の言葉で話すジャスミン


冒頭の
汗だくでスーツケース引きずる姿とは別人



一番
可愛らしいな♪
と見惚れちゃう彼女の姿ですわ



Calling You…
人生はいつどんな時でも
絶妙のタイミングなのよね。


Calling You (18:17)

(写真はお借りしました)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?