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今日の面影



今日という日は、その次の秒で
一瞬で壊されるのだと、
あの日の春、
日本中が思い知らされた

ドアを開けると、
そこはもう海だった
お父さん!
と家の中を
振り向くと
そこに
彼の姿は
もう無かった

逃げてください、
高台へ逃げてくださいと
町の人たちへ呼び続けた
役場の天使は
空へ流されていった

もうじき生徒たちに
手渡されるはずだった
卒業証書は金庫に
保管されたまま
海の底へ沈み

総合病院の    
屋上では 
職員達が  
SOS  
の人型  
文字で  
ヘリに 
救助を
求めた

高台に逃げ延びた人々の
目前に押し寄せてくる、
冷蔵庫やテレビ
ワカメにあんパン
さっきまでいた
自分の家さえ
ドヤワヤと
ジオラマのように
波に呑まれて
消えてゆく

消防団員のお兄ちゃんは
大丈夫、
すぐにまた会えるからと
町の角で僕に笑顔で手を振り
それから二度と帰らなかった     


お兄ちゃんとよく
寄ったコンビニにも
波が押し寄せて
沢山のおにぎりが
海に流されて
あの日、
何があったのか
わからないまま、
僕はコンビニの
跡地にいまも、
ひとり佇んでいる

陸に押し上げられた
船はサビついたまま
海へ帰ることはない

小学校のグランドでは
生徒たちが点呼と整列
を繰り返すなかで
学校ごと波に
さらわれた

整列は津波のなかで
く・だ・け・ち・っ・た砕け散った

仮設住宅が作られて
仮設の商店街が出来
仮染めの日常を
取り戻す

その傍らでは
花壇を作り
お花の種子を
蒔いている
人々がいる

僕には何が出来るの

そういえば、
泥だらけの
写真を水で
綺麗に流して
洗濯バサミで
留めてお日様に
干している人々が
いるらしい

写真は幸せのハンカチ
みたいに風にパタパタ
はためいて誰かの
迎えを待っている
僕も行ってみようかな
手伝ってみようかな
大切な人にもういちど
めぐり逢うために

あなたと一緒に行ったコスモス畑



#詩のようなもの
#大切な人

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