山椒魚

お水を飲むのが苦手なのには
おかしな理由がある

思い当たるのは
たしか 小学生の頃

祖母の家の近く
山あいの道の脇に
湯呑みが置かれ 誰でも
喉を潤すことができる場があり
私が水を汲んだら 偶然
小さなサンショウウオが
入ってきたのだった
湯呑みの中での ひと泳ぎ
すぐに 逃がした

お正月のお昼 箱根駅伝をやっている日
従姉が 辛口のカレーを作るのが 
恒例だった 完成し
お水要るよね と声を掛けてきても
遠慮した

レストランなどで
どうぞと テーブルにお水を置かれて
グラスの外側に水滴がつき
中の氷が溶けてきても
なかなか 口をつけることができず

失礼にならないように
どうにか 飲み終えた途端
おかわりを お入れしましょうと
お店の方がどこからともなく現れるのには
正直困った

もちろん お店の方にすれば
普通のサービスの範疇で
あくまでも 私の事情

ここ数年 安心して
出されたお水を
美味しく飲める場があった
旧知のご夫妻のどちらかが
出してくださるので
そこに サンショウウオの幻が
紛れる筈がないのだった

あの時 湯呑みから出ていった後
やがて 淵の主になったのだろうか
どれほど長生きしたのか
少しばかり 気になる



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