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『嘆きの壁』 【オヤジの観察 #10】

皆さんは新車にスリキズを付けた経験をお持ちであろうか?

ついうっかりガリッとやったときの落胆、後悔、怒り、購入間もない時期の高揚感も相まって、無残なスリキズは物理的損失以上の喪失感を与える。
さらに、キズの修理には多額の費用がかかり、放置すれば、目に触れるキズ跡にコロナウイルにも似た後遺症に苦しめられることとなる。


スリ傷事故

ピカピカの新車

車は乗れれば充分と突っ張ってきた
大衆車を10年、10万キロ乗り続けるのはあたりまえ、
20才も年下の部下に「その車、いつまで乗るんスか?」と皮肉られたが、
つくり笑いで耐えてきた。 
オヤジが定年退職を迎えたように車も年を取り、塗装の一部は変色、ヘッドライトも白内障のように白く濁ってきた。
周りと比べても一際、老化が目立つ、妻まで恥ずかしいと言い出した。
そろそろ、こいつも定年か?

そんなオヤジが一生に一度最後の贅沢と思って身分不相応な車に買い替えた。
見栄も張りたかったし、コロナ禍の鬱積も手伝って背丈以上に背伸びした。
待ちに待って6ヶ月、ピカピカ真っ白に輝く新車の存在感は抜群、
ハンドルにはたくさんのボタン、シートも電動で動く、
車に無関心を装いながらも長い間あこがれていた装備だ。
十数年ぶりの新車特有のニオイがまた格別、
思わずシートやダッシュボードに頬ずりしたくなる。
シートに座りハンドルを握ると、何か自分自身が特別な存在になったような錯覚さえ覚える。
新車を見せびらかしたいオヤジ、周りの視線が気になってしょうがない。

オープンセール

同じその頃、近所の住宅街にあった店舗兼住宅のケーキ屋さん、人気があって店舗拡大のため、少し離れた大きな通り沿いに店を移すことになった。
オープンセールは、特価のケーキセットに記念品が付いて、先着300名。
目新しいもの、そして、お得情報には誰より目ざといオヤジ、
ワクワク気分でお店に向かった😊。
警備員まで付けて、すでに広めの駐車場はいっぱい、入りきれない車が道路に1,2台待っているという状況だった。
少し待って、警備員の誘導で駐車場に車を停め店内へ、窓が広く白で統一された店内は明るくて清潔感がある。
新しいユニフォームに身を包んだ店員が、種類の異なるケーキ4個に記念品のクッキーと紅茶が付いたセットを手渡してくれた。
限定先着300名を1500円で勝ち取った。
新しい店内もしっかり確認した。

キズを負った愛車

満足、満足😁」、得した気分で車道に出ようとしたそのとき、
右手の交差点の影から車が猛スピードで飛び出してきた😨。
信号が赤に変わりかけていて、交差点の向こうは下り坂、
走ってくる車が確認しづらい状況ではあった。
ビックリして思わずハンドルを左に切ったら、
何かに乗り上げたような感触とガリッという鈍い音
歩道の縁石の角に車の左ドア下をこすったのだ😱。

瞬時に吹き飛ぶオープンセールのお得感、
代わって襲ってくる喪失感、脱力感、後悔、
さらに怒りの矛先はあらぬ方向へと向かっていく😠。
虚脱状態で帰宅、オヤジの涙が染み込んだケーキは思い切りしお味でありました😭。
お店の前を通ると目に入る高い縁石、
条件反射的に愛車のキズを思い起こさせる。 
車だけでなく、オヤジの心もかなり重症を負ったようだ😢。


『嘆きの壁』

といっても、エルサレムにある城壁のことではない。
実は愛車スリキズ事件(前置き)で、ある壁のことを思い出したので、ようやく本題。

オヤジの実家近くに通称『嘆きの壁』と呼ばれるブロック塀がある。
その塀があるのは市道から古い住宅街に入る車一台がようやく通れる程度の狭い道路の三叉路角の一軒家。
高さ2mほどの壁面は敷地いっぱいにまで張り出して圧迫感を感じる。
市道の左車線からその道路に入る時は右車線に大きくふくらんで、逆に、その道路から市道に出るときには車体がその道路からほぼ出てからハンドルを切らないとボディを壁の角にこすってしまう。
ブロック壁の角には無数のキズ跡が残っている。
近隣の人達がいつのころからか、この壁を『嘆きの壁』と呼ぶようになった。
市道は交通量が多いので、この狭い道路に出入りするとき、
焦って、ハンドル操作を誤ることが多い。
せめて、この壁の角が直角ではなく45度で、30cmでも後ろだったら、
多くの車は負傷することなく済んだはずだ。

近隣住民の声

嘆きの壁』を見ながら、小声で話す近隣住民の声が聞こえてきた。(オヤジの空想です)

「俺、この前、この角で擦ったんだ。新車だよ、欲しかった車、1ヶ月前に納入されたばかり。これまで長い間、中古の軽で我慢してね、毎月の貯金でようやく頭金作って5年ローンで購入したんだ。そんな、俺にとっては宝物のような新車に傷をつけちまった。自分の体が切られて、血が噴き出したような気分だったよ。」
「その気持ちわかるな。実は俺の親も、この角で車を擦ったことがある。市道を右折しようとしたら両側から来る車が見えて、出るには微妙な距離だったのであわててハンドルを切ったら、ガリッとやったらしい。」
「ほら見てよ、すごい数の傷跡。この壁はこれだけ多くの車を傷つけて、その数だけの恨み、怒りを買ってるってことだよね。まさに『嘆きの壁』か。」
「塀は敷地ギリギリまでなんだけど、建物はずいぶん奥に建ってるだろう。これだけ建物と塀の間に余裕があるんだから少しは塀の位置をずらしてもよかったのにね。 この壁に多くの人に恨み、怒りが取りついていると思うと怖いね。」
「この家の人は『嘆きの壁』をどう思ってるのかなー? もし、気付いてるのなら、自分に責任がないとはいえ嫌だとおもうんだよね。親戚なり、知人なり、だれか助言してあげればいいのにね。」

古い住宅街には未だ、このように狭く車が曲がりにくい道が多い
実家は取り壊して、オヤジはもうこの道を通ることはない。
最後に見たのは10年以上も前のこと、時々、スリキズの残るブロック塀を見かけては『嘆きの壁』を思い出す。


『嘆きのゲート』

嘆き』続きで、近くにある大学病院の駐車場、以前は無料だったが、約20年ぶりに行ってみると有料に変わっていた。
都会にある病院ならいざしらず、田舎の立地で病院目的以外に駐車場の利用なんてあり得ないのに、有料にしたことが非常に疑問、というか、不満。

さらに不満なのは駐車場出入口のゲート、接続する道路からゲートまでの距離があまりにも短くて、左車線から入って発券機から駐車券を取ろうとすると、右車線に大きくふくらまないと発券機に近づくことができない。
微妙な距離感をうまくつかめなくて、ゲートに斜めに入り、勝負とばかりにハンドルを切り発券機にゴツン。敗北感に涙した人も多かろう。
発券機のボディには車の先端をぶつけたのであろう無数の傷跡が恨めし気に残っている
こちらは『嘆きの壁』ならぬ『嘆きのゲート』というところか?

道路からの距離が短すぎる駐車場のゲート

広大な敷地の駐車場、車で一杯になることなどありえない。
敷地のごく一部を使って、ゲートの位置を3m奥にするだけで、多くの車から恨みを買うこともなく、通院の人達にあらぬ精神的・金銭的負担を強いることはなかった。
病院に通う人達、さまざまな病状、事情がおありだろうが、けっして明るい気持ちで来院する人は多くないはずだ。
年金暮らしで治療費の工面に苦労している高齢者もいる。
不安な気持ちを抱えて病院へと向かう時にゲートで「ゴツン」、考えただけでも辛すぎる。

スーパーよりも狭い駐車幅に、進入距離が極端に短いゲート、一部しか利用されていない広大な駐車場にはあまりにも不釣合い。
何を根拠にショッピンングモールにも劣らない数の駐車スペース、狭い駐車枠の幅が決められたのか?
どのようなノウハウ・基準を元にゲートの位置が決められたのか?
駐車場有料化に向けたデザインは病院だけでなく、設計施工会社、機器設備業者など多くの関係者が関与して最終決定に至ったはずだ。
はたして、利用者目線で検討・協議がなされたのだろうか? 

最近、オヤジはこの病院に来院する頻度が以前にも増して増えた。
次回の通院、「ご意見箱」に投稿してみようかな?


なにかの事故、事件が発生する度、被害者の方々の「今後、二度と私達と同じ悲劇が繰り返されないように、・・・徹底的な原因調査、改善を願う。」という言葉を耳にする。
程度は違えど、車のスリキズも一種の事故、今回紹介したのと同じような状況はあちこちで散見される。

本当に過去の失敗、反省って生かされているのかな🤔?
たかがスリキズ、されどスリキズ、人によっては受ける痛手も大きい。

オヤジは未だ建築士の受験生、付属設備といえども、車の接触回避など細部にまでこだわるプロの設計を見せていただきたいな。


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