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マンションの人々 【オヤジの観察 #9】

駅から徒歩10分の約500世帯が住む大きなマンション、街の暮らしやすさが評価されて、子育て世代を中心に老若男女、外国人にいたるまで実にさまざまな人々が暮らしている。
挨拶する人、しない人、挨拶しても無視する人、ルールを守る人、守らない人、見た目だけでなくそれぞれの個性も行動もさまざまだ。 
 
このマンションに移り住んで約6年、個人的なお付合いはほとんどないが、顔を合わせると挨拶を交わしたり、なにかのきっかけで立ち話をすることがある。

子供とおじいさん

マンションに隣接する街区公園、休日や放課後に多くの子供達が遊び、一緒に楽しむ父兄も散見される。
散歩の帰り、公園を横目にマンションに向かっていると、小柄な子供がおじいさんを相手にバッティングの練習をやっていた。 
おそらく、おじいさんの孫なのだろう。

ジャストミート

パッコーン』 きれいなスイングでジャストミート、見事にライナー性の放物線を描いて公園の端までボールが飛んで行った。
遠目にも、子供が純粋に興奮し、歓喜に輝く表情がはっきりと見てとれた。
その直後、子供は片手にバットを握ったまま両手を挙げて、公園の端にころがるボールに向かって全速力で走りだした。

ボールをジャストミートするこども

 まるで映画の1シーンを見ているような情景だった。
あっぱれなバッティングと子供の一連の行動、表情があまりにも印象的だったので、しばらく見守っていると、子供はまだ興奮冷めやらぬ表情でボールを手に取って戻ってきた。
子供は満面の笑みでおじいさんを見上げる。
声は届いて来なかったが、おじいさんが子供の頭を撫でながら「最高のバッティングだったよ」と褒めている様子だった。
子供はバッティングの感触に味を占めて、まだまだ練習を続けるのかと思ったら、それを最後におじいさんと共に帰ろうとしている。
野球小僧だったオヤジにとって、この展開は予想外、もう少し、子供のバッティングをじっくり見せてほしかった。
マンションに戻りエレベーターに乗ろうとすると、子供とおじいさんが追いついてきて一緒になった。
子供は打った時の感触がまだ手に残っているのか? にこやかに興奮気味、おじいさんは子供をやさしく見守っている。

『最後の1打』 に 『二人の観客』

「ナイスバッティング!」
子供のにこやかな表情を見て、無意識のうちに声をかけていた。
子供は、はにかみながらもうれしそう、おじいさんはオヤジの一言に驚いている。
見てらっしゃったんですか?
「たまたま通りかかったら、すばらしい打球を飛ばしたのでビックリしましたよ。子供とは思えない腰の入ったきれいなバッティングフォームでしたね。」
本当にいい打球だったな。」おじいさんは子供に声をかける。
「この子は今度、小学校の2年生に上がるんです。 実は、あの打球までまったく打てなかったんですよ。 それで、あれを最後という約束でやったら、たまたま最後の最後に当たりました。しかも、見ていてくれた方がいたなんて、この子もなおさらうれしいでしょう。」
「はい、しっかり観客が二人いたんですよ。」
子供は私達を見上げてうれしそうだ。
私達が先にエレベーターを降りると子供が笑顔で手を振ってくれた。
おじいさんは満足気な表情で頭を下げている。

エレベーターでのごく短時間の生活の一コマ、わずかの交流だが、時に心地よく、時に気分を害し、その後の気持ちに影響を与えることもある。

自宅に戻り、オヤジの気分も若干高揚していた。 
よくぞ、エレベーターで一緒になってくれた。
子供に一言、声をかけれたことが嬉しかったのか?
心地よい余韻に浸っていた。
普段、『挨拶した、しない』 でブツブツ小言の多いオヤジにしては珍しいことだ。

オヤジが『そのこども』だったら?

余韻にまかせて、しばし、『そのこども』目線で先ほどまでの情景を思い起こしながら空想を膨らませていた。

『最後の1球、見える、ボールが大きく見える。
思い切り振ってやる。
パッコーン
当たったバットの真芯、完璧😲。
ヤッター! あんなに遠くまで、公園の端まで届くなんて。
こんな一発初めてチョー気持ちいい😆!』

・・・思わず、全速力でボールを追いかけていた。・・・

『うれしいなー、おじいちゃんもビックリしてる。
最後に完璧の一発、よかったー😄。』

・・・おじいちゃんが僕の頭を撫でて、我が事のように喜んでくれた。・・・

『本当はもう少しやりたいけど、今日はこれで終わり、
早く家に帰ってお父さんとお母さんに話そう。
頭をなでて、褒めてもらえるかな?』

・・・マンションのエレベーターに乗ったら、見知らぬおじさんとおばさんが一緒だった。
突然、おじさんが僕の方を向いて「ナイスバッティング」って声をかけてきた。 おじいちゃんもビックリしてた。・・・

『僕のバッティングを見てくれていたんだ。うれしいなー😄。
人に見てもらって、褒めてもらえるって気持ちいいなー😄。
僕も大谷翔平のようになれるかなー?』

モチベーション

いくらいいパフォーマンスをしても、見てくれる人がいる、いないでモチベーションは大違い
自らの一言に酔いしれ、空想するオヤジ、
ナイスバッティング」、
この一言が子供のやる気につながったら嬉しいんだけどなー。
 
”マンションの人々” の1組目、予想外に長くなったので今回はこれで終わり。 他の人々はのちほど。

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