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「満洲」GWの物語は、空である

南信州新聞連載作品「満洲-お国を何百里-」第5話は「空を飛ぶ女」。
この登場人物は実在しており、物語はフィクションではなく伝記にならない程度に史実を拾いながら、実際の生涯に肉付けするストーリーです。思えばフル創作の多かった本編で、8割方が史実に寄り添う一篇は初めてになるかも知れません。

松本キク。のちに結婚して西崎キクとなるこの女性は、連続テレビ小説「雲のじゅうたん」のモデルとされた女性パイロットの一人とされます。

埼玉県上里町。平成初頭、工場勤務で旧岡部町で働いていた夢酔にとっては、馴染の深い群馬県境の町である。神流川を挟んで、滝川一益と北条勢が戦さに及んだ場所があるといえばピンとくるマニアもいるでしょう。関越自動車道にはSAもありますし。
今回の作品は、この地ゆかりの人物が主人公になります。まあ、南信州エキスが薄いですけど、旧満洲のエピソードを濃くする意味合いで取り上げてみました。

西崎キク、旧姓松本。通称・きく子。
埼玉県児玉郡七本木村(現上里町)の出身。小学校教員だったが生徒を引率して訪れた群馬県太田市の尾島飛行場で飛行機に魅せられ、航空を志す。
昭和6年(1931)、小学校を退職し飛行学校に入学、昭和8年(1933)二等飛行操縦士免許を取得する。
昭和9年(1934)、日本人女性パイロットとして初めて自ら操縦し、満州国建国親善飛行のため海外渡航を行なう。
愛機はサルムソン2A2型陸上機「白菊号」。日本人女性飛行士として初の海外渡航を実現した偉業を称え、この年10月、航空関係者をたたえるハーモン・トロフィーを受賞する。少なくとも日本では冷ややかな偉業への視線だったが、世界は純粋にこれを認めていたのである。
ハーモン・トロフィー(Harmon Trophy)は、その年度の最優飛行士に贈られるもの。ジャンルは男性飛行士(aviator)、女性飛行士(aviatrix)、気球または飛行船操縦士(aeronaut)に与えられる3種類だった。また、1926年から1938年までの期間のみ、4番目のトロフィー「ナショナル・トロフィー」が存在し、21の参加国それぞれの卓越したパイロットに与えられた。その後1946年から1948年の短期間、航空に貢献したアメリカ人が表彰された。1968年(1969年授与)からは宇宙飛行士(astronaut)のジャンルも追加されている。
西崎キクの前年に受賞された者の中には、アン・モロー・リンドバーグの名前もある。
昭和12年(1937)7月、樺太豊原市(当時)市制施行を記念するため第二白菊号による女性操縦士長距離飛行が計画され、西崎キクがパイロットとして選ばれた。しかし機体アクシデントのため津軽海峡で墜落し貨物船に救助されたことをきっかけに、世間の風は女性を操縦から遠ざけるものとなった。こののちも飛び続けるために、西崎キクは陸軍に飛行兵として志願するが実現に至らず。結果、空を飛ぶ道を断たれてしまう。
その後の半生が、満洲に関わって来るのである。
 
「空を飛ぶ女」
旧満洲の物語、こうご期待。