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《青い炎》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十五の歌~

《青い炎》原作相模
もう、何日会ってへんのやろ、うちら。
もう、うちのこと飽きたんやろか?
あの時、あんなに愛してるって言ってたのに……。
『SAGAMIって右大将の君にふられたんやて』
女房溜まりから聞こえてきた、そんな噂話。
……あたまのなか、まっ白……。

<承前六十四の歌>
そして、寝衾と酒を式子との間に置くと定家は隠れるようにして几帳裏から忍び出た。
「式子様もこのように寝衾の内にはいりなされませ」
定家は綾絹の衾に身を包んで言う。
「式子は何も身に纏っていません」
「定家もおなじにござります」
「恨みわび ほさぬ袖だに あるものを恋に朽ちなむ 名こそ惜しけれ。噂になってもかまいませぬか?」
式子はそう言うが早いか寝衾に身を差し入れてきた。
「式子様も定家もすっかり評判を落としてしまいましょう。同じ温みを分け合った者にしか解らぬ心根もありましょう程に噂の事など気にしませぬ」
式子は定家の落ち着き払った風姿に眼を瞠った。
<後続六十六の歌>


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