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《おばあちゃん、待っててな!》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十三の歌~

《おばあちゃん、待っててな!》原作:左京大夫道雅
「おばあちゃん、何ボーっとしてるん?」
「べつに何でもあらへんえ。」
「嘘や。好きなひとのこと想ってたんやろ?」
「……何、言うてんの? 年寄りをからかうもんやあらへん。」
「孫のウチかて女や。そのくらい分かるわ。左京のおっちゃんやろ、あいてのひとは?」
「もう、ええんよ。あきらめたさかいに。」
「だめや、そんなん! 一度会って、ちゃんと直接想い伝えな、一生後悔するし!」
「そんな方法あらへん。」
「大丈夫、ウチが今から行って話してくるから!」
「あっ! ちょっと、京子、京子!! お待ち!!!」

<承前六十二の歌>
式子は几帳の影で大きく開脚してみせた。
「式子様、そのようにあらわな……」
定家の心臓は飛び出しそうだった。
 「今はただ 思ひ絶えなむ とばかりを 人づてならで いふよしもがな」
式子は不意に背中を向け灯りを吹き消した。
「式子は一度、定家様との恋を諦めました。けれども、この身がそれを許しませぬ。それゆえ、こうしてはしたなくも心のままお会いさせていただいております」
式子は甘い声音でゆっくりと語った。
そこに濡れ縁の辺りで宿直の女房の声がした。
<後続六十四の歌> 

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