渡良瀬 遥

生きた証に何かを残してゆきたいと思って、NOTEに参加しています。時代遅れの物語ばかり…

渡良瀬 遥

生きた証に何かを残してゆきたいと思って、NOTEに参加しています。時代遅れの物語ばかりであまりおもしろくはないかもしれませんね。自己満足? それでもいいかなって、歳を考えれば。

マガジン

  • 嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞シリーズ

    藤原定家の小倉百人一首の和歌を原作にして、自由気ままに読み下してシリーズ化したものです。前日譚から後日譚まで合計102話になる予定です。

  • 気ままな写真集

    街中にある面白い物達の写真を短い語りを加えて集めてゆきたいと思っています。

  • 渡良瀬 遥のSTORIES MUST GO  ON

    投稿した物語を集めています。息苦しい世の中ですが、このマガジンの中だけは温かい優しい人々の幸せな世界を描いてゆきたいと思っています。ご興味のある方はよろしくどうぞ。

記事一覧

《ノー天気に嵐吹く》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十九の歌~ 

《ノー天気に嵐吹く》原作:能因法師 「三室の神さん、また、女の尻追いかけてんやて。」 「そうなん? 今度は誰?」 「立田川のもみじ葉姫やて。」 「まぁ、もみじ葉姫っ…

渡良瀬 遥
8時間前
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《夜半の月》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十八の歌~

《夜半の月》原作:三条院 ……素面やで、酒は目の前にあるけど。 笑うてくれや、お月さん。 嬶(かかあ)が先に逝きよって、もう3年や。 こんな爺が長生きして、しようも…

《浮かれ女》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十七の歌~

《浮かれ女》原作:周防内侍 春の夜、夢のように 貴方の腕に抱かれている。 朧月に夜桜が蒼く染まる……。 いけない夜鳴鳥が貴方とうちの事を騒ぎ立てても べつにかまわ…

《はぶてる》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十六の歌~

《はぶてる》原作:前大僧正行尊 「まだまだ、六十歳」いうて騒ごう思うても、 ……体がついてゆかへん。 家のローンがあるさかい仕事辞められんけど、気力はもう続かん。 …

渡良瀬 遥
2週間前
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《青い炎》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十五の歌~

《青い炎》原作:相模 もう、何日会ってへんのやろ、うちら。 もう、うちのこと飽きたんやろか? あの時、あんなに愛してるって言ってたのに……。 『SAGAMIって右大将の君…

渡良瀬 遥
2週間前

《源氏の悲劇》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十四の歌~

《源氏の悲劇》原作:権中納言定頼 接吻の後、泣いた。 宇治の川霧は深く、濃く流れている。 誰にも見られるおそれはない。私は恋してはいけない斎の姫皇女を褥に迎えてい…

渡良瀬 遥
3週間前
1

《おばあちゃん、待っててな!》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十三の歌~

《おばあちゃん、待っててな!》原作:左京大夫道雅 「おばあちゃん、何ボーっとしてるん?」 「べつに何でもあらへんえ。」 「嘘や。好きなひとのこと想ってたんやろ?」 …

渡良瀬 遥
3週間前

《夜をこめて》嵯峨野小倉山荘色紙和歌k異聞~六十二の歌~

《夜をこめて》原作:清少納言 少納言、わしの指で戯れてみたいやろ、悦楽が欲しくはないのんか? ……欲しい、か。今朝はえらく素直なおなごになりよったな。 いいや、恥…

渡良瀬 遥
4週間前
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《八重ちゃん、満開!》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十一の歌~

《八重ちゃん、満開!》原作:伊勢大輔 ♪さくら、さくら、やよひの空はくまなく晴れて……♪ 天平の羽衣を身にまとった八重ちゃんは風の中を泳ぐように歌う。 「……けど…

渡良瀬 遥
4週間前

《黒の舟唄2》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十の歌~

《黒の舟唄2》原作:小式部内侍 「一緒に死んであげる。」 十八歳の小式部は大きな瞳をクリクリさせた。 おでこを俺の額に押し当てて、「ウリウリ、うれしいやろ?」と言…

渡良瀬 遥
1か月前

《Eine kleine Nachtmusic》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十九の歌~

《Eine kleine Nachtmusic》原作:赤染衛門 今夜、行くよ……、なんて、嘘。 いつまでも待ってるわ……、なんて、嘘。 嘘と嘘を掛けあわせれば、月の障りが嬉しい。 純白…

渡良瀬 遥
1か月前
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《YINA》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十八の歌~

《YINA》原作:大弐三位 風が吹けば、ウチの心は笹原のようにざわめく。 それは貴方の呼ぶ声が聞こえる時。YINA,YINA……と。 ウチは風の中から思い出を両手…

渡良瀬 遥
1か月前
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《なんや、なんやて!?》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十七の歌

《なんや、なんやて!?》原作:紫式部 式部はんのこと、どう思うかて? あの方は才女、才媛さかいなぁ……。 お逢いすると気持ちが、ピーンと張るんや。 せやさかい、すぐ…

渡良瀬 遥
1か月前
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《この世のほかの》~嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十六の歌

《この世のほかの》原作:和泉式部 「Ki~nnto~(公任)」 ……あかん、ウチもう黄泉帰りしそうや あんたはもてるさかい、今もどこかできれいな娘と一緒やろな………

渡良瀬 遥
2か月前

《昔の名前で出ています》~嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十五の歌

《昔の名前で出ています》原作:大納言公任 どないや? 久しゅう音沙汰、聞かんけど元気しとんか? ワシのほうはボチボチや。 相変わらず大阪の街はいずりまわってカスぎ…

渡良瀬 遥
2か月前

《今日を限りの》~嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十四の歌 

《今日を限りの》 原作:儀同三司母 陽炎、湧き立つ、その儚い陽盛り 命の限り鳴く蝉の短き夏の激しさ。 花火は夜の静寂の深さに驚き 浴衣の袖を透かして消えた。 うち…

渡良瀬 遥
2か月前
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《ノー天気に嵐吹く》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十九の歌~ 

《ノー天気に嵐吹く》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十九の歌~ 

《ノー天気に嵐吹く》原作:能因法師
「三室の神さん、また、女の尻追いかけてんやて。」
「そうなん? 今度は誰?」
「立田川のもみじ葉姫やて。」
「まぁ、もみじ葉姫って隣組の娘やないの。失礼やわね、同じ組にうちらみたいな美人が居てるいうのに。」
―そこへ三室の神が通りかかる―
「おや? 三室の神さん、どこへ行かはるの? ここに美人がぎょうさん居るよ。」
「わぁ~! 化け物が口きいたぁ。あな恐ろしや、

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《夜半の月》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十八の歌~

《夜半の月》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十八の歌~

《夜半の月》原作:三条院
……素面やで、酒は目の前にあるけど。
笑うてくれや、お月さん。
嬶(かかあ)が先に逝きよって、もう3年や。
こんな爺が長生きして、しようもない事になった。
なぁ、お月さん、あんたはあの時と同じままか?

<承前六十七の歌>
式子と定家は寝衾にくるまったまま杯を重ねた。
心地よい互いの体の温もりと酒のもたらす酔いが二人を溶かしてゆく。
「定家様、ひとさし舞ってくださいませ」

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《浮かれ女》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十七の歌~

《浮かれ女》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十七の歌~

《浮かれ女》原作:周防内侍
春の夜、夢のように
貴方の腕に抱かれている。
朧月に夜桜が蒼く染まる……。
いけない夜鳴鳥が貴方とうちの事を騒ぎ立てても
べつにかまわへん。
うちは浮かれ女。

(注)浮かれ女=うかれめ。歌や舞をして人を楽しませ、また売春もする女。遊女。娼妓(しょうぎ)。あそびめ。

<承前六十六の歌>
「さすれば、このように盃を式子様に奉る」
定家は朱塗りの大ぶりの盃を式子の口

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《はぶてる》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十六の歌~

《はぶてる》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十六の歌~

《はぶてる》原作:前大僧正行尊
「まだまだ、六十歳」いうて騒ごう思うても、
……体がついてゆかへん。
家のローンがあるさかい仕事辞められんけど、気力はもう続かん。
「お互い、あわれやな。」
薄ら寒い春、山桜が散り際に言いつのる。
この先、何してもええ事はないやろ。

(注)はぶてる=「拗ねる」、「いじける」と言う意味。山口県などの地方の方言。

<承前六十五の歌>
「温こうござります、定家様」

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《青い炎》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十五の歌~

《青い炎》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十五の歌~

《青い炎》原作:相模
もう、何日会ってへんのやろ、うちら。
もう、うちのこと飽きたんやろか?
あの時、あんなに愛してるって言ってたのに……。
『SAGAMIって右大将の君にふられたんやて』
女房溜まりから聞こえてきた、そんな噂話。
……あたまのなか、まっ白……。

<承前六十四の歌>
そして、寝衾と酒を式子との間に置くと定家は隠れるようにして几帳裏から忍び出た。
「式子様もこのように寝衾の内にはい

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《源氏の悲劇》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十四の歌~

《源氏の悲劇》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十四の歌~

《源氏の悲劇》原作:権中納言定頼
接吻の後、泣いた。
宇治の川霧は深く、濃く流れている。
誰にも見られるおそれはない。私は恋してはいけない斎の姫皇女を褥に迎えていた。
きつく抱き締められた斎宮は息も絶え絶えに告白する。
「誰かに知られたら、うちらはもうおしまい。たとえ、誰も知らなくてもお陽ィさんだけは知ってはる。どないしたら、ええの、定頼」
露われてしまう恋?
秘めておく恋?
瀬々の網代木が囁く。

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《おばあちゃん、待っててな!》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十三の歌~

《おばあちゃん、待っててな!》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十三の歌~

《おばあちゃん、待っててな!》原作:左京大夫道雅
「おばあちゃん、何ボーっとしてるん?」
「べつに何でもあらへんえ。」
「嘘や。好きなひとのこと想ってたんやろ?」
「……何、言うてんの? 年寄りをからかうもんやあらへん。」
「孫のウチかて女や。そのくらい分かるわ。左京のおっちゃんやろ、あいてのひとは?」
「もう、ええんよ。あきらめたさかいに。」
「だめや、そんなん! 一度会って、ちゃんと直接想い伝

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《夜をこめて》嵯峨野小倉山荘色紙和歌k異聞~六十二の歌~

《夜をこめて》嵯峨野小倉山荘色紙和歌k異聞~六十二の歌~

《夜をこめて》原作:清少納言
少納言、わしの指で戯れてみたいやろ、悦楽が欲しくはないのんか?
……欲しい、か。今朝はえらく素直なおなごになりよったな。
いいや、恥ずかしいことあらへん、いじめてもおらん。
それ、これほどに逢坂の関は開いておるやないか、奥の泉の水もあふれておことの前庭はビショビショに濡れぼそっておる。わしの礼物を受け納めてみよ、わしはそなたの香しい秘水を飲み干してやるほどに。

<承

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《八重ちゃん、満開!》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十一の歌~

《八重ちゃん、満開!》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十一の歌~

《八重ちゃん、満開!》原作:伊勢大輔
♪さくら、さくら、やよひの空はくまなく晴れて……♪
天平の羽衣を身にまとった八重ちゃんは風の中を泳ぐように歌う。
「……けど、それって時代ちゃうんとちゃう?」
遷都1300年。観光客向けの貸衣装。
「エエねん。お空はきれいで、風はすてきやし、服はふわふわ。うち、幸せや!」
紫野生まれの八重ちゃは一人自信たっぷりに頷く。
「せやな、幸せが一番や!八重ちゃん、満開

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《黒の舟唄2》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十の歌~

《黒の舟唄2》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十の歌~

《黒の舟唄2》原作:小式部内侍
「一緒に死んであげる。」
十八歳の小式部は大きな瞳をクリクリさせた。
おでこを俺の額に押し当てて、「ウリウリ、うれしいやろ?」と言う。
さらさらの長い黒髪からシャンプーの香りがした。
俺、十九歳。仕事はあらへんし、酒びたりのオヤジはDV愛好者。
死にぞこないのばあさんはアルツハイマーでヨイヨイ。
母親は見たことない。
生きててもどないしようもあらへん。
この街過ぎて

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《Eine kleine Nachtmusic》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十九の歌~

《Eine kleine Nachtmusic》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十九の歌~

《Eine kleine Nachtmusic》原作:赤染衛門

今夜、行くよ……、なんて、嘘。
いつまでも待ってるわ……、なんて、嘘。
嘘と嘘を掛けあわせれば、月の障りが嬉しい。
純白のシーツを女の経血で染め上げて
貴方を呪ってみたい。

<承前六十八の歌>
几帳の奥で式子は後じさった。
「怖い……、嫌です、定家様」
式子は胸を隠し、太腿を閉じて横を向いた。灯明から沈香の匂いがこぼれる。式子の

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《YINA》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十八の歌~

《YINA》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十八の歌~

《YINA》原作:大弐三位
風が吹けば、ウチの心は笹原のようにざわめく。
それは貴方の呼ぶ声が聞こえる時。YINA,YINA……と。
ウチは風の中から思い出を両手ですくい上げ水晶のようなそれをみつめる。
けど、瞬きのうちに、それは朽ち果てて、冷めた時の盗人に奪われてしもた。
YINA、それは悲しみにくれる女の名前。
<承前>
几帳脇に置かれた麻の布巻を見ると式子は濡れた紅袴の緒をほどき、静かに脱ぎ

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《なんや、なんやて!?》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十七の歌

《なんや、なんやて!?》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十七の歌

《なんや、なんやて!?》原作:紫式部
式部はんのこと、どう思うかて?
あの方は才女、才媛さかいなぁ……。
お逢いすると気持ちが、ピーンと張るんや。
せやさかい、すぐに逃げ出したくなる。
けどな……、エエとこもあって、特にあそこは……、
こちらのあそこがピーンとしとるから……、
……まっ、やめとこ!

<承前>
濡れそぼった直衣から水をしたたらせながら定家は両腕に抱いた式子を見遣った。
「式子様、貴

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《この世のほかの》~嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十六の歌

《この世のほかの》~嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十六の歌

《この世のほかの》原作:和泉式部

「Ki~nnto~(公任)」
……あかん、ウチもう黄泉帰りしそうや
あんたはもてるさかい、今もどこかできれいな娘と一緒やろな……。
彼岸でも、もう二度と会えんでもええから
明日のウチの命日には必ず来てな、Ki~nnto~。

<承前> 
 定家は式子を抱きかかえたまま池から出て、庭の玉石を踏んだ。しずく
がポタポタと定家の夏の直衣からしたたり落ちた。塗れて肌に

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《昔の名前で出ています》~嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十五の歌

《昔の名前で出ています》~嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十五の歌

《昔の名前で出ています》原作:大納言公任

どないや? 久しゅう音沙汰、聞かんけど元気しとんか?
ワシのほうはボチボチや。
相変わらず大阪の街はいずりまわってカスぎょうさん集めて暮らしとるがな。
うだつはあがらんなぁ。
ま、昔の名前で出てるさかい、いっぺん遊びにきいや。
うまい酒、一緒に呑もや。
(注)うだつはあがらん=地位・生活などがよくならない。ぱっとしない。

<承前>
定家の腕の中で震え

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《今日を限りの》~嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十四の歌 

《今日を限りの》~嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十四の歌 

《今日を限りの》 原作:儀同三司母
陽炎、湧き立つ、その儚い陽盛り
命の限り鳴く蝉の短き夏の激しさ。

花火は夜の静寂の深さに驚き
浴衣の袖を透かして消えた。

うちのこと、好きや、と言ってくれた貴方の嘘に、おおきに。
その時、うちはほんまに幸せやった。

<承前>
 地面に蹲り動きを止めた式子に舞い踊っていた黒髪が落ちてきた。狂乱の舞踏は終わったのだ。定家は階を降りて式子に向かって走った。すると

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