渡良瀬 遥

生きた証に何かを残してゆきたいと思って、NOTEに参加しています。時代遅れの物語ばかり…

渡良瀬 遥

生きた証に何かを残してゆきたいと思って、NOTEに参加しています。時代遅れの物語ばかりであまりおもしろくはないかもしれませんね。自己満足? それでもいいかなって、歳を考えれば。

マガジン

  • 嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞シリーズ

    藤原定家の小倉百人一首の和歌を原作にして、自由気ままに読み下してシリーズ化したものです。前日譚から後日譚まで合計102話になる予定です。

  • 気ままな写真集

    街中にある面白い物達の写真を短い語りを加えて集めてゆきたいと思っています。

  • 渡良瀬 遥のSTORIES MUST GO  ON

    投稿した物語を集めています。息苦しい世の中ですが、このマガジンの中だけは温かい優しい人々の幸せな世界を描いてゆきたいと思っています。ご興味のある方はよろしくどうぞ。

最近の記事

《青い炎》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十五の歌~

《青い炎》原作:相模 もう、何日会ってへんのやろ、うちら。 もう、うちのこと飽きたんやろか? あの時、あんなに愛してるって言ってたのに……。 『SAGAMIって右大将の君にふられたんやて』 女房溜まりから聞こえてきた、そんな噂話。 ……あたまのなか、まっ白……。 <承前六十四の歌> そして、寝衾と酒を式子との間に置くと定家は隠れるようにして几帳裏から忍び出た。 「式子様もこのように寝衾の内にはいりなされませ」 定家は綾絹の衾に身を包んで言う。 「式子は何も身に纏っていません

    • 《源氏の悲劇》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十四の歌~

      《源氏の悲劇》原作:権中納言定頼 接吻の後、泣いた。 宇治の川霧は深く、濃く流れている。 誰にも見られるおそれはない。私は恋してはいけない斎の姫皇女を褥に迎えていた。 きつく抱き締められた斎宮は息も絶え絶えに告白する。 「誰かに知られたら、うちらはもうおしまい。たとえ、誰も知らなくてもお陽ィさんだけは知ってはる。どないしたら、ええの、定頼」 露われてしまう恋? 秘めておく恋? 瀬々の網代木が囁く。 <承前六十三の歌> 「定家様、寝衾並び酒(ささ)をお持ちしました。いずこへお

      • 《おばあちゃん、待っててな!》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十三の歌~

        《おばあちゃん、待っててな!》原作:左京大夫道雅 「おばあちゃん、何ボーっとしてるん?」 「べつに何でもあらへんえ。」 「嘘や。好きなひとのこと想ってたんやろ?」 「……何、言うてんの? 年寄りをからかうもんやあらへん。」 「孫のウチかて女や。そのくらい分かるわ。左京のおっちゃんやろ、あいてのひとは?」 「もう、ええんよ。あきらめたさかいに。」 「だめや、そんなん! 一度会って、ちゃんと直接想い伝えな、一生後悔するし!」 「そんな方法あらへん。」 「大丈夫、ウチが今から行って

        • 《夜をこめて》嵯峨野小倉山荘色紙和歌k異聞~六十二の歌~

          《夜をこめて》原作:清少納言 少納言、わしの指で戯れてみたいやろ、悦楽が欲しくはないのんか? ……欲しい、か。今朝はえらく素直なおなごになりよったな。 いいや、恥ずかしいことあらへん、いじめてもおらん。 それ、これほどに逢坂の関は開いておるやないか、奥の泉の水もあふれておことの前庭はビショビショに濡れぼそっておる。わしの礼物を受け納めてみよ、わしはそなたの香しい秘水を飲み干してやるほどに。 <承前六十一の歌> おのれの言葉でおのれを縛ってしまった定家はフッとため息をついて

        《青い炎》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十五の歌~

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        • 嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞シリーズ
          66本
        • 気ままな写真集
          8本
        • 渡良瀬 遥のSTORIES MUST GO  ON
          10本

        記事

          《八重ちゃん、満開!》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十一の歌~

          《八重ちゃん、満開!》原作:伊勢大輔 ♪さくら、さくら、やよひの空はくまなく晴れて……♪ 天平の羽衣を身にまとった八重ちゃんは風の中を泳ぐように歌う。 「……けど、それって時代ちゃうんとちゃう?」 遷都1300年。観光客向けの貸衣装。 「エエねん。お空はきれいで、風はすてきやし、服はふわふわ。うち、幸せや!」 紫野生まれの八重ちゃは一人自信たっぷりに頷く。 「せやな、幸せが一番や!八重ちゃん、満開!」 (注)ちゃんうんとちゃう?=違うのと違いますか? <承前六十の歌> 定家

          《八重ちゃん、満開!》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十一の歌~

          《黒の舟唄2》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十の歌~

          《黒の舟唄2》原作:小式部内侍 「一緒に死んであげる。」 十八歳の小式部は大きな瞳をクリクリさせた。 おでこを俺の額に押し当てて、「ウリウリ、うれしいやろ?」と言う。 さらさらの長い黒髪からシャンプーの香りがした。 俺、十九歳。仕事はあらへんし、酒びたりのオヤジはDV愛好者。 死にぞこないのばあさんはアルツハイマーでヨイヨイ。 母親は見たことない。 生きててもどないしようもあらへん。 この街過ぎて、あの山こえて、闇夜に船出して、二人で逝こうか。 その先は、わからへんけど……。

          《黒の舟唄2》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十の歌~

          《Eine kleine Nachtmusic》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十九の歌~

          《Eine kleine Nachtmusic》原作:赤染衛門 今夜、行くよ……、なんて、嘘。 いつまでも待ってるわ……、なんて、嘘。 嘘と嘘を掛けあわせれば、月の障りが嬉しい。 純白のシーツを女の経血で染め上げて 貴方を呪ってみたい。 <承前六十八の歌> 几帳の奥で式子は後じさった。 「怖い……、嫌です、定家様」 式子は胸を隠し、太腿を閉じて横を向いた。灯明から沈香の匂いがこぼれる。式子の裸体はほの暗い明かりの中でゆらゆらと揺れた。 定家は式子の言葉に驚く。 「怖がら

          《Eine kleine Nachtmusic》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十九の歌~

          《YINA》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十八の歌~

          《YINA》原作:大弐三位 風が吹けば、ウチの心は笹原のようにざわめく。 それは貴方の呼ぶ声が聞こえる時。YINA,YINA……と。 ウチは風の中から思い出を両手ですくい上げ水晶のようなそれをみつめる。 けど、瞬きのうちに、それは朽ち果てて、冷めた時の盗人に奪われてしもた。 YINA、それは悲しみにくれる女の名前。 <承前> 几帳脇に置かれた麻の布巻を見ると式子は濡れた紅袴の緒をほどき、静かに脱ぎ捨てる。そして、白小袖を身体からさらりと滑らせた。灯明の明かりが几帳の向こうに式

          《YINA》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十八の歌~

          《なんや、なんやて!?》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十七の歌

          《なんや、なんやて!?》原作:紫式部 式部はんのこと、どう思うかて? あの方は才女、才媛さかいなぁ……。 お逢いすると気持ちが、ピーンと張るんや。 せやさかい、すぐに逃げ出したくなる。 けどな……、エエとこもあって、特にあそこは……、 こちらのあそこがピーンとしとるから……、 ……まっ、やめとこ! <承前> 濡れそぼった直衣から水をしたたらせながら定家は両腕に抱いた式子を見遣った。 「式子様、貴女の禊ぎは終わられました。御身は清浄な気に満たされております」 定家はそう呟き、

          《なんや、なんやて!?》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十七の歌

          《この世のほかの》~嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十六の歌

          《この世のほかの》原作:和泉式部 「Ki~nnto~(公任)」 ……あかん、ウチもう黄泉帰りしそうや あんたはもてるさかい、今もどこかできれいな娘と一緒やろな……。 彼岸でも、もう二度と会えんでもええから 明日のウチの命日には必ず来てな、Ki~nnto~。 <承前>   定家は式子を抱きかかえたまま池から出て、庭の玉石を踏んだ。しずく がポタポタと定家の夏の直衣からしたたり落ちた。塗れて肌に張り付いた衣を透かして式子の白桃色の乳房を月明かりが照らす。乳首が固く凝って衣を

          《この世のほかの》~嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十六の歌

          《昔の名前で出ています》~嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十五の歌

          《昔の名前で出ています》原作:大納言公任 どないや? 久しゅう音沙汰、聞かんけど元気しとんか? ワシのほうはボチボチや。 相変わらず大阪の街はいずりまわってカスぎょうさん集めて暮らしとるがな。 うだつはあがらんなぁ。 ま、昔の名前で出てるさかい、いっぺん遊びにきいや。 うまい酒、一緒に呑もや。 (注)うだつはあがらん=地位・生活などがよくならない。ぱっとしない。 <承前> 定家の腕の中で震えていた式子は、ふと預けていた身体を離し涙ながらに告げた。 「定家様、式子は身も心

          《昔の名前で出ています》~嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十五の歌

          《今日を限りの》~嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十四の歌 

          《今日を限りの》 原作:儀同三司母 陽炎、湧き立つ、その儚い陽盛り 命の限り鳴く蝉の短き夏の激しさ。 花火は夜の静寂の深さに驚き 浴衣の袖を透かして消えた。 うちのこと、好きや、と言ってくれた貴方の嘘に、おおきに。 その時、うちはほんまに幸せやった。 <承前>  地面に蹲り動きを止めた式子に舞い踊っていた黒髪が落ちてきた。狂乱の舞踏は終わったのだ。定家は階を降りて式子に向かって走った。すると、式子は立ち上がり両手を差し伸ばす。それは定家を迎え入れようとする式子の懇願の姿

          《今日を限りの》~嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十四の歌 

          《天命記Ⅴ》~嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十三の歌 

          《天命記Ⅴ》 原作:右大将道綱母 人妻のウチをこないに嘆かせるアンタは罪な男(ひと)や。 隣に寝てるこの子かて、ほんまはアンタの……。 夫は今夜もいない。アンタをひたすら想う。 左の乳房を揉みしだき、凝った乳首をねじり絞れば 女の肉(み)の熟れて張りつめた身体に 痙攣がはしる。 ……夜明けまでは、まだ、永い……。 <承前>  定家が色紙を手にして膝行して式子ににじり寄ろうとすると、式子は突然、スッと立ち上がり、定家の手から色紙を取り上げた。そして、定家の耳元に紅をひいた唇を

          《天命記Ⅴ》~嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十三の歌 

          《潮騒》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十二の歌~

          《潮騒》原作:藤原道信朝臣 寝ても覚めても、明けても暮れても アンタのことばかり……。 須磨の浜辺で一人想う。 「お姉ちゃん、泣いとんの?」見知らぬ男の子が覗き込む。 「ううん、泣いてへん。なんでもあらへん」 ウチは立ち上がって朝靄の海峡を見やった。 ……夏の海、笑顔は似合わへん。 <以下、物語> 式子「明けぬれば 暮るるものとは 知りながら なほ恨めしき 朝ぼらけかな。夜が明ければやがて必ず日が暮れる。それと同じ。あなたに会える日のあまりの嬉しさに心舞い踊る。でも、不意に

          《潮騒》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十二の歌~

          《燃ゆる思ひを》~嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十一の歌

          《燃ゆる思ひを》 原作:藤原実方朝臣 ♪六甲おろしに、さっそうとー♪ 「おっ、六甲おろしや。今日は勝ちやな。」 「いけ~! 球児! 三振とったれ! こら! クソ巨人、おまえらがナンボのもんじゃ!」 「……すっごい応援やな~。わいらもいっちょいくか! それ! あと一球、あと一球!」 ーーまゆみちゃん、愛しとるで! 今やからほんとの事言うわ!! 俺、愛しとんで! ほんまやで!!!ーー 「なんや気のせいかドサクサにまぎれて、今へんな応援聞こえんかったか?」 *2010年当時の阪神タ

          《燃ゆる思ひを》~嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十一の歌

          《まっ、エエか。あいつにツケといて》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十の歌~

          《まっ、エエか。あいつにツケといて》原作:藤原義孝 「わぁ~、どないしょ?!」 「なんや、どないしたんや?」 「あの娘から、つきおうてもええってメール来たがな! わぁ~い! もう、死ぬなんてでけへんで!」 「えっ! おい、どこ行くんや? あかんがな、かってにお店飛び出したら! 勘定まだやで!」 「この店、高いんやで。誰がアイソすんね!? 難儀なやっちゃな、死ぬ言うてみたり、死なれん言うたり……、まっええか、女将さん、勘定はあいつにツケといて」  (注)アイソ=支払いのこと。ツ

          《まっ、エエか。あいつにツケといて》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十の歌~