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「中空構造日本の深層」とは?

日本人らしい「独自の考え方」があるだろうか・・・
西洋人と異なる「日本らしいリーダー像」があるのではないか・・・
政治家の姿勢が問題になっているが、何が欠けているのだろうか・・・
これを、「心理学の観点」から見直したらどうなるか・・・
パワーよりバランスという考え方はどこから来るか・・・

       河合さんの「立ち位置」・・・

河合さんは、「内向的性格」・「外交的性格」で有名なユングの心理学を研究する学者として、沢山の著作を通し、私たちに大きな影響を与えている。
彼は、「心理学の観点」で、歴史・社会・伝統・文化などを分析して、学問を私たちの生活に結び付けてくれたが学者である。
心理学の観点から「日本人の精神構造」を分析しているから、河合さんが指摘する日本の独特の「心理構造」を紹介する価値があると思っている・・・

       河合隼雄さんが指摘した観点は

日本を代表する心理学者「河合隼雄」さんの「中空構造日本の深層」は、
日本人の心理構造を明確に分析してくれる名著である。
今回は、河合先生の観点を基点として考えてみたい・・・。

       原風景は『古事記』にある

河合さんは、日本人の心理の原風景は『古事記』にあるという。
だから、『古事記』に記されている日本の神々を通して
「日本人の心の構造」を明らかにしようと試みたのだ。

出発点は、天孫「ニニギ」と「コノハナサクヤヒメ」との間に生まれた3人の子どもである。この中の海彦・山彦の2人は「存在感が旺盛」であるが、もう一人火須勢理命(ほすせりのみこと)は「無為の存在」である。

この「無為の神」こそ、日本的な「中空性」を示すものであり、
「空であり無」である。そのゆえに、日本人の思想、宗教、社会構造などのプロトタイプであると河合さんはいうのである・・・。

<チョット寄り道>
古事記にある日本神話は、かなり創作の臭いがしますが、エピソードの積み重ねですから、楽しく面白いです。
そもそも、稗田阿礼という人間が存在したか、否かも、学問的に言えば異論があるところですが、古事記を抜きにして「日本人論」は語れないのですから、貴重です。
私は「令和という元号と日本神話の裏話」のブログで、基本的なエピソードを書きましたので、参考にお読みくだされば幸いです。楽しいですよ。

        日本人の心の中心は「空」である

 日本人の心の中心が「空」であることが、私たちの行動様式を決めているという。つまり私たちが「決定的な戦いを避ける」・「対立するものの共存を許す」という日本人らしい態度の根底は、「空」が存在するからである。この「中を空っぽにする」ということが、日本人の行動を決めているというのである。

この「中空構造」は、日本人の考え方だけでなく、政治、宗教、社会構造などに当てはまるという。振り返ると、確かに私たちは「極端より、バランス」を大切にしていることに気がつく。
私たちは、日常生活でも、左派・右派の極端に振れるより、中間のバランスを取ることを尊重している。
だから、真ん中にいるものは,中を「空」にしておかないとバランスが取れないということである。

            「対立」 か 「バランス」 か

企業・組織・学校という大きな集団だけでなく、
小さなグループでも、業務を遂行するとき、リーダーシップを発揮する立場の人が『パワーよりもバランスだ』と痛感する場面が沢山ある。
河合さんは著作の中で、次のように述べている・・・

『ある組織内における長の役割、その在り方などをを考えてみると、
西洋の場合は、文字通りのリーダーとして、自らの力によって全体を統率し、導いてゆくものが主流である。
これに対して、日本の場合の長は、リーダーというよりはむしろ世話役というべき
であり、自らの力に頼るのではなく、全体のバランスを測ることが大切であり、必ずしも力や権威を持つ必要がないのである』     
       「中空構造日本の深層」(河合隼雄著) 中公文庫 59~60頁

なるほど、日本のリーダーは「世話役か
確かに、力による統率を進めるリーダーは、必ず「挫折」する。
織田信長が典型的な例であるが、私の身近にも多い。
徳川家康は世話役のイメージが強い。
秀吉は独裁者の印象だ。
それに、プーチン・習近平・トランプも、世話役ではない。

日本でも、最近の政治をみると、西欧式に「対立」を強調する政治が支配的になっている.。特に、気配りなど、日本式の「バランス・共存」を尊重しない政治手法が横行している。

そのために、いろいろな「摩擦」「事件」「反発」があったが、すべて「対立するもの」として、批判を切り捨てて、押し切ってきた・・・
たえず、対立する基軸を立てて、自分の正当性を強調する手法である。

しかし突然、1本の釘が抜かれたら、一挙にバランスが崩壊し、政策集団であるはずの派閥が混乱している状態は、目を覆いたくなるほどである。

        あるべきリーダーとは・・・

企業・組織・学校という大きな集団だけでなく、日常の小さなグループでも、業務を遂行するときのリーダーシップの取り方は難しい。
そこでは『パワーよりもバランスだ』と、全員の参加者に合意を求めるあまり、会議が長引く場面が沢山ある。

「頭脳で引っ張っていくリーダー」は、信頼がなくなれば早期に失速する。私の体験からも、多くの事例がある。
町工場の親爺さん型のリーダー」は、好まれるが、人柄の良さが先行し、論理性に欠ける。良いブレーンがいて、「よいしょ」してくれないと失敗する・・・これも露骨である。
「両方ができるリーダー」は、「独裁者」になって失脚する。徳が必要だ!
しかし、この徳が難しい。だから、現在でも孔子の『論語』が好まれる。
徳は学習できないからである。
政治家の場合は、権力に溺れ、徳がない人は「引き際」がみじめになる。    

        男性原理と女性原理

「男性原理」・「女性原理」という観点も興味深い。

男性原理は、ものごとを切断する機能を主とし、「切断」によって分類されたものごとを明確にするものであり、
女性原理は、「結合」し融合する機能を主とし、ものごとを全体の中に包括するものである、という。
 
西欧には、「男性→太陽→精神→能動」・「女性→月→肉体→受動」、という対応的な二つの軸によってあらゆる事象を秩序づける考え方が存在する。が、日本神話では、「女性→太陽」、「男性→月」という結びつきが見られるという。
ギリシャ神話のゼウス(男性)と,古事記のアマテラス(女性)の違いだろう。

つまり、日本神話は「対立」ではなく、微妙な「混合」によってバランスがとられているところに特徴があるというのである。
この『バランス』こそ、日本人の心理構造の独自性であるというのである。

       バランスは一種の弁証法である

 日本神話は、対立的に、「どちらが優位を獲得」しているのではない。
バランスは「一種の弁証法」である。いいかえると、中空巡回形式で「空位を体得」する論理になっているという。

これが日本人の心の構造であり、「均衡の論理」であるというのである。
つまり、地位あるいは場所はあるが、『実体も働きもない中心』があって、相対立する力を「適当に均衡あらしめる」というのである。

       「統率力」・「世話役」

『日本にも時にリーダー型のが現れるときがあるが、多くの場合、それは長続きせず、失脚することになる。日本においては、は、たとい刀や能力を有するとしても、それに頼らずに無為であることが理想とされる』
「俺が」「俺が」・・・耳が痛い人がいるだろう。
この際、自分は「統率型」なのか「世話役型」なのかを振り返ってみると、新しい発見があると思う。

私は「発信型」と「調整型」とに分けてリーダー像を示し
「自分はどちらのタイプのリーダーか」を考えてみようと、イベントで提案することが多いが、案外、無自覚・無意識の人が多い。
それだけ、中途半端の人が多いのかもしれない。(笑い)
数値目標に拘ったりしてね。(苦笑)

        中空構造が危機に瀕している 

 また河合さんは
『現在のように国際間の交流が激しくなり、西洋の文化に触れる機会が増大すると、父性と母性のバランスを保つ日本的な中空構造が「危機」に立っている。
このような時にあって、「私たちは中空構造を意識する必要がある」という。自分のモデルに矛盾するものは「組織外に排除することがない」からである。書店に行ってみると、西欧式のリーダー論を書いた書籍が多く並んでいる。そして、河合さんのような内容を説く書籍は少ない・・・
昨今の「成果主義の横行」を見ると、当然なのかも知れない。

     世界平和のために「中空構造」を広めよう!

いま世界は非常に危険な状態にある。
中東の争い、ウクライナの侵攻。自国中心主義、排他的な価値観・・・
世界のリーダーを自認している人たちの「対立」が問題の根底にあることは「誰でも知っていること」である。

辛うじて「戦争の抑止力」になっていることは「核戦争になったら、人類は滅びる」という恐怖である。これは、知性でも不安でもない。

「出口なし」という状態を変更させるには「中空構造」の考え方を広めることが最上だと考える。

タテ割りの権力構造としての「世界政府がない」のだから、機能マヒに陥っている国際連合に期待することはできない。
日本文化の特徴を、世界思想に広め「対立よりバランス」の価値観を、積極的にアピールする時だと、私は思っている・・・。



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