黒羽カラス
硬派なエッセイ、ふにゃふにゃの雑文。 幅広く揃えています。主にカンの賜物です。 お時間がある時にどうぞ。
近未来の長編小説になります。 酒呑童子と八尺様の間に生まれた翠子さんが、 怪異を引き寄せては無双状態になります。 ギャグテイストの波乱の日常をお楽しみください。
過去の自分や他の誰かの心に寄り添った詩を置いています。 心から零れ落ちた一滴、あなたの心の一部を潤しますように。
一人の神が気紛れで介入したことにより、 家族単位でダンジョンに取り込まれます。 まるでゲームのような世界を家族は助け合いながら攻略します。 地下に潜る程に絆が強まる、その様子を軽やかに描きました。
日常や現代ファンタジーの小説が多く含まれています。 たまに過酷なファンタジーもありますが、楽観的な作者の書くものです。 最後はきれいに纏まって読後は良いような気がします、たぶんですが。
平日の昼日中、縁側に胡坐を掻いてビールを飲んでいた。庭で育てている農作物は強い陽光に晒されてぐったりした様子だった。 手前にあるキュウリの葉はことごとく萎れてフレアスカートのように波打つ。隠されていた中身がよく見える。やや曲がったキュウリが何本もぶら下がっていた。今年は豊作で毎朝、二、三本の収穫があった。 サラダと称してボリボリと先端を齧る。味付けはマヨネーズ、または塩。食べ飽きる頃に浅漬けにした。 出た野菜クズは庭の端にあるコンポストに纏めて入れた。たまに沸く虫には
小説投稿サイトは数多くあります。黒羽カラスの筆名で「note」、「カクヨム」、「小説家になろう」に作品を置いています。 熱心に書いているサイトで言えばもう一つ、「ノクターンノベルズ」になります。主な読者は男性で、とにかくエロに特化して書かないとウケない仕様になっています、たぶんですが。 そこで私はド直球のタイトルで書き始めました。 https://novel18.syosetu.com/n2645in/ タイトルはずばり「まずはセックスから始めよう」です。筆名を少
ベッドで目覚めた時田翠子はのんびりと上体を起こす。両腕を思い切り左右に広げて伸びをした。一気に力を緩めると安らいだ表情へと変わる。 「おはよう~」 横手に目を向けると、そこには誰もいなかった。座卓には昨晩に空けたビールの缶が身を寄せ合っていた。 コツンと自身の頭を小突き、ベッドから降りた。冷蔵庫に直行して高カロリーを謳うドリンクを一気に飲み干す。クシャと握り潰してゴミ箱に投げ入れた。 グレーのスーツに着替えて早々に部屋を出る。外では白い特攻服を着た仙石竜司が控えていた
土曜日の朝を迎えた。 時田翠子は黒のパンツスーツを着て玄関に佇む。 その隣には時田赤子が微妙に揺れながら立っていた。藤紫の小紋に金茶の帯を合わせた。 「赤子は行きたくないのです。死刑宣告は聞きたくないのです」 「お父様に呼ばれて拒否できる?」 「そのような無礼な行動には出られないのです。でも、赤子は拒みたい気分で一杯なのです」 翠子は赤子の頭にふわりと手を置いた。髪を整えるように万遍なく撫でる。揺れ幅が小さくなった。 「見た目と違ってお父様の懐は深いわ。話せばわかって
小説ではできない表現なんだよ マジで酔っ払って適当なんだよ 何で酔ってんのかって話だよ そりゃいろいろあるわけなんだよ 派手なニュースよりも控え目なんだよ 友人の長男が車中で練炭自殺したんだよ 友達や親に借金して それでも死んだんだよ なんで俺に頼らなかったんだ それがプライドかよ 死んだら終わりだろ 来世なんて誰も知らないだろ それなら今を精一杯 生きるしかないだろ なんで死を選んだ ガキの頃から知っている俺を 頼って命綱にしてもよかっただろ ふざけんなよ もう お前
立ち飲み屋に時田翠子の姿があった。会社帰りにぶらりと立ち寄ったような濃紺のパンツスーツを着用。L字型のカウンターの端で注文したタコのぶつ切りを添え物のワカメと一緒に口に入れる。数回の咀嚼でコップ酒を掴み、喉を鳴らして飲んだ。 軽く息を吐いた。やおらスーツのポケットを弄り、取り出したスマートフォンを耳に当てた。 「どうかした?」 「また単独行動のようです」 真横にいた半透明の仙石竜司が渋い顔で答える。 「仕事に打ち込む姿勢は悪くないと思うけど」 通話の姿勢を崩さず、翠子
時田翠子はベッドで仰向けに寝ていた。唇が咀嚼するような動きを見せる。瞬く間に表情が緩んだ。 「……トン、カ、ツ……メンチ、カツ……コンカツ……う、うう……」 寝言の最後の単語が引き金となって苦しげな表情に変わる。子供が嫌がるような仕草で顔を左右に振った。首の付け根がグキッと鳴って目覚めた。 瞬間、掛布団が吹き飛ぶ勢いで上体を起こす。ショートの髪を振り乱して周囲に目をやる。 自宅のマンションの一室は仄明るい。カーテンの合わせ目から光が漏れていた。雀の囀りも聞こえる。
夜の世界に更なる暗さが訪れた。街を華やかに照らしていた狐火は荒廃した地に未練がましく残る鬼火のようだった。 「終わったようだぞ」 酒呑童子は世界の中心に向かう。その巨躯に隠れるようにして三人が続く。 竜司は明かりで点々と映し出される残骸に目を向けた。 「原形が残っていないどころか、粉々だな」 「これが姉様の力……」 赤子は微かに震えた。真紅の着物の襟を正す。 二人とは別に天邪鬼は笑顔を見せる。弾むような足取りで付いてきた。 「お姉様の圧倒的な力に惚れ惚れしました。チ
跳躍で畳の一部が爆ぜた。玉藻前の膳が吹き飛び、女性が片膝を突いた状態で現れた。瞬時に赤子を奪い取って脇に抱える。 「返して貰うぞ、女狐」 玉藻前の金色の眼が下方に流れ、鉤爪を振るう前に女性は神速で消えた。 翠子は両腕を下ろした状態で歩き始める。肩口から赤銅色の巨大な腕を生やす。大広間が狭く感じられるくらいに広げて足を速めた。 その姿を一瞥した女性は目を見開く。感嘆に近い声を漏らし、即座に切り替えて横手に走る。棒立ちで震えていた竜司の特攻服の襟を引っ掴んで背負った。 「
朝陽を受けた明るいキッチンで三人がテーブルを囲む。欠けた一人の椅子に自然と視線が集まる。 冨子は力なく目を戻した。自身の手前にある大皿のオムライスを眺めた。大粒の涙が零れ落ちる。傍らのスプーンを手に取ると端の部分を掬って口に運んだ。 口を動かしながらグショグショの顔で笑う。 「慶太が、大好きな……オムライス……美味しい、よ……」 「……あんた、本当に」 出そうな言葉を涙と共に呑み込む。茜は大皿を持ち上げるとスプーンを使って掻っ込んだ。 直道は無人の椅子を見つめる。い
冨子はようやく泣き止んだ。袖で目をゴシゴシと擦る。直道が両腕を下ろすと茜は目を逸らし、それとなく離れた。 「説明して貰いたい」 直道が少年に向かって言った。 「そのつもりだよ」 少年は赤い絨毯を歩き、玉座の間の中央に立った。急に両膝を曲げると瞬時に現れた椅子が受け止めた。ほぼ同時に長方形のテーブルと三脚の椅子が一気に出揃う。 「良い感じだよね」 直道は少年の左手の椅子に腰掛けた。右手には冨子。最後に少年と向き合う形で茜が椅子に座った。 「この位置は落ち着くね」 「どう
小路は緩やかに曲がり、次第に幅が狭くなる。翠子は走る速度を上げて先頭に出た。 「このワンピースはいかんぞ」 女性はずり落ちる虎柄のパンツを胸まで引っ張り上げた。両手を離すことが出来ず、翠子の真後ろに付けた。 「い、息が、上がる、なんでだ……」 自慢のリーゼントを乱し、竜司は必死の形相で二人を追い掛ける。 女性はくるりと向きを変えた。後ろ向きの状態でにこやかに笑う。 「久しぶりの身体に手こずっているようだな」 「こんなに、キツイとは、思いません、でした」 「小僧、前線に
一行の顔が引き締まる。 階段を降りた先は宮殿の通路に等しい。鮮やかな赤の絨毯は奥の暗がりに続いている。左右には白い石柱が等間隔で聳え、間には白銀の甲冑を着込んだ騎士像が厳かに佇んでいた。 「魔王をやっつけたご褒美かなー」 冨子は一体の甲冑をしげしげと見つめる。傍らにいた直道は視線を上げた。天井の高さに感じ入る。 ハムは前脚で絨毯の感触を確かめた。 「上物だ! 俺様の為に用意された栄光の道に違いないぞ!」 茜は奥の暗がりを黙して眺める。思慮深い顔は周りの楽観的な声に崩
背後から迫る危機を引き離し、三人は入り組んだ小路を駆け抜ける。 「酒のあとの走り込みは回るぞ」 女性は幸せそうな顔で走る。目は両側に建ち並ぶ家々に向けられた。 並走していた翠子は尻目に見て声を荒げる。 「誰のせいよ! それと見えてる!」 「そりゃ、見えるだろう」 「引き上げろ! 胸が丸出しなのよ!」 少し後ろを走っていた仙石竜司が、え、と嬉しそうな声を漏らす。 「今、追い付いてきたらあんたの股間を握り潰す!」 「そ、そんなこと、考えてもいないですよ! 俺は今も昔も硬派
地の底に引きずり込むような螺旋階段を歩いた。二度目の体験で慣れたのか。誰も文句を言わず、黙って足を動かした。 長い行程を経て一行は土色の大地に降り立った。 一方から場違いな拍手が起こる。かなり先に小さな人影が見えた。 茜は限界まで目を細めた。 「ここからだとよくわからないけど、なんか腹立つ」 「見下す感じがするー? 私にも見えないねー」 ハムは冨子の横にきて言った。 「目を閉じていれば見えないぞ」 「はい?」 ゆらりと頭を動かして斜め下を見る。糸目を僅かに開いて微
竹林の中の石畳は巨大な白蛇のようなうねりを見せる。両脇の石灯籠には儚げな火が灯り、仄暗い奥へと導く。 茜は息を呑んで立ち尽くす。強い瞬きで我に返ると後ろに目をやる。上りの階段はダンジョンの名残りをとどめていた。 「外かと思った」 「なんか懐かしい感じがするよねー」 冨子は横手の直道に顔を向ける。背筋を伸ばし、趣のある竹林の道を眺めていた。 「私の記憶にある風景とは少し違う」 「私には差がよくわからないけどー」 「妙なところだ」 ハムは左右を見てカツカツと歩き出す。興味