上田映劇さんで『オスカー・ピーターソン』と『枯れ葉』の観賞会をしました
以前よりちょくちょく出かけている、長野県上田市の、古い古い素敵な劇場『上田映劇』さんで観た映画2本の感想をまとめた記事を作りました
上田映劇さんについては、よろしければこちらの過去記事をご覧下さい
『オスカー・ピーターソン』
こちらの作品は、カナダ出身のジャズピアニスト、オスカー・ピーターソン氏の伝記映画です
ジャズというジャンルは好きだし聞くこともありますが、ジャズをBGMに採用してるアニメのサントラを聞くとか、あるいは音楽配信アプリ等で公開されているプレイリストをそのまま、ながらで聞く形でしか摂取をしてこなかったので、正直なところジャズってもんに疎い人間でした
そのため、オスカー・ピーターソン氏の作られた音楽や、どういう奏者さんなのかも何も知らないで出かけたもんですから、氏の神業の超絶技巧の演奏を目の当たりにして、それはもう鳥肌が立ちました
上田映劇さんは小規模の映画館なので、それこそライブを観ているかのようにこれでもかとジャズを浴びることができて嬉しかったです
人が楽器を演奏されている姿って、そりゃあ魅力的ですが、それをジャズというジャンルで見てこなかった、耳でしか摂取してこなかったわけで、
だから、オスカー・ピーターソン氏とその盟友の皆さんたちの息の合った当意即妙のプレイってもんがめちゃくちゃ格好いいです! 素敵です! と心の中でペンライトを振りたい気持ちでいました
しかしながら、ドキュメンタリーとしてはやや物足りない印象でした
公式の映画解説にあるような、3度の離婚や人種差別への戦いについてはそこまでの掘り下げはありませんでしたし、オスカー・ピーターソン氏に縁の人物が次々に現れて、氏の人となりや業績、そしてどんな演奏者だったのかを熱く語り、演奏を聞かせてくれて、その合間に氏の映像や演奏が流れる趣向の映画なので、氏そのもののコンテンツのボリュームがもっと欲しいな~と感じました
でも大事なのは音楽そのものだし、むしろずっと音楽だけでも良かったのかも
こちらは今年発売されたばかりのアルバムです
『枯れ葉』
フィンランドのヘルシンキを舞台にした大人の、というよりは中年の男女の恋の映画
アキ・カウリスマキ監督の映画は初めて観たんですが、みんなこんな感じなんだろうか
わりとどうという事のない話で、ストーリーにも起伏はないし、意外な展開もない、登場人物の数は少なく、複雑な人間模様が描かれる訳でもなく、主軸となる2人の男女は辛い労働環境で生活している、つまりはごくごく一般的な普通の人です
でも、悲壮感とか苦境に立たされてる雰囲気はあんまり無くて、ずっと不思議に淡々と、黙々と働いて日々糧を得ている
大人の恋愛とか、市井の人のたくましさとか、そこに潜む美しさとか、それを感じる映画! という観方も出来そうなんですが、何と言うか…それよりは、ちょっとした変なシーンの面白さが幾重にも重なっているのがいいんです
縁あって女性の方が引き取った犬くんが可愛いとか、2人が出かけた映画館でせっかく『気狂いピエロ』が上演されてたけど、謎のゾンビ映画を見ていたとか、それを女性の方はすごく真剣に観てたとか、男性の方の元職場の同僚さんがすごいおもしれー男だったとか、女性の元職場の同僚との絆と軽口の叩きあいが、めっぽういい雰囲気だったり、要所要所で流れる楽曲がストレートにそのシーンでの人物の心情を歌ってる演出で、そんなに直球なことするの凄いなって感じたり、あとメインの男女ふたりの名前が中盤まで明らかにならないところも何かいいですね
ちなみに女性はアンサ、男性はホラッパ、という名前です
アンサは普段は凄い無愛想だけど辛抱強い働き者で、愛情深い性格であることとか、時折みせてくれる笑顔や速すぎるウィンクが素晴らしいとか、ホラッパはアル中で仕事が長続き出来ないしょうもない奴だけど、出会えたアンサと再会するために一途に彼女を待ち続けるし、そもそも最初に積極的に口説いてきたの偉いぞ、あと酒断ちしたのも偉いぞって思ったり
何でもないストーリーなのに、あっちもこっちも気になる、反芻してしまうところがたくさんある、噛み締めたくなる、いつまでも味が無くならないガムみたいな映画、でしょうか
美味しいというよりは、「なんかずっと噛んじゃうんだよな…」みたいな
人は選ぶし、美味いから食べて! って勧めづらい映画ではあります でもしみじみといい映画
エンディングも良かったですね
秋の枯れ葉が舞う公園を歩くふたりと犬と、シャンソンの名曲の『枯れ葉』が流れる結末って、ど直球すぎて凄い、素敵やんって思います
心に余裕のある人じゃないと、楽しめないかも知れない
いや、悩みがある人には逆に刺さったりするのかも、そのあたりも迷います
ところで、一緒に観に行った人と話したんですが
冒頭でアンサが仕事から帰って、食事をレンジ調理したら失敗してゴミ箱に捨ててしまったシーンで、それはそれとして他の食べ物なにか食べればいいのに…仕事から帰って何も食べないで寝るの無理ですよね…とか
食器とかも同じゴミ箱に入れてたけど、分別どうなっとんの、北欧はリサイクルのための分別先進国ではないのか…とか
現代の映画であるはず(ロシア軍のウクライナ侵攻のニュースがラジオで繰り返し流れる)だけど、ふたりともシンプルな携帯しか持ってなくてスマホではないようだし、テレビが作中に出てきてないせいで1950年くらいに見えるなあとか、あの2人は交際しても早晩うまく行かなくなるよね(主としてホラッパの酒のせいで)とか、
細かいところにあっちこっち言及したくなる映画だったので、感想がどうにもモヤっとしてしまうのでした
観賞後の感覚は清々しいんですけどね
あとこちらは、上田映劇内のネーム入りシートです
誰でも自由に座れる席ですが、特別会員になるとネームプレートの命名権が手に入るそうです
ところで、余談なのですが
今回は実家の母と一緒に映画を観に行ったのですが、その道中の車内で、以前母と観に行きたいと話していた映画『落下の解剖学』を、母はひとりで観に出かけちゃって、それが面白かったらしく、どんなストーリーで、作中の裁判の内容がどんな結末になったのか、わりと一通り洗いざらい、丁寧に説明してくれたんです
自分は、母がノって喋ってる時は遮らず聞き役に徹するという誓いを立てているので、ネタバレだろうが大人しくそのまま聞いた、という珍事がありました
『落下の解剖学』はおそらくネタバレに強い作品でもありそうですし、『枯れ葉』にこういう(映画のネタバレをされるがそれを流す)場面があっても良さそうだな、なんて思ったりもしました
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