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Episode.1 苗字いじめ【侑久side】

 俺の名は、源侑久みなもとゆきひさ。最初に忠告しておく。俺は源頼朝と何の関係もない。だが、こんな忠告しても同級生が俺の苗字をいじり、苛めてくる。
みなもとの! 放課後残り勉強するなよ! 政子が待っているだろう?」
同級生がイジる。俺は席を勢いよく立ち上がり、その同級生の胸ぐらを掴み
「114514回言っただろ! 俺は源頼朝とは一切関係ないってな!」
俺は沖縄県出身で、元々は沖縄特有の苗字だったのだが沖縄独自の読み方でもあり内地で馬鹿にされた。それで父方の祖父(曾祖父)が、苗字を変えたらしい。俺の祖父は渡嘉敷とかしき出身で、渡嘉敷では戦争で何もかも無くなった。住民票だって焼かれた。だから、苗字を変えることも容易だったのだろう。
「異母兄弟の首、どんなして取ったんだ?」
別の同級生がまたいじりにくる。ちなみに、俺は一人っ子だ。
「俺は兄弟居ないし」
俺は小声で呟く。そして俺はこのいじりで心に深いダメージを負う。ガラスのハートが飴細工で作られたの如く、パリンと音を立て、割れていく。
 源家。俺は両親の都合で父方の兄の家に居候させてもらっている。伯父の哲三てつぞうさんと伯母の深麻みまさんは、快く受け入れてくれて、2人の間に出来た娘2人(従姉)も俺を『本当の弟』のように可愛がってくれた。今は、沖縄からは引っ越して内地の『花京院中学校』に通っている。まぁ、そこでいじめられているけど。特に、数多くいじめをしたのは野球部員の上西兎和うえにしとわと、田沢曜悟たざわようご大田竜馬おおたたつまである。担任の岩田直大いわたなおと先生が懲らしめてくれるが、また違う方法で苛めてくる。そして帰宅するなり、俺は高校3年の珠音たまねネーネー(沖縄では姉を意味する)に抱きつく。
「また同じ野球部員にいじめられたの?」
珠音ネーネーは、俺の頭を撫でる。ちなみに、俺が従姉のことネーネー呼んでいる理由は、苗字が同じだからだ。
「私もう我慢できない! 中学校に電話する!」
中学3年生の音海ねいネーネーが固定電話の受話器を手に取る。
「待って! 音海」
珠音ネーネーが止める。
「何で止めるの?」
音海ネーネーが首を傾げる。
「ゆっきーが泣き止んだら、教える」
俺は従姉、親族、両親からは『ゆっきー』と呼ばれている。由来は母方の母(祖母)が当時から5年後に事務所名変えたところに居た人のグループが好きで同じ響きでつけたらしい。
 数時間後。俺は悪者のフリをさせられている。
「ガハハ! お前の悪者エネルギーで俺様はさらにパワーアップした! 今からめちゃくちゃにしてやる!」
俺が悪者っぽいセリフを言うと、
「それはその私が許さない!」
珠音ネーネーと音海ネーネーが、フリルなどが着いたまるで幼女が好むような衣装を着て、魔法少女が持っていそうな杖を構えて、俺に戦いを挑む。それで、その後俺は倒される。これで俺はいじめの記憶が消される。これが毎日繰り返される。2人とも受験期なのに、可愛い弟を悲しませたくなくてやってくれている。俺が従姉にシスコン心を向けるのも、無理はないのか。
 花京院中学校休み時間。俺は兎和に筆箱を取られた。
「お前の筆箱、可愛すぎるだろ! 女子か!」
俺は取り返しに行く。今は、期末試験の予想問題を解いていた。珠音ネーネーと音海ネーネーが作ってくれた。
「返せ! 姉から貰ったんだ!」
俺は、姉と言ってしまった。
《しくった! いつもネーネー言っていたから……従姉なのに》
それを聞いた兎和は曜悟と竜馬と顔を見合わせ
「嘘つきはこうしてやる」
兎和は生ゴミのゴミ箱に俺の筆箱を放り投げる。
《何で俺は、苗字関連でいじめられなきゃいけないの?》
言っておくと、兎和やったことは窃盗でありれっきとした犯罪だ。
 数分後。
「退いてくれない?」
誰かが話しかけてくる。
「もう俺に暴言を吐かないでくれ」
俺は手で頭を覆う。
「いや、ゴミを捨てに行きたいから」
その誰かは、マスクと手袋をしていた。そして隣のクラスの生徒だ。生ゴミ担当なのだろうか。
「生ゴミの中に、筆箱が埋もれているはずだから取ってくれない?」
俺はその生徒に頼む。
「分かった」
その生徒は、生ゴミの中に手を突っ込む。手袋しているから匂いは付かない。
「これか?」
ピンクで塗装された可愛い筆箱を取り出してくれた。
「ありがとう! えーっと、名前は?」
俺はお礼の後には、名前を言う主義だ。
長田畳ながたじょうだ」
畳は、生ゴミの入ったゴミ袋を背負い教室を去っていく。
 放課後。俺は炭酸飲料を学校近くの自販機で買い、一杯飲む。すると、一緒に歩いていた畳が
「姉が居るのか?」
と。聞いてきた。俺は飲んでいた炭酸飲料を吹いてしまった。
「ゲホッ! ゲホッ! 気になる?」
俺は吹いた拍子に咳が出てしまった。
「まあな……俺様一人っ子だから」
畳も一人っ子らしい。
「俺も一人っ子……従姉のこと苗字同じだから『姉』って呼んでいるの」
俺は従姉のことを説明した。すると、畳が足を止めた。
「どうしたの? 畳」
俺が振り向くと、畳は俺の肩を掴み
「従姉に合わせてくれ」
と。頼む。
「分かった……じゃあ、少しコンビニ寄ろう」
俺と畳は、コンビニへ向かう。
 コンビニエンスストア花京院中学校前店。俺は公衆電話の受話器を手に取り、従姉の家に電話をかける。
「もしもし? ネーネー?」
俺は珠音ネーネーと電話で話す。
『どうしたの? ゆっきー』
珠音ネーネーが問いかける。
「今から、友達連れて帰るからさ……服着といて」
俺は命令する。
『分かった』
俺は電話を切る。
「お前の従姉、変態へんたいなの?」
畳が問いかける。
「変態っていうより、裸族らぞくって言えばいいのかも……」
実は、伯父一家は皆家の中では服着ないで全裸で過ごしている。唯一、服着ているのは俺だけだ。
 源家。
「ただいま」
俺はドアを開け、帰ってくる。
「おかえり!」
珠音ネーネーと音海ネーネーが、私服姿で招いてくれた。畳は固まっている。ネーネーを見て硬直したのだろうか。
「珠音ネーネー、部屋借りるよ」
俺は硬直した畳を連れて、珠音ネーネーの部屋へ行く。
 珠音ネーネーの部屋。
「従姉、どうだった?」
俺は硬直から解かれた畳に聞く。
「美人で清楚だった」
畳はそのままの答えが返ってくる。実は、従姉は近所では『美人姉妹』と呼ばれ有名である。
「茶菓子持ってきたよ!」
音海ネーネーは、もう服を脱いでお茶と菓子を持ってきた。畳は目を見開いて驚いている。
「お客さんいる時は、服着ろ!」
俺は従姉の前でもタメ口使う。年が上でも。音海ネーネーとは一歳差でしか変わらない。
 春休み、旬愚堂前。俺はいきなり、畳に
『旬愚堂前に来て!』
と。LEADで呼ばれた。俺は息を切らしながら走って畳と合流した。
「いきなり、本屋に連れてきて何の用?」
俺が聞くと、畳は
「気付かんの?」
と。問いかける。俺は
「は? 何が?」
いきなりの問いかけに疑問の声を漏らす。
「侑久さ、美人で清楚な姉2人もいるのにデートしたこと無いのか?」
畳が俺に聞く。多分『恋愛に鈍感』だと思っているのだ。
「完全インドア派の俺が、ネーネーと出かけたことはありませんよ」
俺がネーネーと出かけた事ないと言うと
「そんな鈍感な侑久のために、本を買うためにここに来させた」
畳は俺の袖を引っ張り旬愚堂に入店する。
 旬愚堂2階、少女ノベルコーナー。畳に連れて来られたのは、可愛い女の子が沢山描かれたコーナーだ。
「可愛い……」
俺は2次元の絵の娘を見て、可愛く思える。一方、畳は絵の娘なんかに目もくれず本を漁る。
「これがいいな!」
畳が手に取ったのは、ライトノベルサイズの本。背表紙に『スペース出版社運営りんご畑』と書かれている。すると、畳は俺にその本と千円札を渡す。
「表紙が乙女チックだから、カバーしてもらって……余った金で昼飯奢れよ」
畳はレジへ誘導する。俺は本のタイトルを見る
『花びらが散る頃に 作:心愛アヤメ』
と。俺は帰宅後、本を読んでみた。何度も胸がキュンキュンした。そして俺が進級して受験まで後一ヶ月を切った頃、伯父一家は沖縄に戻り俺は一人になった。レイノウイルスの影響で高校は一ヶ月弱休みに。俺は楽しい日々を過ごしていた。実は、俺は同じ学校にいる女子生徒が(恋愛の観点からして)嫌いだった。なんか可愛げがなくて、下ネタを平気で言う、男みたいな女って感じだった。古い考えかもしれないが、女らしい女が俺の恋愛対象だ。さっき記述したような女子は俺としては恋愛対象外。そして高校生のクラス会の時に好みの女子を見つけた。その女子生徒の名は、亀山仁和。

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